4 コンドル・ラチ 2
村に到着すると、クシの帰りを待ち侘びた人々が周囲を取り囲んだ。
「たいした奴だ!!」 人々は歓声を挙げた。
「僕一人で捕まえたんじゃないんだ。この人たちが手伝ってくれたんだ。」 クシはワイラたちを紹介した。人々は口々に礼を述べた。
「このコンドルと比べたら、村長の雄牛など骨と皮だけのように見えてしまうのう。」
立派なコンドルを見て安心した老人が言った。クシの祖父だ。雄牛というとがっしりとした体格を思わせるが、村一番の村長の雄牛でもそれほどたくましい体つきではなかった。クシの捕まえたコンドルは、それだけ村人たちを安心させた。
和やかな雰囲気を壊すように、人垣を分け、ワイラたちの前に一組の親子が現れた。村長とその息子であった。
「アウカル……」 クシがその少年の方をみてつぶいた。村長はコンドルを見て、 口惜しそうに言った。
「お前によくこんなコンドルが捕まえられたな。」
アウカルはクシの足元に唾を吐いた。少年も村長もワイラたちには目がいっていなかった。クシは余計なことは言わなかった。
「明日の正午、広場でな」
村長親子はそう言い残してその場を去った。
ワイラたちはクシの家に歓迎された。コンドルは納屋に繋がれた。クシは老人と2人暮らしであった。老人は再びワイラたちに礼を述べた。
「負けたら、おじいさんのような人までミタに行かされるんですか?」
ワイラが訊ねた。
「多分な。人手が不足しておるからのう。お上には逆らえんが、あるお方の計らいでここまでこぎつけたんじゃ」
「あるお方って?」
「この村には、もう、おりゃせんよ。今頃どの辺を旅しておるのかのう……。お前さんたちは出会わなかったかのう……」
老人の話によると、正義の味方とも呼ばれるその者は、大商人のようであった。
「どうせなら、このバカ気たことをやめさせるまで、残ってくれれば良かったのに」
短気なアトゥックが口を挟んだ。
「何を言うか、ここまで計らってくれただけでも感謝をせねば。わしらが何人束になったところで奴らにはかなわんからのう。あの方がおらなんだら、わしらは今頃、天に召されておるわい」
その夜、ワイラたちは久しぶりに屋根の下でぐっすりと眠った。
「大変だ!! コンドルが死んでる!!!」
血相を変えたクシが飛び込んできた。クシの声と、入り口から差し込んできたまぶしい朝の光でワイラたちは夢路から目が覚めた。
「何だって!!!」
納屋へ急ぐと、藁にまみれてコンドルがぐったりと横たわっていた。コンドルの死骸を見た老人は、その場で気を失ってしまった。
「おじいさん!!」サミが駆け寄った。ワイラたちはサミに老人を任せ、 コンドルを観察していた。コンドルは胃液を吐いたのか、頭と体の一部が濡れていた。
犯人は……?
「アウカルだ!!」 クシが叫んだ。
「あいつが、毒を飲ませたんだ」
このコンドルにどうやって毒を飲ませたのかはさておき、体が傷つけられた跡は見当たらない。この多量に吐かれた胃液から、それは間違いなかった。クシは家を飛び出した。ワイラたちも後を追った。
村長の家は、他のインディオたちのそれとは違い、瓦葺きの屋根だった。庭先でアウカルが牛と戯れていた。
「アウカル、おまえだろう……」
クシは怒りを通り越し、情けなさで涙声になっていた。
「何のことだ。」
アウカルは知らぬ顔で、牛の顔を木の枝でなでていた。
「コンドルに毒を飲ませたのはお前だろう? こんなことして、そんなに僕たちの困る顔が見たいのか!!」
「証拠はあるのか?」
アウカルは平然と言った。クシは何も答えられなかった。ワイラたちも口添えしてやりたかったができなかった。アウカルは勝ち誇った顔で、沈黙する三人を凝視していた。
「証拠ならあるわ」
サミの声だ。ワイラとアトゥックはサミのいつもと違う態度に驚いた。サミはワイラたちの後ろに、一人の男を連れて立っていた。
「この人が、クシの家の納屋から、あなたが飛び出してくるのを見たそうよ。そうでしょ?」
男はしどろもどろしていた。
「どうしたの? 私にははっきり言ってくれたじゃない」
男は、自分の立場を考えて恐ろしくなったのか、はっきりとしない態度を示した。
「見たのか、ムニャイ?」
アウカルは男を睨みつけた。外の異変に気づき、村長と、ちょうどその場に居合わせたコレヒドールも顔を現した。
「何の騒ぎだね。」
「父さん、俺がコンドルを殺したって、こいつらが言うんだ。ムニャイが証人だってね」
村長は一瞬、目尻を綻ばせた。コンドルの死を聞いてやっかいなことがなくなったとでも思ったのだろう。
「ムニャイ、どういうことなんだ。説明してもらおう」
村長は息子以上に、睨みをきかせた。ムニャイは金縛りにでもあったように、声一つ発せずに立ちすくんだ。
「ムニャイはおとなしい人間だ。そそくかしたのは、クシとそこの悪ガキ、お前たちだろう」
「ムニャイ、どうして何も言わないんだ。あなたが、本当のことを言ってくれたら、ここの村人たちはみんな助かるのよ」
サミは必死に訴えかけた。それでも、ムニャイは黙ったままうつむいていた。クシも先程の威勢はどこかに消えていた。
「どうしたんだ、クシ? 何か言わなきゃ……」
ワイラがクシに言った。クシは山ほど浴びせてやりたい言葉を一言も漏れないようにじっとこらえていた。
「よせ、ワイラ」アトゥックが止めた。
「言っても無駄さ。言ったところでこの人たちの立場が悪くなるだけさ」
アトゥックらしくない言葉だった。短気なアトゥックが、何度も経験済みのことだからだ。
「坊主、物分かりがいいじゃないか。」
村長はそれから続けた。
「奴らに伝えておけ。3日以内に荷物をまとめておけとな。4日後にポトシーへ発つ!!!」
ワイラたちは引き下がるしかなかった。重い足取りでひとまずクシの家に向かったが、その間、クシはムニャイを責めたりはしなかった。
クシは待ち受ける鉱山の非運より、勇気を出せなかった自分を嘆いた。人間とはこういうものなんだ――まだ13才のクシは、そう考えたくはなかった。
その夜、ムニャイは喉を突いた。
4日後、重く垂れ下がった曇り空の中、人々は帰らぬ故郷に別れを告げた。
誤字脱字、言い回しが変なところはAIで修正しました。
この章も自力で書きました。




