13 魂のメロディー、アンデスへの旅路、ケーナとギター 1
二つの音が完全に重なったその瞬間、神殿の周囲、いや、クスコの戦場全体に、目に見えない巨大な波紋が広がった。まるで、世界全体の時間が一瞬だけ凍りついたかのような、奇妙な異変が起きた。
それまで、憎悪に瞳を血走らせ、互いの肉を切り裂き、命を奪い合っていたインディオの民衆と、スペインの兵士たちの動きが、ピタリと止まった。
彼らの耳に、そして肉体に、これまでに聞いたことのない種類の「音楽」が流れ込んできたからだ。
その調べは、教会で強制的に聴かされる高慢なスペインの賛美歌ではなかった。かと言って、過去の栄光に縋るだけの、古めかしいインカの儀式曲でもなかった。
それは、この200年間という永きにわたり、支配者によって語ることを禁じられ、歴史の教科書から消し去られ、冷たい石壁の隙間に押し込められて、ただじっと耐えてきた名もなき民たちの「嘆き」だった。
そして、どんなに踏みつけられても決して消えなかった「希望」が、何万、何億という祈りとなって、巨大な濁流のように溢れ出した、生命そのものの咆哮だった。
「なんだ……なんだ、この音は……!? 心臓が……俺の心臓が、勝手に暴れ出しやがる!」
前線で戦っていたインディオの一人が、虚空を見つめたまま、血に染まった手から重い斧を地面に落とした。彼の、これまで絶望と憎悪に濁りきっていた瞳に、自分がインディオであることの、そして一人の人間であることの「失われていた誇り」の光が、急速に蘇っていく。
一方、銃を構えていたスペイン兵たちも、一歩も動けなくなっていた。彼らはヨーロッパの進んだ戦術や武器を持っていたが、このアンデスの大自然と、そこに生きる民の魂が一体となった圧倒的な調べの前に、ただただ圧倒されていた。本能的な恐怖が彼らの筋肉を硬直させ、引き金にかかった指が、微かに震えていた。
そして――最も激しい衝撃を受けていたのは、聖域の番人として剣を構えていた、サイリだった。
「くっ……、ああ……っ!」
サイリの持つ鋼鉄の剣が、目に見えて激しく震え始めた。刃の先端が、不規則な円を描いて空を泳ぐ。
(この旋律……この、風のような匂いは……何なんだ。私は……私は神の兵士だ。秩序を守る者だ。なのに……なぜだ!?)
サイリの脳内に、彼が「異端の記憶」として、教会の地下で強制的に消去されたはずの光景が、鮮烈な色彩を伴って溢れ出してきた。
暗く冷たい闇の奥底から、優しく、ひどく温かな母親の手が差し込んでくる感覚。幼い頃、サミと一緒に、アンデスの乾いた風を浴びながら、緑の斜面をどこまでも駆け抜けた記憶。父が教えてくれた、山々の神への祈りの言葉。
「いや、違う! 私は、私は太陽神の……いや、教会の番人だ! 悪魔の誘惑に惑わされるな……!」
サイリは頭を抱え、狂ったように叫んだ。彼の中で、スペイン人たちによって強固に築き上げられた「洗脳の防壁」が、激しく軋み、音を立てて崩壊し始めていた。
サミの吹き鳴らすケーナの音が、彼の脳内にこびりついた教条の嘘を、一枚一枚剥ぎ取っていく。
そして、ワイラのギターが放つ、力強く激しい低音が、その洗脳の土台そのものを、容赦なく根底から叩き壊していく。
二人の合奏は、もはや単なる音楽という芸術の域を遥かに超えていた。それは、サイリという一人の哀れな少年の魂を、暗黒の淵から、強引に光の世界へと引きずり戻すための、命懸けの「魂の剥離」の儀式だった。旋律がうねりを上げるたびに、サイリの肉体から、異物としての「冷徹な番人」の影が、霧のように蒸発していく。
「サイリ兄さん、戻ってきて! お願い、思い出して!」
サミは、ケーナを咥えたまま、心の底からの絶叫を音に乗せた。
(私たちと一緒に、あの、どこまでも自由な風の中に帰ろう! 誰も私たちを縛れない、あの山へ!)
そのサミの純粋な願いが、完璧な旋律の矢となって、サイリの胸の芯を正確に貫いた。
「が、あぁぁぁぁぁぁッ!!!」
サイリは獣のような呻き声を上げ、ついに手にした剣を石畳の上に落とした。硬い金属音が神殿に響き渡る。
彼の瞳から、あの深い霧のような、濁った膜が完全に剥がれ落ちた。
そこに出現したのは、サミがよく知っている、あの優しく、どこか気弱で、妹思いの、本当の兄の瞳だった。
「……サミ……? ああ、サミ。私は……私は今まで、一体、何をしていたんだ……?」
サイリは自分の血に汚れた両手を見つめ、愕然としながら、その場に崩れるように膝をついた。
この章もAIが書きました。
AIが書いた文章は熱がこもっていないという方もいるでしょうが、アイデアに熱を込めて入力したら、AIも熱がこもった文章を書いてくれるのかも知れません。




