12 硝煙のクスコ、轟く大地の怒り 1
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クスコの夜明けは、優しく世界を照らす光としては訪れなかった。
重く垂れ込めた朝靄は、街を包み込む湿った空気だけでなく、夜通し放たれた銃撃の火薬の焦げ付いた匂いをたっぷりと吸い込んで、人々の喉を容赦なく灼いた。
かつてインカ帝国の中心であり、精緻な石組みがどこまでも続いていたクスコの街路。髪の毛一本すら通さないと言われた、神業のような灰色の石壁は、今や静かな古都の風情を完全に失っていた。
四方から響き渡る怒号、引き裂くような銃声、そして硬い石畳を無数に叩く、わらじ(オタハ)を履いた足音。それらすべてが混ざり合い、一つの巨大な地鳴りとなって、クスコを根底から揺るがしている。
「いいか、ワイラ! 俺たちが道を作る。お前は脇目も振らずにサミのところへ走れ! 何があっても、そのギターを離すんじゃねえぞ。それがお前の剣なんだからな!」
最前線に立つアトゥックの声は、低く、同時に研ぎ澄まされた鋼のような鋭さを帯びていた。彼の引き締まった褐色の大腿からは、止めどなくアドレナリンが噴き出している。手にした重い木製の棍棒は、長年の不当な労働で鍛え上げられた手のひらに、驚くほど馴染んでいた。
アトゥックの胸中には、このクスコに至る長い旅の途中で目にしてきた、凄惨な光景が走馬灯のように駆け巡っていた。
(忘れてたまるか……あの光景を、あの連中の傲慢な笑い声を……!)
ポトシの銀山で、暗黒の坑道へと消えていった同胞たち。不当な賦役によって背中を曲げ、若くして老人のように衰えていった男たち。スペイン人の地主から家畜以下の扱いを受け、希望を完全に奪われて、まるで死んだ魚のような瞳をして泥の中に伏していた若者たち。
アトゥック自身も、その地獄の当事者だった。インディオとして生まれ、養うべき家族も多かった。それなのに、ただ「インディオの若者」というそれだけの理由で、スペイン人の親方から不当な賃金しか与えられず、少しでも抗議すれば鞭で打たれた。彼らにとって、アトゥックのような存在は、いつでも代えの効く「ドブネズミ」に過ぎなかったのだ。
(俺はドブネズミなんかじゃねえ。俺には名前があり、守るべき仲間がいる!)
トゥパク・アマル2世が反旗を翻し、「抑圧からの解放」を叫んだとき、アトゥックの胸の中で燻っていた黒い煤に、一気に火がついた。
数千、数万のインディオたちが、数世紀分の怒りを噴火させ、巨大なうねりとなって神殿へ押し寄せるこの大乱。アトゥックにとってこの戦いは、単なるサミの救出劇という枠を遥かに超えていた。これは、これまで自分の存在を否定し続けてきた世界に対する、命を賭した報復であり、同時に「アトゥックという一人の人間の存在」を証明するための聖戦だった。
「俺はもう、逃げも隠れもしねえ。この拳で、サミの道をこじ開けてやる。死ぬなら、誇りを持って死んでやる!」
アトゥックは吼えた。その視線の先から、銀色に輝く胸当てを身につけたスペイン兵が、ギラつく銃剣を突き出して突進してくる。
アトゥックは恐怖を感じるどころか、五感が異常に研ぎ澄まされるのを感じていた。彼は野性的な反射神経で、心臓を狙った銃剣の突きを紙一重でかわした。服の繊維が裂ける音が耳元で聞こえた瞬間、彼は自らの肉体のバネを爆発させ、棍棒を兵士の側面へと叩きつけた。鈍い衝撃音が響き、兵士が崩れ落ちる。
「行け、ワイラ! 走れッ!」
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ワイラは、背中に背負ったギターケースの重みを、両肩の肉に食い込ませながら、アトゥックの背中を必死に追っていた。
標高3400メートルを超えるクスコの空気は薄く、激しく動くだけで肺が燃えるように熱くなる。喉の奥からは血の味が競り上がり、心臓は肋骨を内側から突き破らんばかりに脈打っていた。視界が激しい酸素欠乏で明滅する。
しかし、ワイラの瞳には、かつてアルゼンチンの広大なパンパの平原で、己の生きる意味を見失い、ただ風に吹かれて迷っていた頃の弱さは、微塵も残っていなかった。
(あの頃の僕は、ただの空っぽの器だった。傷つくのを恐れて、誰も見ようとせず、何にもなろうとしなかった……)
だが、アトゥックと出会い、そしてサミという少女の純粋で力強い魂に触れた。彼らと共に、アンデスの険しい山道を越え、現実に打ちのめされながらも歩んできた日々が、ワイラという人間に確かな血肉を与えていた。
(サミ……待っていてくれ。今度こそ、僕は君の手を離さない。この六本の弦で、君を縛る冷たい石壁を、絶対に壊してみせる!)
走りながら、ワイラは自分の指先をじっと見つめた。
そこには、旅を始める前のような、白く滑らかな皮膚はもうなかった。度重なる野宿と、荒れた岩山を登る中で刻まれた無数の傷。そして、狂ったようにギターを掻き鳴らし続けた結果、完全に硬くなって変色した指先のタコ。それは、彼が現実から逃げずに、この世界と格闘してきた証拠そのものだった。
自分には、アトゥックのように一撃で敵を薙ぎ倒す強靭な肉体はない。
そして、この反乱を率いるトゥパク・アマル2世のように、一言で数万の民衆を熱狂させ、死地へと導くようなカリスマ性もない。自分は、どこまでも泥臭く、不器用な一人の人間に過ぎない。
(だけど、僕にしかできないことがある。この指が、この弦が、僕たちの旅のすべてを知っている)
ワイラは確信していた。この指先が奏でる旋律は、ただの音の連なりではない。それは、言葉を奪われ、文字を持たぬまま歴史の闇に葬られてきた人々の、魂の最深部に眠る「自由」という名の龍を呼び覚ますことができる、唯一の鍵なのだと。
目の前で、アトゥックが民衆の先頭に立ち、圧倒的な力でスペイン兵の防衛線を押し戻していく。その背中を見つめながら、ワイラはギターケースのストラップをさらに強く握り締め、激しい硝煙の渦巻く中へと、躊躇なく飛び込んでいった。
この章もAIが書きました。
佳境ですね。
若い頃はこの物語をワクワクしながら書いていましたが、この年齢(59歳)になって読み返すと古今東西どこにでもある話だなあと思ってしまいます。
時代が代わりハイテク社会になっても人間がすることはあまり変わっていないですね。
古今東西に、スペイン人vsインディオ、忠臣蔵のようなことは転がっていますね。




