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アンデスへの旅路ーギターとケーナの出会いー  作者: 村松希美


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11 引き裂かれた双子、洗脳された兄 3




サミは震える手で、(ふところ)から一本の笛を取り出した。


それは、かつてコカの葉の農園(コカ長者)での奴隷労働の際、そしてママコナ(太陽の処女)の館に囚われた際、執拗な虐待と弾圧の中で踏みにじられ、満身創痍(まんしんそうい)となった竹の笛――ケーナだった。


表面には無数の傷がつき、一箇所には深くひび割れが走っている。息を吹き込めば、そこから空気が漏れて正しい音を出すことすら難しい、壊れかけの楽器。


だが、これこそが、彼女が故郷から持ち出すことのできた唯一の遺品であり、兄と自分を繋ぐ最後にして最強の絆だった。


「サイリ兄さん、思い出して……!」

サミはケーナを口元に寄せながら、叫ぶように訴えかけた。


「お母さんが教えてくれた、あの旋律を。私たちが一緒に笑っていた、あの頃の風を……! 兄さんはスペイン人じゃない。アンデスの、インティ(太陽神)の子孫なのよ!」

サミは祈るように目を閉じた。


涙が(ほお)を伝い、ケーナの竹肌に染み込んでいく。彼女は肺腑(はいふ)のすべてを傾け、ひび割れた隙間から空気が漏れるのを承知で、魂のすべてを込めてケーナに息を吹き込んだ。


奏でる曲は、彼らが旅の始まりからずっと大切にしてきた、そして幼い頃に家族で何度も奏でた、あの『アンデスへの旅路』。


「――ッ!?」

カサカサと掠れた、しかしどこまでも高く、切ない音が礼拝堂の空間に響き渡った。


ひび割れから漏れる風の音が、まるでアンデスの荒野を吹き抜ける寒風のような、独特の哀愁を帯びて周囲の石壁を震わせる。


その音がサイリの耳に届いた瞬間、青年の表情が劇的に変化した。

感情を失っていたはずの顔が、まるで熱湯を浴びせられたかのように激しく痙攣けいれんしたのだ。


「止めろ……! その音を、止めろ!」

サイリは突然、両耳を自らの手で強く(ふさ)ぎ、のたうち回るように苦悶(くもん)の声を上げた。端正だった顔が苦痛に歪み、視線が定まらずに宙をさまよう。


「私の頭の中で……醜い悪魔が騒ぎ出す! それは神の教えに反する、野蛮な呪文だ! 消せ、その不浄な音を消せ!」


「兄さん!」

サミは笛を吹くのを止めなかった。むしろ、その反応の中に、兄の魂がまだ生きているという確信を見出し、さらに激しく、深く息を吹き込む。

サイリの内面では、今、地獄のような葛藤が吹き荒れていた。


数年間にわたって、スペインの神父たちによって強固に築き上げられた「文明」という名の防壁。ラテン語の聖歌、洗礼の儀式、原住民の言葉を(しゃべ)るたびに課された鞭打(むちう)ちの痛み――それらによって何層にもコーティングされた彼の人格が、サミの奏でる「野生」の旋律によって、内側から激しく打ち鳴らされていた。

耳を塞いでも、音は肉体を通り抜けて直接、彼の血に語りかけてくる。


幼い頃、母の温かい手につつまれて聞いた子守唄。妹と共に走り回った大地の匂い。冷たい水を飲んだ時の美味さ。それらの記憶が、濁流となって彼の脳内に(あふ)れ出そうとしていた。


教え込まれたラテン語の聖歌ドミヌス・ボビスクムと、血に刻まれたインカの鼓動。

二つの相反する世界が、彼の精神という小さな器の中で、激しい嵐となって衝突し、破裂寸前になっていた。


(サミ……? いや、違う。私はインティの血を引く者ではない。私は神に仕える者だ……! キリストの血によって洗われた、聖なる番人だ……!)

サイリの頭頭部を、割れるような頭痛が襲う。


(なのに、なぜ……なぜ、この安っぽい竹笛のメロディが、これほどまでに胸を締め付けるのだ? なぜ、涙が出そうになるのだ……!?)

サイリの額からは脂汗(あぶらあせ)が滝のように流れ、床にポタポタと落ちた。その瞳の奥に、一瞬だけ、教義に縛られる前の、あの優しく頼もしかった「兄」の面影が宿る。

サミはその微かな兆しを見逃さなかった。


「兄さん、聴こえるでしょう? 私たちの『家』の音よ。黄金のコンドルが舞う、あの空の音なのよ……! 帰ろう、一緒にアンデスの山へ!」


サミは一歩、また一歩と、歩み寄る。ケーナの音色は熱を帯び、礼拝堂の冷気を圧倒していく。あと少しで、その手が兄の服に届く――その時だった。










この章もすべてAIが書きました。

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