11 引き裂かれた双子、洗脳された兄 2
神殿の巨大な石柱の影に身を潜めていたワイラは、その凄惨な再会を、胸をかきむしられるような思いで息を殺して見守っていた。
(あんなのって、ないよ……。サミがあれほど会いたがっていた兄さんが、サミを『異端』と呼ぶなんて)
ワイラは、自分の背中にあるギターのネックを、指の関節が白くなるほど強く握りしめた。木肌が軋む音が、静寂な礼拝堂の中に漏れてしまいそうになるのを必死で抑える。
ワイラはサイリの姿に、自分たちインディオが受けてきた圧政の、最も残酷な形を見ていた。
これまでは、目に見える暴力がすべてだと思っていた。地元の民を奴隷のように扱い、ポトシの鉱山で死ぬまで働かせ、刃向かう者を容赦なく処刑するスペイン兵たち。それは分かりやすい「悪」だった。
しかし、今目の前で行われているのは、それよりも遥かに恐ろしい「魂の簒奪」だ。
肉体を殺すのではない。生きながらにして、その人間が歩んできた歴史を、誇りを、ルーツを根こそぎ奪い去り、自分たちを支配する側の都合のいい人形へと作り変える。
自らの血を「悪」と教え込まれ、先祖の神々を「悪魔」と罵るように仕込まれた者の悲哀が、サイリの強張った背中から、黒い霧のように滲み出ている。
ワイラは、サイリを責める気にはなれなかった。むしろ、彼をそこまで追い詰めたであろう、目に見えない巨大な「力」に対する恐怖と激しい怒りが、ふつふつと湧き上がってくるのを感じていた。
「ふざけんなよ……」
ワイラの隣で、アトゥックもまた、煮え切らない怒りにその身を震わせていた。
普段の軽口や不敵な笑みは完全に消え失せ、彼の瞳は夜の山猫のように鋭く、獲物を引き裂こうとする執念に燃えている。
「あいつ、自分の妹の顔も忘れちまったのか? 洗脳だか何だか知らねえが、あんな奴にサミは渡せねえ。無理やりにでも連れて帰るぞ、ワイラ」
アトゥックの声は、低く地を這うような怒気に満ちていた。
彼にとって、この状況は他人事ではなかった。アトゥックもまた、かつてスペイン人の不当労働で悪条件を突きつけられた過去を持つ。アトゥックは家族には恵まれていたが、彼にとって、サミとサイリ「再会」とは、暗闇の中で唯一すがりつくべき希望の灯火であるべきだった。
それなのに、今目の前で繰り広げられているのは、再会という名の「魂の死」だ。
かつての優しかった兄は死に、代わりにスペインの教えをオウム返しに喋る冷酷な機械がそこにいる。アトゥックの心の中で、過去の傷口が開き、塩を擦り込まれたような痛みが走った。その痛みが、彼を破壊衝動へと突き動かす。
アトゥックは腰のナイフの柄に手をかけ、一歩前に出ようとした。その腕を、ワイラの静止する手が強く掴んだ。
「待って、アトゥック。今はまだ、力ずくじゃ解決しない」
「離せ、ワイラ! あんな抜け殻みたいな奴、一発殴ってでも目を覚まさせてやる!」
「ダメだ。ここで暴れたら、神殿中の兵士が集まってくる。それに……」
ワイラは、祭壇の前で立ち尽くすサミの横顔を見つめた。
「サミの音楽なら……サミの音なら、届くかもしれない。僕たちの言葉じゃ届かなくても、彼女のケーナなら、お兄さんの心の奥にある本物の記憶を、呼び覚ませるかもしれないんだ」
アトゥックはチッと低く舌打ちをしたが、ワイラの真剣な眼差しに圧され、掴まれた腕を引いた。だが、ナイフにかけた手は決して離さず、いつでも飛び出せるように全身の筋肉を緊張させていた。
この章もAIが書きました。




