11 引き裂かれた双子、洗脳された兄 1
クスコの最奥。そこは太陽の光が永久に届かない、石の迷宮の終着点だった。
かつてインカの王族たちが先祖のミイラを祀り、黄金の輝きで満たしていた神聖な空間は、今やキリスト教の「聖堂」へと姿を変えていた。しかし、その変貌はあまりにも強引で、どこか歪んでいる。
インカの精緻な石組みの上に、漆喰が乱暴に塗られ、そこへスペインから運ばれてきたという、血を流すキリストの木像が掲げられている。キリストの足元で燃える蜜蝋の蝋燭と、地元の民から徴収したであろう線香の煙が混ざり合い、蛇のようにとぐろを巻いて天井へと這い上がっていた。
冷ややかな空気が澱むその祭壇の前で、一人の青年が影のように立ち尽くしていた。
修道士のような重苦しい黒い修道衣を纏い、背筋を不自然なほどまっすぐに伸ばして祈りを捧げている。
「サイリ……兄さんなの? 私よ、サミよ! やっと、やっと会えた……!」
サミの声が、震えながら冷たい石壁に跳ね返った。
その声は、彼女がこの過酷な旅の途上で、幾度となく夜空に向かって呟いていた名前だった。幾千の夜を越え、飢えと渇きに耐え、スペイン兵の追っ手から逃げ延びてきたのは、ただこの一瞬のためだけだった。
サミはたまらず駆け寄ろうとした。しかし、数歩踏み出したところで、彼女の足はまるで石の床に釘を打たれたように、ピタリと止まった。
サイリの背中から放たれる、異様なまでの拒絶の気配。それが彼女の身体を硬直させたのだ。
ゆっくりと振り返った青年の顔を見て、サミは息を呑んだ。
面影は確かにある。少し長めの黒髪、切れ上がった涼しい目元、そして自分と同じインカの血を引く、褐色を帯びた肌。しかし、その表情からは「生」の温もりが完全に削ぎ落とされていた。
かつてのサイリは、ひまわりのように明るい少年だった。
チチカカ湖のほとり、あるいはパンパの緑豊かな大地で、サミがケーナを吹けば、彼は下手な手つきで自らの膝を叩いてリズムを取ってくれた。音楽の才能はサミに遠く及ばなかったが、彼はいつも楽しそうに白い歯を見せて笑い、「お前の音色はアンデスの風そのものだ」と、その小さな頭を撫でてくれたものだ。サミにとってサイリは、凍えるアンデスの夜を温めてくれる太陽そのものだった。
だが、目の前に立つ青年の瞳には、サミが知っている光の一片も残っていなかった。
それはまるで、底の知れない深い井戸の水を覗き込んでいるかのような、あるいは凍りついた湖面を見つめているかのような、無機質で冷徹な眼差しだった。
「サミ、という名は知らない」
サイリの口から漏れた声は、かつて妹を優しく呼んだ温かな響きを完全に失っていた。冷たい石の床に落ちる水滴のように、平坦で、容赦がない。
「私は神の僕、聖なる真理を汚さぬための番人だ。迷える羊よ、お前はなぜこの神聖な場所へ迷い込んだ。下界の不浄な絆を断ち切れぬ者は、ここでは異端者と同義である」
「……え?」
サミは胸を鋭い刃で深く突き刺されたような衝撃に、言葉を失った。呼吸の仕方を忘れたかのように、喉がひっくついた。
実の兄から向けられた「異端者」という言葉。それが意味する絶望の深さに、サミの視界が急速に歪んでいく。
目の前にいるのは、間違いなく肉親のサイリだ。しかし、その中身は、彼女の知らない何者かによって完全に書き換えられてしまっている。
スペインの教育、そして異国の宗教という名の「洗脳」――。
それが、わずか数年の間に、一人の青年の魂をここまで徹底的に塗り潰し、愛する家族の記憶さえも奥底へ封印してしまったのか。
サミは目眩を覚え、その場に頽れそうになるのを、辛うじて持ちこたえた。
この章もすべてAIが書きました。
この章からAIが書いたものは段落で一マスあけるのをやめました。
サイリはサミ一家が逃げる時に、サイリだけ転んでスペイン代官たちに捕らえられ、サミの両親に捨てられたと洗脳されました。サイリは当時10歳だったので洗脳されるのは仕方がないことです。
洗脳って中々解けないですよ。




