7 ラパスにて 2
しばらくするとトントンと戸を叩く音がした。開けてみると、さっきの女将さんが料理を持って立っていた。
「どうしたんですか?僕たちは頼んでませんけど」
ワイラが言った。
「いえね、今伝令が来てね。夕食の予約を取っていた客がいいところが見つかったからって宿を変えたんだよ。失礼な話さ。それで余っちまってちょうど4人分だし…どうかと思ってね。もちろんサービスするよ」
お盆の上にはコーンスープとステーキとチューニョと呼ばれる凍ったじゃがいもが添えられていた。
「おい、言葉に甘えようぜ」
後ろからアトゥックが突っついた。ワイラもお腹の虫が鳴ったのでそうすることにした。
「おや、いい客だね。ちょっとこれ持っておくれ」
女将さんはワイラにお盆を渡すと、
「これもう少しの辛抱だよ」
と自分のお腹をさすった。
初め、この町でよく見かける体格のいい女の人だと思っていたがよく見ると緑のワンピースがボール1つ入れたように突き出ていた。
「もうすぐ生まれるんだよ」
「赤ちゃん!!」
ブランカが女将さんに近寄った。
「聞いてごらん。お腹を蹴ってるよ。外に出たくてうずうずしているんだ」
ブランカはしばらくお腹に耳を当てていた。よくわからなかった。
「ほら、今蹴った」
「えっ?やっぱり分からないわ」
ブランカは赤ちゃんの様子を探るのをやめたが、どうしても赤ちゃんに会ってみたいというようにワイラたちの顔を見渡した。ワイラは困ったが、
「もうすぐっていつ頃生まれるんですか?」を聞いてみた。
「そうだね1週間以内には生まれるだろうってヤティリ(まじない師)が言っていたよ。急ぎの旅じゃないなら、あんたたちもこの子を見ていっておくれよ」
「わぁー、そうしましょー」
ブランカが叫んだ。それくらいの間なら、このラパスに滞在する予定だったので、3人は承知した。女将さんはブランカが赤ちゃんに熱中していたせいかどうかよく分からなかった。いろいろとワイラたちに親切にしてくれた。
滞在して3日が過ぎた。ワイラたちには順調に旅費が貯まっていったので、今日は早めに演奏をきり上げ、街を散策することにした。
赤や黄色、茶色などの色とりどりの香辛料を並べた店、白木をくり抜いたおたまじゃくしを置いた店、帽子や服を売っている店、中でもアワヨと呼ばれるインディオたちの万能布が売られている店が目を引いた。赤、青、黄緑・ピンクなど、あらゆる色がこの店には存在した。
サミが布を手に取って見ていると、また背後からあの訳の分からない嫌な視線を感じた。振り返ったが、そこには何の影もなかった。
サミは少し不安になったが、あまり考えないようにした。
4人がふらぶら歩いていると、食料品が並んだところに出た。先のアワヨに負けないくらいのぶどうや日本ではお目にかかれないトゥナやピーヤと呼ばれる果物や何百種類もあるジャガイモを並べた店(もちろんあのチューニョもあり、薬草までおいた店もあった)。ワイラはそこで咳に利くオオバコを手に入れた。旅にあまり慣れていないブランカが気温が低くなるとよく咳をしていた。
咳はよくしたがブランカは根が明るかったので元気そのものだった。とうもろこしを売っている店で、親子が粒をばらしているのを見ると「私にもやらせて」と積極的に入り込んで行った。
親子は初めきょとんとしていたが、仕事が早く済むので大歓迎と思ったのか、ブランカの手を止めたりしなかった。
ワイラたちも黙って見ているのも手持ちぶさただったので、親子たちを手伝った。母親が、帰りに「少ないけど」とうもろこしを人数分くれた。
ワイラたちは旅に必要なものを買うと、宿のあるサガルナガ通りへ向った。サガルナガ通りはペーニャ(民俗音楽の店)や安宿が並ぶ庶民の通りで、手織りの帯や銀製品、石の人形など現在でいうおみやげ屋が並んでいた。ワイラたちは異様なものが並べられていることに気がついた。
この通りを行き来して3日になるが、今まで気付かなかった。その物体は土器や石の人形などの脇に沢山無造作に置かれていた。
赤茶色で鳥のような頭に目は割れていて首がひょろ長かった。よく見ると何かの動物のようであった。ワイラたちがしげしげと眺めていると、
「リャマのミイラじゃよ」
足までショールの垂れ下がった、瘦身の老婆が言った。まるで、魔女のような容ぼうをしていた。ブランカがアトゥックの影に隠れた。
「こんな物、何に使うんだい?」
アトゥックが訊ねた。
「パチャ・ママに捧げるのじゃよ」
「パチャ・ママって」
ワイラが訊ねた。初めて聞く言葉だった。
「大地の女神じゃよ。私らアイマラ族はこのパチャ・ママと共に生きとるんじゃよ。」
いわゆるワカと呼ばれているインディオたちの土着信仰の神である。
「あんたらも、もうそろそろじゃのう、赤子を授かるのは」
「何言ってんだ、婆さん、俺たちまだそんな事考えてないぜ」
アトゥックが否定した。
「そうか、赤子をさずかったら、これを1つ買うがいい。パチャママの好物じゃ。いい子にして下さろう」
「ねえ、1つ買いましょう。女将さんにもうすぐ赤ちゃんが生まれるし」
と言ってブランカはミイラの首をつかんだが背中がゾクっとしてきてパッと離した。
「落すなよ」
アトゥックがそれを拾って言った。
「ねえ、アトゥックが持って―」
「しょうがねえな~」
誤字脱字、言い回しが変なところはAIで修正しました。
この章も自力で書きました。




