6 4人の旅 1
「お父ちゃん!!逝かないで!!逝っちゃ嫌だ〜!!!」
ブランカは自分の声で目が覚めた。頬を触ると涙で濡れていた。辺りを見渡すとワイラもサミも毛布にくるまって静かな寝息を立てていた。
火の番だというのにアトゥックも長い棒を顎につけ、大きないびきをかいて眠っていた。
屋根のない廃屋から冷たい風が流れ込んできた。
「寒い」ブランカは肩をすくめた。よく見ると、焚き火が小さく消えかかっていた。ブランカが薪をくべると、パチパチという音とともに炎がたちまち大きくなった。
そして、アトゥックから長い棒を取ると、じっと炎を見つめながらそれを突っついた。炎の中に、まずアンドレスの死に顔が浮かんだ。青白く冷たくなったその顔は、無念そうにきゅっと唇を噛みしめていた。
そして、葬儀の時の悲しみにくれたインディオたち。その片隅で異様な笑みを浮かべて立っていたスペイン人の長官たち……。それらが炎の中で走馬灯のように回っていた。
どうして立派なことをしてきたお父さんが、どうしてそういう目に遭わなければならないのか。それに、犯人だってわからないままだ。そう思うと、ブランカに怒りがこみ上げてきた。ブランカが思いっきり炎を叩くと、炭になった薪がアトゥックの顔に当たった。
「あちっ、誰だ、熱ちーじゃねえか!」
右頬を押さえてアトゥックが立ち上がった。沈んで小さくなっている、目がうつろなブランカの姿がアトゥックの目に入った。ブランカはそんなアトゥックにも気づいていないように、炎をじっと見つめていた。アトゥックは何て声をかけたらいいのかわからなくなったが、とにかく何とかしようと思った。
「悪りぃなあ、小さなお前に火の番なんかやらせて。俺が眠っちまったばっかりに……」
アトゥックに気づいたブランカは何とか笑顔を見せようとしたが、急に大粒の涙がボトボト落ちてきて、わあーわあーと泣き出した。ブランカはアンドレスの死に直面してから言葉数が少なくなっていた。
アンドレスの遺体が家に運ばれてきた時は大声で泣き叫んでいたが、葬儀の時も、この旅に誘ってからも、気丈なところを見せようと引きつった笑顔を作るのに精一杯で、何やらじーっと考え込んでばかりいた。
ワイラたち3人はブランカを1人にはしておけなかったので、この旅に誘ったのであったが、旅の間もブランカをそっとしておこうと話し合っていた。
アトゥックは妹にするようにブランカをぎゅっと抱きしめると言った。
「もっと泣いていいんだ。笑顔なんか作らなくたって……」
ブランカはアンドレスに抱きしめられているような感覚になって、これ以上涙が出てこないというほど泣いた。
ワイラとサミはいつのまにか目を覚ましていたが、2人をそっとしておいた。
天空を流れる銀河がブランカの悲しみの涙を全て洗い流してくれればいいのにと思い、2人はそれを見つめていた。
あくる朝、一番に起きたサミが食料用の雑嚢を覗いてみると、干し肉が2切れとじゃがいもが4つあるだけだった。
ボリビアはじゃがいも発祥の地で、非常に多くのじゃがいも料理がある。中でも「チュニョ」や「トゥンタ」と呼ばれているものは、初めて見る者を非常に驚かせる。凍らせて乾燥させたじゃがいもを、肉の付け合わせなどにするのだから。
しかし、サミの手にしたじゃがいもは生のじゃがいもだったので、輪切りにして串に刺し、そのまま焼くことにした。
焼けたじゃがいもを皿に盛り分けていると、ワイラが起きてきた。ワイラは空になった雑嚢を見て言った 。
「今日は何とかしなきゃいけないね」
「そうね」各皿に盛り分けられた半切れの干し肉と4切れのじゃがいもを見ながらサミは言った。自分はこれだけの量でも十分だったが、育ち盛りのブランカや、すぐにお腹をすかす2人の男の子たちのことを思うとかわいそうに思えた。
ワイラは自分たちの現在地を確認するために地図を取り出した。これまで通り過ぎた地名には印を入れていたので、次はオルーロだとすぐに確認できた。
その大きな文字の傍らに「アルマジ……」と記されていた。最後の一文字がかすれて読めなかった。
「『アルマジ……』って何だ?」
とワイラは一瞬考えたが、すぐにピンときた。
南アメリカのほぼ全域に生息しているアルマジロだ。
ワイラはギターが好きなので、それに似た「チャランゴ」という楽器を連想した。ウクレレくらいの大きさの弦楽器で、アルマジロの甲羅が胴に使用されていた。
でも、オルーロとどういう関係があるのだろうと首をひねった。
アルマジロは高く売れる。ワイラは隊商にいたので、アルマジロを売買しているのかな、それならこの辺りにたくさん生息しているはずだと目星をつけた。
そしてアトゥックを起こそうと出入り口の方を見た。アトゥックは毛布を蹴り上げて、ブランカを抱きかかえるように眠っていた。肌の色は違ったが、ワイラはまるで兄妹みたいだと思った。ブランカの顔をよく見ると、鼻の形や口元がサルタで別れたチャスカによく似ていた。昨夜のこともあったので、ワイラはブランカが早く元の元気なブランカに戻ればいいのにと、その寝顔を見ていた。
すると、寝相の悪いアトゥックの左足が、ブランカの顎に思いっきり当たった。
「痛っ!」ブランカは寝ぼけまなこで顎をさすったが、痛みが全然取れなかったので怒りが増してきた。
「誰よ〜!」ブランカはワイラの顔を見た。ワイラが「自分じゃない」という風に首を振ると、ブランカはアトゥックを揺り起こした。
「ちょっと起きなさいよ、アトゥック!!」
アトゥックは昨夜までとは違う、いつもの調子に戻ったブランカを目の当たりにして、いっぺんに目が覚めた。
「あんたが蹴ったでしょ!どうしてくれるのよ、痛みが治らないじゃないの!」
ブランカはがなり立てた。二人はしばらく言い合った。
「何だよ、わざとじゃないだろう〜。そんなに怒らなくってもいいじゃないか」
そう言いながらも、アトゥックはブランカが元に戻ったことを心の中で喜んでいるようだった。
誤字脱字、言い回しが変なところはAIで修正しました。
この章も自力で書きました。




