八話 言えないまま、近づいていく
魔瘴が、王都に近づいていた。
魔瘴とは、百年に一度訪れる魔力の乱れのことだ。
大地に溜まった負の魔力が飽和し、魔物が活性化する。遠い昔には国が滅びかけたこともあるという。今はまだ前兆期と言われていたが、郊外での魔物の出没は明らかに増えていた。
騎士団は連日出動し、レオンが店に来る頻度も減っていた。来たとしても疲れた顔で、短い時間だけいて帰る。私はそのたびに何か言いたくなって、言えなくて、代わりに疲労回復の薬草茶を持たせた。
「これ、効きますよ」
「知ってる。いつも助かってる」
「無理しないでください」
「お前に言われたくない」
……それはそうかもしれません。
レオンが帰った後、私は一人で作業場に戻って考えた。
話そう、と何度も決めた。決めるたびに怖くなった。怖くなるたびに先送りにした。その繰り返しだった。
前世でもこういうことがあった。大事なことを言えないまま機会を逃し続けて、気がついたら手遅れになっていた。だから今世では後悔しないようにしようと思っていたのに。
……私は前世から何も成長していないんでしょうか。
情けない気持ちでいたある夜、父が言った。
「最近、レオンさんの顔が険しいね。騎士団は大変みたいだ」
「……そうですね」
「あの人、アリアのことが好きだと思うよ」
手が止まった。
「……お父さん、何を言ってるんですか」
「見てたらわかるよ。あの人はアリアを見るとき、
ちょっと顔が変わる」
……お父さんには言っていませんが、私もです。
その夜も眠れなかった。




