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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
第二章   距離と、恐怖と、引き返せない夜

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七話 夜市の灯りと、引き返せない夜

夜市の日だった。


王都では月に一度、商業区に夜市が立つ。食べ物の屋台や手工芸品の露店が並び、家族連れや恋人同士が行き交う、賑やかな夜だ。私は毎年、薬草の材料になる乾燥香草を目当てに来ていた。


そこでレオンに会ったのは、完全に偶然だった。


「……また会ったな」


「非番ですか」


「ああ。お前は」


「買い物です」


自然な流れで一緒に歩くことになった。レオンはそういう場所が得意そうには見えなかったが、嫌がっている様子もなかった。


屋台の前を通り過ぎながら、私が焼き栗の匂いに足を止めると、レオンがさっさと買ってきた。「要らないです」と言う前に袋を渡された。


「……なぜ」


「足が止まったから」


理屈が通っているのかどうかよくわからないまま、焼き栗を食べながら歩いた。甘くて、少し香ばしくて、おいしかった。


その途中で、泣いている子どもを見つけた。五歳か六歳くらいの女の子で、人混みの中で一人取り残されていた。


二人でしゃがんで声をかけ、親の特徴を聞いて、手分けして探した。十分ほどで母親らしき女性を見つけ、引き合わせた。女の子は泣きながら母親に抱きついて、母親もほっとした顔で深々と頭を下げた。


二人でまた歩き始めながら、レオンがぽつりと言った。


「お前、ああいうの放っておけないよな」


「あなただって一緒に探したじゃないですか」


「俺はお前が動いたから動いた」


「それは後付けの理由では」


「かもしれん」


珍しく、少し笑ったような気がした。声ではなく、目の端が少しだけ和らいだ。


私はまた前を向いた。


夜市の灯りが橙色に揺れていた。人の声がさざ波のように聞こえていた。隣に誰かがいる、というだけで、こんなにも世界が違って見えるものなのかと思った。


……ああ、これはもう、取り返しがつかないですね。

好きだ、と思った。改めて、はっきりと。


そしてそれと同じくらいはっきりと——怖いと思った。


この人に、本当のことを話したら。全部バレたら。嘘をついていたアリア・ヴェルメールを、それでも受け止めてくれたら。


そうなったとき、私は今の自分ではいられなくなる。


逃げることができなくなる。


それが幸せなのか、怖いことなのか、このときの私にはまだわからなかった。



夜市の帰り道、店の近くで別れる前に、レオンが言った。


「アリア」


名前を呼ばれたのは、初めてだった。いつも「お前」か「娘」か、せいぜい「薬草屋の」だった。


思わず立ち止まって振り返ると、レオンがまっすぐこちらを見ていた。


「……話せる状態になったら、聞かせてくれ。急かさない。ただ、俺はいる」


それだけ言って、踵を返した。


私はしばらく、その背中が夜の向こうに消えていくのを見送っていた。


胸が痛かった。


怖かった。


それでも——この人に全部話してしまいたいと、生まれて初めて、本気で思った。


――――◆――――


第三章へ続く

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