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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
第三章   聖光と、真実と、それでもお前がいい

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九話 決意の夜、聖光が夜を割る

転機は突然やってきた。


夜半過ぎ、遠くから爆音がした。


窓を開けると、王都の北側の空が赤く染まっていた。魔物の群れが城壁の一部を突破したらしい、という話が朝になって広まった。負傷した騎士が複数出て、市民への避難勧告も出た。


私は店の戸締まりを手伝いながら、落ち着かない気持ちでいた。


レオンは今、どこにいるのか。


昨夜から出動していることは父から聞いていた。北側の防衛に向かっていると。


……関係ない。騎士団の仕事です。私が心配することじゃない。

……でも。

夕方になっても避難勧告は解除されなかった。父と母は知人の家に身を寄せることになり、私も一緒に行くつもりだった。


その途中で、路地の奥から物音がした。


足を止めて、耳を澄ませた。


低い唸り声。金属が石畳を引っかく音。そして人間の、押し殺した息遣い。


……見なかったことに。

……できるわけがないじゃないですか。

「お父さん、先に行っていてください。すぐ追いかけます」


「アリア?」


「大丈夫です。本当に、すぐ行きます」


父と母を先に行かせて、私は路地の奥に向かった。



レオンがいた。


石壁に背を預け、剣を構えたまま膝をついていた。左の脇腹から血が出ていた。目の前には、上位の魔物が三体。通常の魔物より一回り大きく、動きも速い。応援が間に合わない。


レオンは私に気づいた。瞬時に、こちらへ来るなという目をした。


私も彼を見た。


三秒、考えた。


……もう、いいですよね。

隠し続けることより、大事なものができてしまいました。

印を結んだ。


十二年間かけて積み上げてきた抑制が、するりと解けた。


それはまるで、ずっと固く閉めていた窓を初めて開けたような感覚だった。魔力が溢れ出す。光が滲む。路地の石畳が、壁が、夜空が、白く染まっていく。


聖光が、三体の魔物を包んだ。


音もなく、三体は塵になって消えた。


静寂が戻った。


白い光の中に、私は一人で立っていた。



しばらく、誰も動かなかった。


レオンが剣を構えたまま、私を見ていた。表情が読めなかった。驚きとも、困惑とも、何か別のものとも取れる顔だった。


私は先に口を開いた。


「あの、これにはいろいろ事情が——」


「……お前が聖女か」


静かな声だった。


「……はい」


「ずっと隠してたのか」


「……はい」


レオンが膝をついたまま、少し目を伏せた。しばらく何も言わなかった。


私も何も言えなかった。


謝るべきなのか。説明するべきなのか。でもどんな言葉を並べても、十二年間のことは変わらない。ずっと嘘をついていた事実は消えない。


……怒ってる。当然です。

幻滅してる。それも当然です。

私が悪かった。でも——

「……ずっと、しんどかっただろ」


顔を上げたら、レオンが私を見ていた。


怒っていなかった。


責めていなかった。


ただ、静かに、本当に静かに、そう言った。


「しんどかっただろ」


もう一度、繰り返した。


私は何も言えなかった。


泣きそうになった。前世含めて、生まれて初めてこんな場面で泣きそうになった。

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