九話 決意の夜、聖光が夜を割る
転機は突然やってきた。
夜半過ぎ、遠くから爆音がした。
窓を開けると、王都の北側の空が赤く染まっていた。魔物の群れが城壁の一部を突破したらしい、という話が朝になって広まった。負傷した騎士が複数出て、市民への避難勧告も出た。
私は店の戸締まりを手伝いながら、落ち着かない気持ちでいた。
レオンは今、どこにいるのか。
昨夜から出動していることは父から聞いていた。北側の防衛に向かっていると。
……関係ない。騎士団の仕事です。私が心配することじゃない。
……でも。
夕方になっても避難勧告は解除されなかった。父と母は知人の家に身を寄せることになり、私も一緒に行くつもりだった。
その途中で、路地の奥から物音がした。
足を止めて、耳を澄ませた。
低い唸り声。金属が石畳を引っかく音。そして人間の、押し殺した息遣い。
……見なかったことに。
……できるわけがないじゃないですか。
「お父さん、先に行っていてください。すぐ追いかけます」
「アリア?」
「大丈夫です。本当に、すぐ行きます」
父と母を先に行かせて、私は路地の奥に向かった。
◆
レオンがいた。
石壁に背を預け、剣を構えたまま膝をついていた。左の脇腹から血が出ていた。目の前には、上位の魔物が三体。通常の魔物より一回り大きく、動きも速い。応援が間に合わない。
レオンは私に気づいた。瞬時に、こちらへ来るなという目をした。
私も彼を見た。
三秒、考えた。
……もう、いいですよね。
隠し続けることより、大事なものができてしまいました。
印を結んだ。
十二年間かけて積み上げてきた抑制が、するりと解けた。
それはまるで、ずっと固く閉めていた窓を初めて開けたような感覚だった。魔力が溢れ出す。光が滲む。路地の石畳が、壁が、夜空が、白く染まっていく。
聖光が、三体の魔物を包んだ。
音もなく、三体は塵になって消えた。
静寂が戻った。
白い光の中に、私は一人で立っていた。
◆
しばらく、誰も動かなかった。
レオンが剣を構えたまま、私を見ていた。表情が読めなかった。驚きとも、困惑とも、何か別のものとも取れる顔だった。
私は先に口を開いた。
「あの、これにはいろいろ事情が——」
「……お前が聖女か」
静かな声だった。
「……はい」
「ずっと隠してたのか」
「……はい」
レオンが膝をついたまま、少し目を伏せた。しばらく何も言わなかった。
私も何も言えなかった。
謝るべきなのか。説明するべきなのか。でもどんな言葉を並べても、十二年間のことは変わらない。ずっと嘘をついていた事実は消えない。
……怒ってる。当然です。
幻滅してる。それも当然です。
私が悪かった。でも——
「……ずっと、しんどかっただろ」
顔を上げたら、レオンが私を見ていた。
怒っていなかった。
責めていなかった。
ただ、静かに、本当に静かに、そう言った。
「しんどかっただろ」
もう一度、繰り返した。
私は何も言えなかった。
泣きそうになった。前世含めて、生まれて初めてこんな場面で泣きそうになった。




