十話 全部、話した
レオンの傷の手当てをした。今度は隠さずに、治癒魔法を使って。
光が傷口を包んで、みるみる塞がっていく。レオンはその様子を、黙って見ていた。
手当てが終わってから、私はそこに座り込んで、全部話した。
前世の記憶のことから始めた。現代日本という別の世界で生まれて、働きすぎて死んで、この世界に転生したこと。五歳のときに聖女の資質が発覚して、石台を砕いたこと。
なぜ隠したかも話した。前世の記憶があったから、聖女という存在の末路を知っていた。国に縛られて、使い潰されて、自分の意志で生きられなくなる。それが怖かった。前世で一度、自分の人生を失っている私には、今世こそ自分らしく生きたかった。
レオンの話を聞いた後の罪悪感も話した。あなたの家族のことを知って、私が逃げ続けていることへの後ろめたさ。それでも怖くて言えなかったこと。
全部話しながら、私は自分でも驚いた。
こんなに言葉が出てくるとは思っていなかった。十二年間、一人で抱えてきたものが、溢れるように出てきた。
レオンは最後まで黙って聞いていた。
話し終えたとき、路地には静寂と、どこか遠くで聞こえる夜風の音だけがあった。
◆
しばらくして、レオンが言った。
「俺の家族のことを、気にしてたのか」
「……はい。あなたの話を聞いてから、ずっと」
「お前のせいじゃない」
「わかってます。でも罪悪感って、論理で消えるものじゃないので」
レオンが少し間を置いた。
「……俺は聖女制度を憎んでいた。でも今のお前の話を聞いて、わかった。お前が逃げていたのは、俺が憎んでいたのと、同じ理由だ」
「……」
「制度に縛られて、自分の意志を持てなくなることへの、抵抗だ。俺は力をつけることで抵抗した。お前は隠すことで抵抗した。方法が違っただけで、向いてる方向は同じだった」
私は何も言えなかった。
そんな風に考えたことがなかった。
「お前は何も悪くない」とレオンは続けた。「俺の家族が死んだのも、お前のせいじゃない。お前がこの世界に生まれる前の話だ」
「……でも、私には力があった。もっと早く、もっと多くの人を——」
「止まれ」
レオンが静かに言った。
「自分を責めるために力を使うことを正当化するな。お前が自分の意志を持って生きることを、誰も責める権利はない」
私はしばらく黙っていた。
そして気がついたら、泣いていた。
声を出さずに、静かに。でも確実に。
前世でも、今世の十七年間でも、こんなに泣いたことはなかった。




