十一話 嘘とは思っていない
しばらくして、涙が止まった。
レオンが何も言わずに待っていた。急かさなかった。ただ、そこにいた。
泣き止んでから、私は少し深呼吸して、口を開いた。
「……怒らないんですか」
「何に」
「ずっと嘘をついていたことに」
レオンが少し考えるような間を置いた。
「嘘とは思っていない」
「でも私は——」
「自分を守るために隠していた。それは嘘とは違う。俺だって、家族のことを誰にでも話すわけじゃない。話せる状態になるまで待てばいいと言ったのは、俺だ」
「……それは」
「お前が話してくれたことが、嬉しかった」
静かで、飾りのない言葉だった。
私はしばらく黙っていた。
……この人は、どうしてこんなに真っ直ぐに人を受け取れるんでしょう。
責めてくれた方が、楽だったのに。
全部受け止められてしまったら、もう逃げ場がない。
◆
「一つ、聞いていいか」
「何ですか」
「これから、どうするつもりだ」
私は空を見た。夜が終わりかけていた。東の方が薄く白んでいた。
「……わからないです。まだ。聖女院に登録するつもりはありません。制度に縛われるつもりもない。でも——見て見ぬふりをして生きるのも、もう私には無理だとわかりました」
「なら、どうする」
「自分で決めたいんです。どこで、誰のために、何をするか。制度に言われるんじゃなくて、自分の意志で」
レオンが頷いた。
「それでいい」
「……怒らないんですか。国に貢献しろとか、登録しろとか」
「俺はお前に、制度に縛われてほしくて騎士になったわけじゃない」
私は少し笑った。前世も今世も合わせて、この夜が一番素直に笑えた気がした。
◆
立ち上がろうとしたとき、レオンが言った。
「アリア」
「はい」
「聖女だから側にいたいんじゃない」
まっすぐに、私を見て。
「お前だから側にいたい。それだけだ」
私は立ち上がる途中で固まった。
夜明け前の薄い光の中で、レオンの表情はいつもより少しだけ柔らかかった。
「……それは、どういう意味ですか」
「そのまんまの意味だ。わからないなら近づいて説明する」
「……近づかないでください」
一歩、近づいてきた。
私は避けなかった。
……あ、これはもう、終わりですね。
完全に、逃げられなくなりました。
……でも。
不思議と、それが怖くなかった。




