十二話 逃げなくていい場所
夜が明けた。
王都の北側の戦線は夜明けとともに騎士団が押し返し、魔物の群れは撤退した。避難勧告は解除され、街は少しずつ日常を取り戻していった。
私はレオンと一緒に、父と母のところへ向かった。二人は私の顔を見るなり安堵して、それから私の隣にいるレオンを見て、何も言わずに少し笑った。
……二人とも、何か言ってください。
その日の夕方、店に戻ってから、私は作業場で薬草の仕分けをした。いつもと変わらない作業だった。でも何かが違った。
窓から夕日が差し込んでいた。橙色の光が薬草の葉を照らしていた。
私はしばらく手を止めて、その光を見ていた。
前世では、窓から夕日を見る余裕もなかった。今世では、見ていたけれど一人だった。
今日は——一人じゃなかった。
……隠して生きることと、自分らしく生きることは、両立できないと思っていました。
でも、もしかしたら。
制度に縛られなくても、誰かに全部話せる場所があるなら。
逃げなくても、いいのかもしれない。
扉をノックする音がした。
「アリア、レオンさんが来てるよ」
母の声だった。
私は薬草を机に置いて、立ち上がった。
扉を開けたら、廊下にレオンが立っていた。手に薬草の束を持っていた。
「……何ですか、それ」
「採取してきた。種類が合ってるか見てくれ」
「副団長が薬草を採取するんですか」
「非番だった」
「非番の日に薬草採取ですか」
「悪いか」
悪くない。全然悪くない。
私は少し笑って、薬草を受け取った。
ちゃんと良いものを選んできていた。根の部分の香りも強い。きちんと勉強している。
……本当に、ずるい人です。
でも、好きです。
「合ってます。上出来です」
レオンが少し、本当に少しだけ、口の端を上げた。
私はそれを見て、また前を向いた。
夕日の色が、窓の向こうで深くなっていた。
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第四章へ続く




