三話 放っておけない性分
問題が起きたのは、それからさらに二週間後のこと
だった。
その日私は採取のために王都の外の草原に出ていた。城壁の外にある草原は魔物の出没地域と隣接しているため、単独行動は推奨されていない。でも昼間の浅い時間帯なら滅多なことはないし、私には万が一の場合の「手段」があるので問題なかった。
問題は私の側ではなく、別の場所で起きていた。
草を分けながら奥に進んでいたとき、遠くから金属音が聞こえた。剣が何かに当たる音だ。続いて低い唸り声。魔物の声だった。
……関係ない。関係ない。私には関係ない。
足が勝手に音のした方向へ向いた。
茂みを掻き分けて出た先に、若い騎士が一人いた。十八か十九か、そのくらいの年齢で、三体の中型魔物に囲まれていた。剣を構えているがすでに左腕から血が出ている。顔が青ざめていた。
私は三秒考えた。
……見て見ぬふりができる人間に、私はなれそうにありません。本当に困ったことです。
地面から小石を拾い上げた。魔力を極力絞り、
必要最小限だけを込める。これくらいなら魔力感知に引っかかる可能性は低い。
三つ、投げた。
魔物の急所にそれぞれ命中し、三体は動きを止めた後、塵になって消えた。
若い騎士が呆然とこちらを見ていた。
「お怪我はありますか」
「あ、はい……えっと、あなたは」
「通りがかりです。腕の傷を見せてください」
騎士の左腕の傷を確認しながら、素早く薬草を取り出して応急処置をした。これは本物の薬草処置だ。
傷は浅い。時間をかければ自然に治る程度の
ものだった。
処置をしながら、背後で足音がした。
「ラウル、無事か」
振り返ると、レオンが立っていた。
「……なぜここに」
「訓練中に部下が一人草原に消えたと報告が入ったので追った。お前こそなぜ城壁の外にいる」
「薬草採取です」
「一人でか」
「たまにやります」
レオンは私と、動けなくなっている魔物の残骸と、傷の手当てをされている部下を順番に見た。何かを察したような顔をしたが、何も言わなかった。
代わりに、私の手元にある薬草の束をひとつ
持ち上げた。
「採取の続きはするか」
「……はあ」
「付き合う。一人で来るな」
これは監視なのか、それとも本当に心配しているのか、どちらなのでしょう。
判断がつかないまま、結局その日は三人で草原を歩いた。レオンの部下のラウルはすっかり元気を取り戻して「お姉さんすごかったですね! あの石の投げ方、どこで習ったんですか」などと無邪気に聞いてきた。
「独学です」
「独学でああなるんですか!?」
「運が良かっただけです」
レオンはその会話の間中、何も言わなかった。ただ黙って、少し前を歩きながら周囲に目を配っていた。
帰り際、城門のところで別れるとき、レオンがぽつりと言った。
「……お前、ああいうの放っておけないよな」
責めているわけでも、からかっているわけでもなかった。ただ、事実として。
私は少し間を置いてから答えた。
「……そういう性分なので」
レオンが頷いた。それ以上何も言わなかった。
店に戻ってから、私はしばらく手を動かせなかった。
この人は私を見ている。聖女かどうかじゃなく、
アリア・ヴェルメールという人間を。その目が、
どうにも居心地が悪かった。
……これは、困ります。
その夜、なぜか眠れなかった。
前世も今世も、ずっとひとりで抱えてきた秘密がある。それを誰かに話せたら、どんなに楽だろうと
思ったことは何度かある。でも話せる人間が
いなかった。話せば聖女院に通報されるか、
国に利用されるか、あるいはただ怖がられるかの
どれかだった。
だから私はずっと、一人で笑って一人で誤魔化して
きた。
レオンに「ああいうの放っておけないよな」と言われたとき、なぜそんなに胸に刺さったのかを、その夜ようやく理解した。
嘘の私ではなく、本当の私を見た上で言われた
言葉だったから。
私はしばらく天井を見つめてから、目を閉じた。
……好きになるじゃないですか。
やめてください。本当に。
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第二章へ続く




