二話 また来る、の意味
終わりではなかった。
三日後、また来た。
今度は薬草を買いに来た。ヒール草を五束。
金を払って、受け取って、「また来る」とだけ言って帰った。
……なぜ?
次の週も来た。今度は魔力草を三束。
その次の週も来た。ヒール草の軟膏があるかと聞くので作って渡したら、代金より多めに置いていった。
父はすっかり顔馴染みとして扱い始め、母にいたっては「感じの良い青年ね」と言い出した。私だけが警戒心を保っていたが、それも段々と難しくなってきた。
男の名前はレオン・アシュフォードといった。
騎士団の副団長だと、後から父に聞いた。
二十二歳で副団長というのは異例の速さらしく、
父は「すごい人が来るようになったね」と
嬉しそうだった。
私の感想は「副団長がわざわざ外れの薬草屋に来なくてもいいのでは」だったが、口には出さなかった。
◆
変化が起きたのは、レオンが通い始めてひと月ほどが経った頃だった。
その日、店に来た彼は珍しく薬草を買わずに「少し時間があるか」と言った。
「何でしょう」
「配達の荷物が重そうだった。手伝う」
見れば、今日の配達用に束ねた薬草の荷物が入口近くに積んであった。確かに今日は量が多い。でも。
「……副団長が薬草の配達を手伝うんですか」
「非番だ」
「非番の日に薬草屋の手伝いをするんですか」
「悪いか」
悪くはない。悪くはないが、どう反応すればいいのかわからなかった。
結局、断れないまま一緒に配達に出た。レオンは文句ひとつ言わずに重い荷物を持ち、私が道を案内するのについてきた。おかげで普段の半分の時間で配達が終わった。
帰り道、二人で並んで歩きながら私はこっそりレオンの横顔を観察した。
表情が乏しい人だと思っていたが、よく見ると微妙に変化がある。子どもが道端で転んだのを見た瞬間、目が素早くそちらに向いた。迷子らしき小さな女の子が立っていたとき、ほんのわずかに眉が動いた。
放っておけない人なのだ、と思った。表情には出ないけれど、目が正直だった。
……なんで私を助けに来ているのか、それだけは未だにわかりません。
店に戻る少し前、急に雨が降り出した。軒先に駆け込んで雨宿りをしながら、自然と隣に並ぶことになった。
レオンは雨を眺めながらぽつりと言った。
「……薬草、昔から好きだったのか」
「父の仕事を手伝ううちに覚えました。あと、病気や怪我の人を助けたくて、自分でも勉強して」
珍しく本当のことを言ってしまった。きっと油断していたのだと思う。
レオンがこちらを向いた気配がした。
「……そうか」
それだけだった。でもその「そうか」の重さが、なぜかずっと頭に残った。この人にも、病気や怪我で誰かを失った記憶があるのかもしれない。
そんな気がした。
聞かなかった。聞く理由もなかった。自分が嘘をついているのに、この人の本当のことを聞く資格が自分にあるとは思えなかったから。
雨が上がるまで、二人でしばらく
黙って空を見ていた。




