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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
続編①   ふたりの、ごく普通の日常

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翌朝

翌朝、父が帰ってきた。


父は店に入ってきて、私を見て、何も言わずにほほえんだ。


「……何ですか」


「なんでもないよ」


「絶対何かあります」


「アリア、顔が明るい」


「……そうですか」


「そうだよ。前からもきれいな顔をしていたけど、今日はもっと明るい。なんか、重いものを下ろした人の顔だ」


……父は、いつも正直です。

母が奥から出てきて、私の顔を見て、にっこりして何も聞かなかった。


この二人は、時々何も言わないことで全部言う。


……わかっています。

ありがとうございます。

朝食の後、母がそっと「昨夜はちゃんとご飯食べた?」と聞いてきた。


「……食べました」


「レオンさんは?」


「あ、えっと」


「今度来たとき、ちゃんとご飯出してあげなさいね。あの人、仕事が多いから食事が不規則そうだから」


「……はい」


母がにっこりして台所に戻った。


……お母さんは、どこまで察しているんですか。

全部ですね。全部です。わかっています。


その日、レオンが来た。


父が「いらっしゃい」と言って、普通に薬草を売って、普段通りに話した。


帰りがけに、小声でレオンに「アリアをよろしく頼みます」と言っていた。


私は作業場の奥から聞こえていたが、聞こえていないふりをした。


……お父さん。

レオンが作業場に顔を出した。


「アリア」


「はい」


「今日も非番だ」


「……そうですか」


「手伝う」


「今日は重い配達がありますよ」


「ちょうどいい」


……相変わらずです。

でも、もうそれで、いいです。

私は薬草の束を渡した。レオンが受け取った。


二人で店を出た。冬の朝の光が、石畳を白く照らしていた。


「昨日のこと、後悔してないか」


レオンが歩きながら聞いた。


「していません。あなたは」


「俺がするわけがない」


即答だった。


……そうやって、すぐに言えるところが、好きです。

「……では、これからもよろしくお願いします」


「ああ」


それだけだった。でも、冬の朝の光の中で、それで十分だった。


配達の荷物を分けて、二手に別れて、また合流して。それだけのことが、昨日と今日とでは全然違って見えた。



帰り道、並んで歩きながら、レオンが言った。


「母上に、挨拶に来てもいいか」


「……え」


「今さっき『よろしく』と言われた。応えたい」


……この人は、本当に。

何でもないように言うんです。

「……そのうち、ぜひ」


「わかった。都合のいい日を教えてくれ」


「はい」


石畳が光を受けて輝いていた。



昼過ぎ、配達を終えて戻ったら、母が温かいスープを作っていた。


「二人分あるから、レオンさんも食べていきなさいな」


レオンが私を見た。


「うちの母がどうぞと言っていますので」


「では、いただく」


三人でテーブルを囲んだ。父はまだ戻っていなかった。母がゆっくりと話した。アリアが小さかった頃の話、薬草屋を始めた頃の話。


レオンは黙って聞いていたが、時々短く質問した。「そのときアリアは何歳でしたか」とか「その薬草はどこで手に入れたんですか」とか。


……私のことを、聞いていました。

母の話の中の私のことを。

「……そんなこと気になるんですか」


「お前の昔を知りたい」


母がにっこりした。


「レオンさん、またいつでも来てね。アリアの話、まだまだあるから」


「ぜひ」


レオンが即答した。


……うちの母に取り込まれています。

でも、まあ、いいです。歓迎されているのは、悪いことじゃないので。

帰り際、門のところでレオンが言った。


「お前の家族は、温かいな」


「そうでしょうか。普通だと思っていましたが」


「普通じゃない。俺にはなかったものだ」


静かな声だった。


……この人の家族の話を、以前聞いた。

だから、余計なことは言いませんでした。

「……ここは、あなたの場所でもあります」


言ってから、少し恥ずかしくなった。でも、取り消さなかった。本当のことだったから。


レオンがしばらく私を見た。それから静かに、「ありがとう」と言った。


その一言が、冬の朝の光の中に、静かに溶けていった。


……前世も今世も、こんな朝を迎えたかっただけでした。

ようやく、やっと。

それが、ここにあります。


夜、床に就いてから、今日一日のことを思い返した。


父の「よろしく頼みます」と、レオンの「ぜひ」。母のスープ。「お前の昔を知りたい」という言葉。「ここはあなたの場所でもあります」と言えたこと。「ありがとう」という静かな返事。


全部、今日の出来事だった。


……前世では、こんな一日はありませんでした。

こんなに普通で、こんなに温かい、ごく普通の一日が。

「普通」が、こんなに贅沢なものだったとは。

窓の外で風が鳴った。冬の夜の音だった。


明日もレオンが来るかもしれない。来たら、昨日お母さんがスープを作ってくれた話をしよう。それだけでいい。それだけのことが続いていけばいい。


……そういう日々が、始まりました。

遅くなりましたが、始まりました。

明日の朝も、六時に起きて、掃除して、仕分けをする。


それだけのことが、昨日まで一人でしていたことと、今日からは少し違う。


隣に誰かがいる日々というのは、こんなにも違うものなのか。


前世の私に一度だけ伝えられるなら——そんなに遠くない場所に、ちゃんとあるよ、と言いたかった。


……でも今は、自分でわかっています。

ここにあります。


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