翌朝
翌朝、父が帰ってきた。
父は店に入ってきて、私を見て、何も言わずにほほえんだ。
「……何ですか」
「なんでもないよ」
「絶対何かあります」
「アリア、顔が明るい」
「……そうですか」
「そうだよ。前からもきれいな顔をしていたけど、今日はもっと明るい。なんか、重いものを下ろした人の顔だ」
……父は、いつも正直です。
母が奥から出てきて、私の顔を見て、にっこりして何も聞かなかった。
この二人は、時々何も言わないことで全部言う。
……わかっています。
ありがとうございます。
朝食の後、母がそっと「昨夜はちゃんとご飯食べた?」と聞いてきた。
「……食べました」
「レオンさんは?」
「あ、えっと」
「今度来たとき、ちゃんとご飯出してあげなさいね。あの人、仕事が多いから食事が不規則そうだから」
「……はい」
母がにっこりして台所に戻った。
……お母さんは、どこまで察しているんですか。
全部ですね。全部です。わかっています。
◆
その日、レオンが来た。
父が「いらっしゃい」と言って、普通に薬草を売って、普段通りに話した。
帰りがけに、小声でレオンに「アリアをよろしく頼みます」と言っていた。
私は作業場の奥から聞こえていたが、聞こえていないふりをした。
……お父さん。
レオンが作業場に顔を出した。
「アリア」
「はい」
「今日も非番だ」
「……そうですか」
「手伝う」
「今日は重い配達がありますよ」
「ちょうどいい」
……相変わらずです。
でも、もうそれで、いいです。
私は薬草の束を渡した。レオンが受け取った。
二人で店を出た。冬の朝の光が、石畳を白く照らしていた。
「昨日のこと、後悔してないか」
レオンが歩きながら聞いた。
「していません。あなたは」
「俺がするわけがない」
即答だった。
……そうやって、すぐに言えるところが、好きです。
「……では、これからもよろしくお願いします」
「ああ」
それだけだった。でも、冬の朝の光の中で、それで十分だった。
配達の荷物を分けて、二手に別れて、また合流して。それだけのことが、昨日と今日とでは全然違って見えた。
◆
帰り道、並んで歩きながら、レオンが言った。
「母上に、挨拶に来てもいいか」
「……え」
「今さっき『よろしく』と言われた。応えたい」
……この人は、本当に。
何でもないように言うんです。
「……そのうち、ぜひ」
「わかった。都合のいい日を教えてくれ」
「はい」
石畳が光を受けて輝いていた。
◆
昼過ぎ、配達を終えて戻ったら、母が温かいスープを作っていた。
「二人分あるから、レオンさんも食べていきなさいな」
レオンが私を見た。
「うちの母がどうぞと言っていますので」
「では、いただく」
三人でテーブルを囲んだ。父はまだ戻っていなかった。母がゆっくりと話した。アリアが小さかった頃の話、薬草屋を始めた頃の話。
レオンは黙って聞いていたが、時々短く質問した。「そのときアリアは何歳でしたか」とか「その薬草はどこで手に入れたんですか」とか。
……私のことを、聞いていました。
母の話の中の私のことを。
「……そんなこと気になるんですか」
「お前の昔を知りたい」
母がにっこりした。
「レオンさん、またいつでも来てね。アリアの話、まだまだあるから」
「ぜひ」
レオンが即答した。
……うちの母に取り込まれています。
でも、まあ、いいです。歓迎されているのは、悪いことじゃないので。
帰り際、門のところでレオンが言った。
「お前の家族は、温かいな」
「そうでしょうか。普通だと思っていましたが」
「普通じゃない。俺にはなかったものだ」
静かな声だった。
……この人の家族の話を、以前聞いた。
だから、余計なことは言いませんでした。
「……ここは、あなたの場所でもあります」
言ってから、少し恥ずかしくなった。でも、取り消さなかった。本当のことだったから。
レオンがしばらく私を見た。それから静かに、「ありがとう」と言った。
その一言が、冬の朝の光の中に、静かに溶けていった。
……前世も今世も、こんな朝を迎えたかっただけでした。
ようやく、やっと。
それが、ここにあります。
◆
夜、床に就いてから、今日一日のことを思い返した。
父の「よろしく頼みます」と、レオンの「ぜひ」。母のスープ。「お前の昔を知りたい」という言葉。「ここはあなたの場所でもあります」と言えたこと。「ありがとう」という静かな返事。
全部、今日の出来事だった。
……前世では、こんな一日はありませんでした。
こんなに普通で、こんなに温かい、ごく普通の一日が。
「普通」が、こんなに贅沢なものだったとは。
窓の外で風が鳴った。冬の夜の音だった。
明日もレオンが来るかもしれない。来たら、昨日お母さんがスープを作ってくれた話をしよう。それだけでいい。それだけのことが続いていけばいい。
……そういう日々が、始まりました。
遅くなりましたが、始まりました。
明日の朝も、六時に起きて、掃除して、仕分けをする。
それだけのことが、昨日まで一人でしていたことと、今日からは少し違う。
隣に誰かがいる日々というのは、こんなにも違うものなのか。
前世の私に一度だけ伝えられるなら——そんなに遠くない場所に、ちゃんとあるよ、と言いたかった。
……でも今は、自分でわかっています。
ここにあります。




