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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
続編①   ふたりの、ごく普通の日常

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冬の夜と、初めての言葉

冬が来た。


王都の冬は寒い。石畳が凍る朝もある。薬草屋は暖炉をたいて、温かいお茶を切らさないようにした。


ある夜、閉店後にレオンがいた。父と母は知人の集まりに出かけていて、店に二人だった。


閉店の片付けをしながら、ふと思った。こういう夜が、最近増えていた。父も母も、どこかに出かけることが増えた。偶然なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。


……どちらでも、ありがたいですが。

片付けが終わって、暖炉の前に二人で座った。火が揺れていた。外では風が吹いていた。


暖炉の前で向かい合って座りながら、しばらく何も言わずにいた。


沈黙が苦しくなかった。もう、ずっとそうだ。この人との沈黙は、何も言わなくていい沈黙だ。


レオンが火を見ながら言った。


「アリア」


「はい」


「お前と話していると、何か言えてしまう気がする」


「……何かとは」


「普段言えないことが」


私は少し考えた。


「それは……嬉しいです。私もそうなので」


「そうか」


「はい。あなたには、なぜか正直になれます。たぶん、あなたが私の話を受け取ってくれるとわかっているから」


レオンが少し私を見た。


「それは——俺もだ」


静かな声だった。


……この人は、こういうとき、少しだけ声が柔らかくなります。

最初は気づかなかった。でも今はわかります。

暖炉の火がぱちりと音を立てた。


「レオン」


「何だ」


「……あなたのことが、好きです」


言ってしまった。


前世でも今世でも、人にこういうことを言ったのは初めてだった。言えるとは思っていなかった。でも、今夜は言えた。この人の隣で、暖炉の前で、なぜか自然に言葉が出た。


レオンがこちらを向いた。しばらく、何も言わなかった。


それから。


「……知っている」


「……え」


「気づいていた」


「い、いつからですか」


「夜市の頃から」


夜市。あの焼き栗の夜だ。あの頃からずっと気づかれていた。


……それは、恥ずかしいですね。かなり。

ずっとバレていた。何も言わずに待っていてくれた。

「……知っていて、何も言わなかったんですか」


「お前が言いたくなるまで待った」


「……それは、また」


「俺も、同じ気持ちだ」


静かに、でもはっきりと。


「お前が好きだ。最初の夜から、ずっと」


……最初の夜から。

裏路地で倒れていた夜から。

ずっと、この人は。


暖炉の火が揺れていた。窓の外では、冬の風が吹いていた。


私は少し考えてから、言った。


「……最初の夜から、というのは、少し信じられないですが」


「本当だ」


「あのときは逃げましたよ、私」


「知っている。それでも気になった」


……気になった、ですか。

前世でも今世でも、こんなに嬉しいことを言われたのは初めてです。

「……私も、最初の夜から、少し気になっていました」


「少し、か」


「最初は少し、でした。今は、少しじゃないですが」


レオンが小さく笑った。声には出なかったが、確かに笑った。


「それでいい」


それだけだった。でも、それで十分だった。


どのくらいそうしていたかわからない。火が少し小さくなった頃、レオンが薪を一本くべた。当然のようにそうした。この店の暖炉の場所を知っていて、薪の置き場所も知っていて、何も言わずにやった。


……この人は、いつからこんなに馴染んでいるんでしょう。

でも、嫌じゃないです。全然。

「寒くないか」


レオンが聞いた。


「大丈夫です。暖炉が温かいので」


「そうか」


それきり、また黙った。今夜の沈黙はいつもより少し違った。重くもなく、軽くもなく、ただ満ちているような沈黙だった。


「……なあ、アリア」


「はい」


「前世の話をしてくれ」


少し意外だった。自分から聞いてくれることは珍しかった。


「どんなことを聞きたいですか」


「お前がどんな朝を過ごしていたか」


「朝、ですか」


「ああ。今お前は毎朝どんな朝を迎えているか知っている。前世の朝はどうだったか、聞いたことがなかったから」


……この人は、こういうことを聞きます。

大事なところを、さらっと。

「……慌ただしかったです。アラームが鳴って、急いで準備して、電車に乗って。朝ごはんを食べる時間もないことがよくありました」


「今は」


「今は、六時に起きて、掃除して、父と一緒に仕入れを確認して、朝ごはんを食べてから開店準備します。急ぐことがない」


「それは、いいか」


「……とても」


レオンが火を見た。


「俺も、ここに来る朝は、悪くないと思っている」


……ここに来る朝。

私のところに来ることを、朝の基準にしている。

……この人は、本当に。

冬の夜が、静かに更けていった。


どれくらい経ったか分からないが、外の風が弱くなった頃、レオンが立ち上がった。


「帰る」


「……はい」


扉のところで、レオンが少し振り返った。


「アリア」


「はい」


「……よかった」


それだけだった。何が、とは言わなかった。でも、わかった。


……私も、よかったです。

前世でも今世でも、こんな夜は初めてでした。

扉が閉まった。


暖炉の火だけが残った。


私はしばらくそのまま座って、火を見ていた。温かかった。


好きだと言えた。受け取ってもらえた。


それだけのことが、どれほど大きいことか、言葉にするのは難しかった。


……十二年間、一人で抱えていたものを下ろした夜とは、また別の意味で。

今夜も、何かを下ろした気がします。

言えなかった言葉が、やっと言えた夜でした。

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