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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
続編①   ふたりの、ごく普通の日常

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初めてのお出かけ

ある日、レオンが珍しいことを言った。


「明後日、時間があるか」


「明後日……特に何もないですが」


「出かけないか」


私は少し固まった。


「……出かける、とは」


「王都の西側に、良い茶館があると聞いた。行ってみたい」


「……お一人で?」


「お前と、だ」


……これはつまり。

デートのお誘い、というやつでは?

前世の記憶があるからわかりますが、いざ自分のこととなると、判断が鈍ります。

「……わかりました。行きます」


「そうか」


レオンはそれだけ言って、薬草を買って帰った。


私はその日の夕方から、翌日いっぱい、何を着ていくか悩んだ。


……前世でもこういうことはありました。悩んで、結局いつも着ている服で行くやつです。


当日。


いつもより少しだけ丁寧に身支度して、約束の時間に店の前に出たら、レオンが待っていた。


私服だった。普段の平服とは違う、少し落ち着いた濃い色の上着を着ていた。


……似合っている、とは言いません。心の中だけで思います。

言ったら何と返されるかわからないので。

「……待ちましたか」


「少し」


「少し早く来すぎではないですか」


「そうかもしれない」


反省している様子はまったくなかった。


二人で並んで歩いた。王都の西側は住宅街で、石畳の道が緩やかな坂になっている。朝市が立っていて、野菜や花が並んでいた。


私が花の屋台の前で少し足を止めたら、レオンがすかさず小さな花束を買ってきた。


「……また買ってきた」


「足が止まったから」


「これ、毎回その理由ですよね」


「毎回、足が止まるから」


花束を受け取った。白い小花が混じった、春らしい束だった。少し甘い香りがした。


……ずるい。本当にずるい。

でも、ありがとうございます、は言いました。


茶館は小さな店だった。石造りの壁に、窓から光が入って、木の椅子と丸テーブルが並んでいた。昼前の時間で、他の客が二組ほどいた。


お茶の種類が多くて、私は迷った。レオンは「好きなものを頼め」と言って、自分は一番普通のお茶を頼んだ。


「迷わないんですか」


「どれでも同じだ」


「全然同じじゃないですよ。この茶葉は甘みが強くて、こっちはすっきりしていて、これは少し渋みがあって……」


私が茶葉の説明をしていると、レオンが少しだけ口元を緩めた。


「詳しいな」


「薬草屋ですから。茶葉も植物ですし、成分の話になると止まらなくなります」


「そうか。じゃあ、お前が選んでくれ」


「私が?」


「お前が美味いと思うものが飲みたい」


……この言い方、少し反則だと思います。

少し考えて、今日の気分に合いそうなものを選んだ。蜂蜜の香りがするお茶だった。


二人で飲んだら、レオンが「悪くない」と言った。それがこの人の最大限の称賛だと、最近わかってきた。


「また来るか」とレオンが聞いた。


「……行きたいです」


「そうか」


それだけだったが、少し嬉しそうに見えた。目の端が、わずかに緩んだ。


……少し、ですよ。目の端がほんの少し緩んだだけです。

でも私はこの人の表情が少しずつわかるようになってきたので、見えます。

……見えると、なんだか少し得をした気分になります。

帰り道、また花の屋台の前を通った。


私は意識的に足を止めないようにした。


レオンが横で少し止まった。


「足が止まらなかったな」


「……気づいていたんですか」


「当然だ」


……全部見られていました。

でも結局また花束を買ってくれたので、意味はなかったです。


店の前まで戻ったとき、レオンが言った。


「今日は、良かった」


「……そうですか」


「ああ。また行こう」


「次はどこですか」


「お前が行きたい場所を決めていい」


「私が決めるんですか」


「お前が楽しい方がいい」


……この人は、こういうことをさらっと言います。

「お前が楽しい方がいい」って。

どんな顔で受け取ればいいか、わからないんですが。

「……では、考えておきます」


「ああ」


「良い場所が見つかったら、教えます」


「楽しみに待つ」


それだけ言って、レオンは帰っていった。


私は花束を持ったまま、しばらく石畳の上に立っていた。


……次はどこに行こうか、もう考えています。

処理が追いついていないと言いましたが、どうやら追いついてきたかもしれません。

その夜、父に「今日はどこかに行ってたの」と聞かれた。


「茶館に」


「レオンさんと?」


「……はい」


父がにっこりした。何も言わなかった。それがかえって恥ずかしかった。


母は夕食を作りながら「楽しかった?」とだけ聞いた。


「……楽しかったです」


「そう」


それだけだった。でも母は少し嬉しそうに見えた。


……この家族は、言わないことが多いですが、言わない分だけ伝わってきます。

ありがたいことです。

床に就きながら、今日行った茶館のことを思い出した。あの蜂蜜のお茶。窓から差し込んでいた光。向かいに座っていたレオンの顔。


また行こうと思う。次は私が場所を選ぶ番だ。


……どこにしようか、考えるのが楽しみです。

こんな気持ちになるのも、前世以来初めてかもしれません。

いや、前世でもなかったかもしれません。


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