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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
番外編②   エミリアの聖女院日記

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ある春の日

春になった。


聖女院の中庭に白い花が咲いた。毎年咲く花だったが、今年は少し違って見えた。


エミリアはその花を見ながら、一年前のことを思い出した。


あの夜の聖光を見て、調べて、アリアの店を訪ねて。「通報しに来たわけじゃない」と言ったら、アリアが少し目を丸くした。あの顔がおかしくて、少し笑いそうになった。


友人ができたのは、初めてだった。


聖女院では、仲間はいた。でも、対等な友人は、いなかった。聖力の強弱が序列になる場所では、どうしても距離ができた。エミリアは力が強い方だったから、後輩には頼られた。でも同じ目線で話せる相手がいなかった。


アリアは聖女院の外の人間だった。制度の外にいた。だから対等に話せた。


……人間って、外側に出たとき、変わるものなのかもしれない。

私も少し変わった。アリアも変わった。

一緒にいて、変わり合った。


昼過ぎ、院内の仕事を終えて、エミリアは外出の申請を出した。月に一度の食事の日だった。


薬草屋に向かう道を歩きながら、エミリアは少し足を速めた。


アリアが今日は新しい薬草茶を試すと言っていた。「前世でいうところのハーブティーに近いもの」らしい。よくわからないが、おいしいらしかった。


……楽しみだ。

こんな風に何かを楽しみにするのが、当たり前になった。

それも、きっとアリアのおかげだ。

薬草屋の扉を開けたら、薬草の匂いがした。


アリアが奥から顔を出した。


「いらっしゃい。今日はちょうどいい感じに仕上がりました」


「何の?」


「薬草茶です。座って待っていてください」


エミリアは椅子に座った。窓から春の光が差し込んでいた。


しばらくして、アリアが二つのカップを持ってきた。湯気が立っていて、少し甘い香りがした。


「どうぞ。蜂蜜を少し入れました」


一口飲んだ。温かくて、優しくて、おいしかった。


……聖女院の外には、こういうものがある。

知らなかった。知れてよかった。


「今日はどうでしたか」とアリアが聞いた。


「院長に、登録制度の見直しについて改めて提案しました。少し前向きな返事をもらいました」


「進んでいますね」


「アリアさんの話が出ました。あなたの行動が、院内でも話題になっています」


アリアが少し困った顔をした。「それは、あまり嬉しくないですが」


「良い意味で話題になっています。自分の意志で動いた聖女として。あなたの存在が、制度の内側にいる私たちにとって、一つの問いになっているんです。制度に守られることと、制度に縛られることは、本当に同じことなのかという問いが」


アリアが少し間を置いて、「そうですね」と言った。


「エミリアさんは、賢いですね」


「そんなことないです」


「ありますよ。私は前世の記憶がある分、この世界に素直になれないことがある。でもあなたは今世の中でちゃんと考えて、今世の言葉で答えを出している」


……そんな風に見てくれていたのか。

エミリアは少し頬が温かくなるのを感じた。


「……ありがとうございます」


「本当のことです」


二人でしばらく薬草茶を飲んだ。春の光が、カップの表面で揺れていた。


「また来月」


「はい。また来月」


帰り道、エミリアは空を見上げた。春の青い空だった。


……前は、この空を見てもなんとも思わなかった。

今は、きれいだと思う。

来年もこの空の下で、また会えるといい。

再来年も、その先も。

――――◆――――



続編③「ふたりの日常」へ続く

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