月に一度の時間
魔瘴が収まってから、月に一度の食事が続いた。
ある日、食堂でアリアが焼き栗の入った袋を持ってきた。
「レオンが買ってきてくれたんです。多すぎたので」
「……レオンさんが」
「はい。最近やたらと食べ物を買ってくるんです。私が足を止めるたびに」
……それは、完全に好意です。アリアさん。
「気づいていないんですか」
「何をですか」
「……いえ、なんでも」
エミリアは焼き栗を一つ食べた。甘くておいしかった。
「アリアさんは、幸せですか」
少し唐突な質問だった。アリアが少し考えた。窓の外の光を見て、手元のお茶を見て、それからエミリアを見た。
「……幸せです。前世も今世も、こんなに穏やかな気持ちになったことはなかったので」
「よかった」
「エミリアさんは?」
今度はエミリアが考える番だった。
「……私も、最近、少し変わりました。院長に申し出たことがいくつか通り始めて、地方への派遣が少し増えました」
「それはすごい」
「まだ小さな変化ですけど。でも、言い続ければ変わると、思えるようになりました。一人で言っていたのが、同じように思っている人が他にもいるとわかって、少し楽になりました」
……それはきっと、アリアに会ったからだ。
この人が自分の意志で立っているのを見て、私も変わりたいと思った。
「……友達になってよかったです」
エミリアが言ったら、アリアが少し笑った。
「私もです。毎月、楽しみにしています」
「私もです」
二人でしばらく、焼き栗を食べた。
甘くておいしかった。レオンさんが買ってきたものだ、と思ったら少し可笑しかった。あの無口な副団長が、アリアが足を止めるたびに何かを買ってくる。
……きっとアリアさんはまだ、あまり気づいていない。
でも、わかる日が来るといいな、と思う。
もう来ているかもしれないけれど。
帰り際、アリアが包みを持たせてくれた。
「残った薬草茶の葉です。院でも飲めますよ」
「……ありがとうございます」
「また来月」
「はい、また来月」
温かい包みを抱えて、エミリアは帰り道を歩いた。
空が夕暮れに染まり始めていた。橙色と紫が混ざった、きれいな空だった。
院に戻れば、また夜の業務が待っている。報告書を書いて、明日の依頼の準備をして、就寝は二十二時。毎日同じ。
でも、今日一日は、昨日とは少し違う一日だった。
……友人がいる、ということが。
こんなに毎日を違うものにするとは、思っていませんでした。
院の部屋に戻って、薬草茶の葉を棚の上に置いた。小さな包みだったが、なんだか存在感があった。
明日の朝、これを淹れてみよう。礼拝の前に、少しだけ。
……来月も、また会いに行こう。




