院内の変化
魔瘴の本格化が近づいてきた頃、エミリアは院長に申し出た。
「地方への派遣枠を増やすことを、検討していただけませんか」
院長が眉を上げた。エミリアが業務改善の提案をするのは、初めてのことだった。
「どういう意味ですか」
「現在の体制では、王都の守りに聖力が集中しすぎています。地方の小さな村や農村への対応が遅れている。病気や魔物の被害で苦しんでいる人たちへの手が、届いていない場所があります。もう少し柔軟に動けるよう、仕組みを変えたい」
院長が少し考えた。
「……あなたがそういうことを言い出すとは、思いませんでした」
「最近、外の景色を見るようになりました」
それ以上は言わなかった。でも院長は何かを察したような顔をして、「検討します」と言った。
……一度では変わらない。
でも、言い続ければ、少しずつ変わっていく。
アリアが教えてくれたことだ。言葉で言ったわけじゃないけれど、その生き方が教えてくれた。
翌週、もう一度申し出た。具体的な案を持って行った。どの地方に、どの頻度で、何人を派遣すれば効率がいいか。数字を出した。院長が少し前のめりになった。
さらに翌週、先輩聖女の一人が「私も地方への派遣を希望します」と言ってきた。エミリアの動きを見ていたらしかった。
……一人じゃなくなった。
そういうものなんだ、と思った。
◆
魔瘴の夜、エミリアは王都の東側の防衛を担当していた。
北側でアリアが動いているのは、聖力の気配でわかった。あの規模と純度は間違いない。
……行きたい。
でも、私がここを離れたら東側が崩れる。
歯を食いしばって、持ち場を守り続けた。
夜明け近く、アリアの聖力が一気に解放されるのを感じた。白い光が北の空を染めた。
……やった。
アリアがやった。
東側の魔物が一斉に動きを止めて、逃げ始めた。魔瘴の核が消えた影響だった。
エミリアは剣を持った騎士たちに囲まれながら、北の空を見上げた。
きれいだと思った。その光を出した人のことを、誇りに思った。
そして——自分も、もっと動けるようになりたいと思った。制度の内側からでも、もっと。
……アリアは外から変えようとしている。
私は内側から変えよう。それが私の場所だから。
翌朝、エミリアは院長室を訪ねた。昨夜の戦いの報告を兼ねて、もう一つ話があると伝えた。
「地方への派遣を、もっと増やしてほしいんです。昨夜、東側を守りながら考えていました。騎士団が守っているのは城壁の中だけじゃない。地方の村や農村にも、手が届いていない場所がある」
院長がしばらくエミリアを見ていた。
「……また提案ですか」
「はい。今度は具体的な案を持ってきました」
……一度では変わらない。でも、言い続ける。
それだけは、アリアに教えてもらいました。




