初めて会った日
店に入ったとき、薬草の匂いがした。棚にきれいに並んだ薬草の束、清潔な作業場、整えられた道具たち。手入れの行き届いた店だった。
奥からアリア・ヴェルメールが出てきた。エミリアより一つ年上の、落ち着いた雰囲気の娘だった。警戒しているのかと思ったが、どこか自然体で、笑顔に作り物の感じがなかった。
「あなたが、先日の聖光の源だと思っています」
単刀直入に言った。エミリアは遠回しな会話が得意ではない。
アリアが少し考えて、「……そうです」と答えた。
……正直な人だ。
もっと否定すると思っていた。「何のことですか」とか「私には関係ない話です」とか。
でもあっさりと認めた。
「やはり。……あなたの力、すごかったです。私には、ああはできない」
「あなただって十分な力をお持ちですよ」
「違います」
エミリアは自分の力の限界を知っていた。訓練を重ねて、今の自分が出せる最大値を把握していた。そして、アリアの力がそれをはるかに超えていることも、感じてわかった。
なぜ隠しているのか聞いた。アリアが話してくれた。制度への恐怖、自分の意志で生きたいという気持ち。
聞きながら、エミリアは自分のことを考えていた。
……私は、選んでここにいる。
でもそれは、他に選択肢がなかっただけかもしれない。
アリアには選択肢があって、逃げた。私には選択肢がなくて、従った。
どちらが正しいかなんて、わからない。でも——どちらも、本物の選択だと思う。
◆
帰り際、エミリアは口を開いた。
「友達になってもらえますか」
自分で言っておいて、少し恥ずかしかった。でも、言わずにいられなかった。こんな風に自分の言葉で話してくれる人と、ちゃんと友人になりたかった。
アリアが「もうなってますよ」と笑った。
……もうなってる。
そう言われたのが、なぜかとても嬉しかった。
聖女院に戻りながら、エミリアは少し足取りが軽くなっているのに気づいた。
夕暮れの石畳が橙色に染まっていた。いつもと同じ道なのに、少し違って見えた。
明日も朝五時に起きて、礼拝をして、訓練をする。それは変わらない。でも今日、何かが変わった気がした。
……友人、か。
聖女院の外に、友人ができた。
それがこんなに、胸のあたりを温かくするものだとは思わなかった。
院の門をくぐるとき、空を見上げた。夕星が一つ、出始めていた。
……また来よう。
また話しに行こう。それだけで、明日の朝が少し楽しみになる。
今日初めて「友達になってもらえますか」と誰かに言った。それも院の外の人間に。自分でも驚いている。でも、言って正解だったと思う。




