聖女院の朝
エミリア・ソーンの一日は、夜明けより少し前に始まる。
王都の中央にそびえる聖女院は、外から見ると荘厳で美しい建物だ。白い石造りの壁、高い尖塔、中庭に咲く白い花。訪れる人々は口を揃えて「神聖な場所だ」と言う。
中で暮らしているエミリアには、少し違う景色に見えていた。
早朝五時に起床。礼拝が一時間。朝食を挟んで、午前中は聖力の訓練と座学。午後は依頼対応か院内の補助業務。夕食後に報告書の記入。就寝は二十二時。
毎日同じ。毎週同じ。毎月同じ。
規則正しい生活だ。それは嫌いではなかった。家が貧しかった頃は、次の食事がいつになるかわからない日もあった。今は毎日、決まった時間に温かい食事が出る。それがどれほどありがたいことか、エミリアはよく覚えていた。
聖女院に入ってから四年。訓練の成果は出ていた。先輩聖女からも院長からも、「見込みがある」と言われるようになった。家族への仕送りも続けられている。制度の中で、エミリアはちゃんと生きていた。
でも、ときどき思うことがあった。窓から外を見るとき、街を歩く人たちを見るとき——あの人たちの朝は、どんな朝なのだろう、と。
……私はこの生活が、嫌いではない。
でも、これだけが「聖女の生き方」だとは、思えなくなってきた。
きっかけは、ひとりの娘との出会いだった。
◆
あの夜の聖光を見たとき、エミリアは思わず窓から身を乗り出した。
白い光が夜空を割った。その規模と純度は、エミリアがこれまで感じたことのない次元のものだった。院長の光とも、先輩聖女たちの光とも違う。もっと根元的な、大きなものだった。
同室の先輩聖女が「魔物が逃げていく」と騒いでいたが、エミリアは光の質だけを追っていた。
……あの聖力は、誰のものだ。
院内の誰でもない。院長でも、最上位の聖女でも、こんな光は出せない。
これほどの聖力を持つ者が、登録されていないはずがない。
では——なぜ、登録されていないのか。
翌朝、サイラス調査官が動いているという話が聞こえてきた。エミリアは独自に調べることにした。
聖力の残滓を辿るのは、エミリアの得意とする能力だった。繊細な感知が必要な作業で、調査官には難しいが、エミリアには自然にできた。
残滓の痕跡は王都の外れへと続いていた。
「ヴェルメール薬草店」という看板の前で、残滓は止まっていた。
……薬草屋。
この街で何年も、普通の薬草屋として生きてきた人が、あの光を出した。
なぜ。どうして。
聞きに行かなければ。




