全部知って、それでも
正体を知ったのは、あの夜だった。
白い光が路地を染めた瞬間、全部わかった。
最初の夜から薄々感づいていた。あの光、あの熱、傷の塞がり方。薬草でできることではなかった。聖力だ、とは思っていた。でも確信はなかった。今夜の光を見て、確信した。
……聖女だったのか。
だから隠していたのか。
十二年間、ずっと一人で抱えてきたのか。
アリアが誤魔化そうとした。笑って、「これにはいろいろ事情が——」と言いかけた。
遮った。
「……お前が聖女か」
「……はい」
「ずっと隠してたのか」
「……はい」
アリアが俯いた。謝る言葉を探しているような、怖がっているような顔だった。責められると思っているのだろう。
……怒るべきなのか。
騙されていたと、そう思うべきなのか。
でも不思議と、怒りは湧いてこなかった。
代わりに思ったのは——この娘は、ずっとしんどかっただろう、ということだった。
十二年間。ひとりで抱えて。笑って誤魔化して。信頼できる相手もなく。
……それは、しんどい。
俺が家族の話を誰にも言えなかった十二年間と、同じくらい、しんどかったはずだ。
「……ずっと、しんどかっただろ」
アリアが顔を上げた。
泣きそうな目をしていた。
……泣いていい。
全部話してくれ。
俺はここにいる。
◆
全部聞いた。
前世の話。転生の話。五歳で力が発覚したこと。制度が怖くて十二年間隠し続けたこと。俺の家族の話を聞いてから罪悪感を抱えていたこと。
聞きながら、思った。
……この娘は、俺のことを考えていてくれたのか。
俺が気づかなかっただけで、ずっと。
「俺の家族のことを、気にしてたのか」
「……はい。あなたの話を聞いてから、ずっと」
「お前のせいじゃない」
これは本心だった。
アリアが逃げていたのは、俺が憎んでいた制度から逃げていたのと、同じことだった。方法が違っただけで。俺は力をつけることで抵抗した。アリアは隠すことで抵抗した。向いていた方向は同じだった。
だから責める気にはなれなかった。
そして——もう一つ、思っていたことを言った。
「聖女だから側にいたいんじゃない」
まっすぐに、目を見て。
「お前だから側にいたい。それだけだ」
アリアが固まった。
「……それは、どういう意味ですか」
「そのまんまの意味だ。わからないなら近づいて説明する」
「……近づかないでください」
一歩、近づいた。
アリアは避けなかった。
……よかった。
避けなかった。




