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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
番外編①   騎士は気づかなかった ―レオン視点―

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夜市と、名前

夜市でアリアに会ったのは、偶然だった。


本当に偶然だった。非番で、ひとりで出かけていた。目的があったわけじゃない。部屋にいるよりはましだと思って、人の多い場所へ出てみた。賑やかな場所は得意じゃないが、賑やかな場所にいると自分の頭の中が静かになることがある。


人混みの中にアリアを見つけたとき、何かが自然に動いた。


「……また会ったな」


「非番ですか」


「ああ。お前は」


「買い物です」


一緒に歩いた。特に決めたわけじゃなく、流れでそうなった。アリアは屋台を見ながら歩いていた。目が楽しそうだった。普段の店での顔とは違う、素の顔に近い気がした。


アリアが焼き栗の屋台の前で足を止めた。匂いに引き寄せられたような顔だった。


……買ってやろう、と思った。

なぜそう思ったのかは、考えないことにした。

袋を渡したらアリアが「……なぜ」という顔をした。あの顔だ。


「足が止まったから」


理屈になっていないのはわかっていた。でもそれ以外の言い方が思いつかなかった。


「……ありがとうございます」


アリアが一つ食べた。美味そうな顔をした。


「美味いか」


「美味いです。甘いけど後味がすっきりしていて」


「そうか」


それだけだった。でも、何か満足した気がした。



迷子の女の子を見つけたのは、二人でいるときだった。


アリアが真っ先に動いた。しゃがんで、目線を合わせて、優しい声で話しかけた。


……この娘は、いつでもこうだ。

困っている人を見ると、体が先に動く。

一緒に親を探して、引き合わせた。女の子が泣きながら母親に抱きついた。


歩き始めてから、また言ってしまった。


「お前、ああいうの放っておけないよな」


アリアが「あなただって一緒に探したじゃないですか」と言った。


「俺はお前が動いたから動いた」


「それは後付けの理由では」


「かもしれん」


そう答えたとき、少し笑えた気がした。久しぶりに、自然に。


……お前の隣にいると、なぜか笑える。

それが何なのかは、もうわかっていた。


店の近くで別れる前に、名前を呼んだ。


「アリア」


今まで「お前」か「娘」としか呼んでいなかった。名前を呼んだのは、初めてだった。自分でも少し驚いた。


アリアが立ち止まって振り返った。


「当たり前のことを言う。待てると言った。それは変わらない」


……話せる状態になったら、聞かせてくれ。

急かさない。ただ、俺はいる。

それだけ言って、踵を返した。


歩きながら、心臓がうるさかった。


……副団長ともあろう者が。

でも、まあ、仕方ない。

好きなんだから。

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