夜市と、名前
夜市でアリアに会ったのは、偶然だった。
本当に偶然だった。非番で、ひとりで出かけていた。目的があったわけじゃない。部屋にいるよりはましだと思って、人の多い場所へ出てみた。賑やかな場所は得意じゃないが、賑やかな場所にいると自分の頭の中が静かになることがある。
人混みの中にアリアを見つけたとき、何かが自然に動いた。
「……また会ったな」
「非番ですか」
「ああ。お前は」
「買い物です」
一緒に歩いた。特に決めたわけじゃなく、流れでそうなった。アリアは屋台を見ながら歩いていた。目が楽しそうだった。普段の店での顔とは違う、素の顔に近い気がした。
アリアが焼き栗の屋台の前で足を止めた。匂いに引き寄せられたような顔だった。
……買ってやろう、と思った。
なぜそう思ったのかは、考えないことにした。
袋を渡したらアリアが「……なぜ」という顔をした。あの顔だ。
「足が止まったから」
理屈になっていないのはわかっていた。でもそれ以外の言い方が思いつかなかった。
「……ありがとうございます」
アリアが一つ食べた。美味そうな顔をした。
「美味いか」
「美味いです。甘いけど後味がすっきりしていて」
「そうか」
それだけだった。でも、何か満足した気がした。
◆
迷子の女の子を見つけたのは、二人でいるときだった。
アリアが真っ先に動いた。しゃがんで、目線を合わせて、優しい声で話しかけた。
……この娘は、いつでもこうだ。
困っている人を見ると、体が先に動く。
一緒に親を探して、引き合わせた。女の子が泣きながら母親に抱きついた。
歩き始めてから、また言ってしまった。
「お前、ああいうの放っておけないよな」
アリアが「あなただって一緒に探したじゃないですか」と言った。
「俺はお前が動いたから動いた」
「それは後付けの理由では」
「かもしれん」
そう答えたとき、少し笑えた気がした。久しぶりに、自然に。
……お前の隣にいると、なぜか笑える。
それが何なのかは、もうわかっていた。
◆
店の近くで別れる前に、名前を呼んだ。
「アリア」
今まで「お前」か「娘」としか呼んでいなかった。名前を呼んだのは、初めてだった。自分でも少し驚いた。
アリアが立ち止まって振り返った。
「当たり前のことを言う。待てると言った。それは変わらない」
……話せる状態になったら、聞かせてくれ。
急かさない。ただ、俺はいる。
それだけ言って、踵を返した。
歩きながら、心臓がうるさかった。
……副団長ともあろう者が。
でも、まあ、仕方ない。
好きなんだから。




