草原の日
草原でアリアを見つけたとき、正直、驚いた。
部下のラウルが訓練中に草原へ消えたと聞いて追いかけたら、遠くで金属音と魔物の鳴き声がした。急いで向かったら、ラウルが三体に囲まれていた。
間に合わないかもしれない、と思った次の瞬間——石が飛んだ。
三つ、正確に。それぞれが魔物の急所を打ち抜いた。魔物が消えた。
投石の軌道、力加減、タイミング。どれも素人ではない。魔物の急所を知っている。野生動物か、あるいは人間を相手にした経験があるかのような精度だった。
振り向いたら、アリアがいた。ラウルの傷の手当てを始めていた。手際がよかった。傷の状態を確認して、適切な処置をした。
……また、この娘か。
なぜ城壁の外に一人でいる。なぜ魔物の急所を知っている。あの石の投げ方は、素人じゃない。
問いかけたら「薬草採取」と「独学」と「運」で全部説明された。
嘘だ。
「独学」で魔物の急所を知るわけがない。「運」であの精度で三連投できるわけがない。でも証明する手段がない。
「採取の続きはするか」
「……はあ」
拍子抜けした顔をした。また、あの顔だ。お前に言われると思っていなかった、という顔だ。
……俺はどうやら、この顔が好きらしい。
それに気づいたのは、その日が初めてだった。
採取を続けながら、横でアリアが働くのを見ていた。草の見分け方、根の確認の仕方、摘む向き。一つ一つの動作に無駄がなかった。教わったのではなく、自分で積み上げてきた動きだとわかった。
「お前、ここに一人で来ることがあるのか」
「採取できる場所が限られていますので」
「一人は危険だ」
「気をつけています」
「気をつけていても、さっきみたいなことになる」
アリアが少し止まった。それから「それはそうですね」と言った。素直に認めた。
……こういうところが、妙な娘だと思う。
言い訳もしない。でも、じゃあ来ない、とも言わない。
◆
帰り際、城門のところでアリアに言った。
「お前、ああいうの放っておけないよな」
事実を言ったつもりだった。責めているわけでも、からかっているわけでもなかった。
アリアが少し間を置いてから「そういう性分なので」と答えた。
それだけだった。でも、その後アリアは少し俯いて、何かを考えているような顔をした。
……何を考えていたんだろう。
店に戻ってから、ずっとそれが頭に残っていた。
夕食を食べて、剣の手入れをして、床に就いても、まだ残っていた。
……俺は何をしている。
副団長が、薬草屋の娘の顔を思い出しながら眠れないでいる。
自覚したくなかったが、もう遅かった。




