通い始めた理由
翌週、また行った。
薬草を買うためだと自分に言い聞かせた。実際、騎士団でも薬草の需要はある。良い品を安定して仕入れられる店を確保することは、実務上意味がある。それは本当のことだ。
……それだけの理由だ。
……そのはずだ。
娘——アリアという名前だと後から親に教えてもらった——は、今回は逃げなかった。接客は丁寧で、薬草の知識が豊富だった。私が魔力草を買おうとしたら、「用途は何ですか」と聞いてきた。「傷薬の材料」と答えたら、目的に合った品質のものを選んでくれた。
無駄がなかった。仕事ができる、と思った。それに、説明が丁寧だった。「この根の部分は薬効が強いので、使いすぎると逆効果になります。体重に合わせてこれくらいが適量です」と、聞いてもいないことまで教えてくれた。
「また来る」
帰り際にそう言った。アリアが少し目を細めた。驚いているのか、困っているのか、判断がつかない表情だった。
……また来ると言ったのは、なぜだ。
薬草の品質が良かったからか。対応が丁寧だったからか。
……どちらも、嘘ではない。
三週目。四週目。
気がついたら、習慣になっていた。
アリアの父親——ヴェルメール氏は気さくな人で、薬草の話をよくしてくれた。「最近この品種が不作でしてね」とか「山の向こうでしか採れない根があって」とか、話が尽きない人だった。母親も温かい人で、来るたびにお茶を出してくれた。二人ともアリアのことを大切にしているのが、話していてわかった。アリアが店にいないときでも、自然に彼女の話になった。
アリア本人とは、最初のうちはあまり話せなかった。来るたびに少し壁があった。でも少しずつ、その壁が低くなっていく感じがあった。
ある日、配達の荷物が多そうだったので手伝いを申し出た。
アリアが「……副団長が薬草の配達を手伝うんですか」と言った顔が、少し面白かった。困惑と、拍子抜けが混ざったような顔だった。予想外のことをされたときの顔だ。
……なぜ俺は、あの顔を見たいと思ったんだ。
帰り道、雨が降った。軒先で二人で雨宿りをした。アリアが「病気の人を助けたくて薬草を覚えた」と言った。
それを聞いたとき、胸のあたりに何かが刺さった気がした。
……病気で死んだ、親父と妹を思い出した。
あのとき誰かがいてくれたら、と何度も思った。
この娘は、その「誰か」になろうとしている。
……俺が守れなかったものを、この娘は守ろうとしている。
「……そうか」
それしか言えなかった。でも、雨が上がるまでずっと、その言葉が頭の中に残っていた。




