表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
番外編①   騎士は気づかなかった ―レオン視点―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/46

裏路地の娘

あの夜のことは、よく覚えている。


魔物の討伐任務を終えた帰り道、不意打ちを喰らった。上位種が一体、民家の陰に潜んでいた。油断だった。副団長ともあろう者が、情けない。昼間は大人しかった場所だ。夜になって活性化したのか、それとも最初から潜んでいたのか。どちらにせよ、俺の確認不足だった。


深手を負ったまま裏路地に逃れて、壁に背を預けた。血が出続けていた。応援を呼ぶ余裕もなかった。声を上げれば魔物に位置を知らせることになる。じっとしているしかなかった。意識が遠のきかけたとき、足音が聞こえた。


小さな足音だった。


しゃがみ込む気配がして、手のひらが胸に当てられた。温かかった。それから、光が見えた。白い、柔らかい光だ。


傷が、塞がっていった。


……何が起きている。

目を開けた。暗い路地の中に、娘が一人いた。十代半ばか後半か。地味な格好で、背中に薬草の束を背負っていた。顔が見えた。落ち着いた顔をしていた。こんな状況で、驚いている様子がほとんどなかった。


立ち上がろうとした気配がして、反射的に手首を掴んだ。


「……何をした」


落ち着いた声が出た。自分でも驚いた。


娘は少し固まってから、笑って答えた。


「薬草を使って応急処置をしました。たまたま持ち合わせていたので。それではお大事に」


「……薬草で、こんな傷は塞がらない」


「良い薬草でした」


嘘だ。

薬草でこの速さで傷が塞がるわけがない。あの光は何だ。あの熱は何だ。腹の深手が数秒で消えた。薬草師の技術ではない。

「名前を聞かせろ」


娘は少し目を泳がせた。一瞬だけ迷って、それから適当な名前を言った。嘘だとわかった。目が少しだけ右上を向いた。作り話をするときの人間の目の動きだ。


手首を振りほどいて、走って消えた。


追える体ではなかった。


壁に背を預けながら、レオンはしばらく娘が消えた方向を見ていた。


……妙な娘だ。

助けておいて逃げる。嘘の名前を言う。あの光は何だった。

わからないことだらけだが、一つだけわかることがある。

あの娘は、俺を助けようとしてあの路地に来たわけじゃない。通りかかって、放っておけなかっただけだ。

……そういう人間が、いるものなんだな。


翌日、調べた。


裏路地の位置から、夜間に通りかかれる場所を絞り込んだ。薬草を扱っている家を当たった。三軒のうち、十代の娘がいるのは一軒だけだった。


王都の外れにある、小さな薬草屋だった。


礼を言いに行くつもりだった。それだけのつもりだった。それ以外の理由はなかった。


店に入ると、薬草の匂いがした。棚に整然と並んだ薬草の束、几帳面に書かれた値札、磨かれた木の床。清潔な店だった。手入れが行き届いている。


奥から娘が出てきた。昨夜と同じ顔だった。


私を見た瞬間、一瞬だけ表情が固まった。すぐに笑顔を作ったが、その一瞬が見えた。


逃げたいと思っている。

「いらっしゃいませ。本日はどのような薬草をお求めでしょうか」


よく訓練された笑顔だった。でも目が、少し泳いでいた。


本当は詰問するつもりだった。あの光は何だ、正体を明かせ、と。でも、向かい合って話していると、何か別のものが見えた気がした。


……この娘は、隠している。

でも、悪意があって隠しているわけじゃない。怯えている。追い詰められている。それが、目の奥に見えた。

問い詰めるのは、やめた。


礼を言って、帰った。


帰り道、なぜ問い詰めなかったのか自分でも説明できなかった。


……まあ、またくれば聞けばいい。

そう思っていた。今思えば、それが最初の間違いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ