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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
第四章   制度と、選択と、自分の意志で立つ場所

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十八話 私のものです

遺跡から出ると、夜明けが始まっていた。


東の空が薄く白んでいた。星が消えていくところだった。遺跡の周囲に集まっていた魔物はすべていなくなっていた。地面には魔物が消えたあとの黒い痕だけが残っていた。


騎士たちが遠巻きに立っていた。全員がこちらを見ていた。誰も何も言わなかった。朝の光の中で、彼らの顔に疲労と、安堵と、困惑が混じっていた。


サイラス調査官がいた。


「……アリア・ヴェルメール」


「はい」


「あなたが聖女ですか」


「さあ、どうでしょう」


「今夜の光を見ました。あれほどの聖力は、登録された聖女の中にはいません。あなたは聖女院に——」


「登録するつもりはありません」


サイラスが表情を硬くした。周囲の空気が、少し張り詰めた。


「それは……法律上、聖女の資質を持つ者は——」


「私のものです」


きっぱりと言った。声が震えなかった。自分でも驚いた。十二年間、ずっと怯えていた言葉が、今夜は自然に出てきた。


「私の力は、私のものです。国のものでも、制度のものでもない。私が自分の意志で動きました。命令でも義務でもありません。これからもそうします。制度に縛られるつもりはない」


「しかし、あなたの力は国にとって——」


「国の危機に際して協力はします。今夜がそうでした。でも、管理されて使われる道具にはなりません。それが私の答えです」


サイラスが何か言おうとした、そのとき。


「調査官」


レオンが前に出た。鎧に汚れがついていた。一晩中戦い続けてきた体で、それでも声は静かで、確かだった。


「今夜、この市民が自らの意志で王都を救った。それは事実だ。その市民を、今ここで拘束しようというなら、騎士団は黙っていない」


静寂があった。


エミリアも、レオンの隣に並んだ。


「私も同じ意見です。アリアさんは今夜、自分の意志で動きました。それを否定することは、私にはできません」


サイラスはしばらく二人を見て、それから私を見た。何かを測るような目だった。長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。


「……今夜のことは、持ち帰って検討します。ただし、今後同様の事態が起きた際には、改めて協議の場を設けたい」


「それなら応じます」


サイラスが踵を返した。周囲の緊張が、ほどけていった。



三人で、王都へ戻る道を歩いた。


夜が終わって、朝が始まろうとしていた。空の色が橙から青へ変わっていった。鳥の声がどこかから聞こえてきた。道端の草に、朝露が光っていた。


エミリアが口を開いた。


「……かっこよかったです」


「そうですか」


「あんな風に言えるの、すごいと思います。私には無理だから」


「あなたには、あなたの戦い方があります。今夜、ここまで来てくれたこと、本当に助かりました。あなたがいなければ、私一人では近づけなかった」


エミリアが少し目を伏せて、それから笑った。初めて、柔らかく笑った顔を見た。緊張が解けると、年相応の顔になった。


「……友達になってもらえますか」


「もうなってますよ」


エミリアが目を丸くして、またすぐに笑った。レオンは二人の会話を黙って聞いていた。



王都の門をくぐったとき、夜明けの光が石畳を照らしていた。


エミリアと別れて、二人になった。しばらく並んで歩いた。言葉はなかった。でも、沈黙が苦しくなかった。この人との沈黙は、ずっとそうだ。


店の前まで来たとき、レオンが立ち止まった。


「アリア」


「はい」


「さっきの言葉。本心か」


「どれですか」


「制度に縛られない、自分の意志で動く、という話だ」


「本心です」


レオンが少し間を置いた。朝の光の中で、彼の顔はいつもより少し穏やかに見えた。


「それなら——俺の隣にいろ」


「……それは、どういう意味ですか」


「そのまんまの意味だ。国に縛られるなら言わない。俺の隣に、お前の意志で、いてくれるかと聞いている」


朝の光の中で、レオンがまっすぐに私を見ていた。飾りのない目だった。騎士でも副団長でもなく、ただのレオン・アシュフォードという人間の目だった。


私はしばらく黙っていた。


……前世では、こういう瞬間を、ずっと逃し続けてきました。

忙しかったから。疲れていたから。タイミングが悪かったから。

今世では。

「……いいですよ」


「いいですよ、とはどういう意味だ」


「そのまんまの意味です」


レオンが少し、本当に少しだけ、表情を緩めた。目の端が和らいで、口の端が上がった。それだけだったが、私にはその変化がよくわかった。


私はそれを見て、前を向いた。店の扉を開けた。


朝の光が、薬草の並ぶ棚を照らしていた。薬草の香りがした。いつもと同じ香りだった。


何も変わっていないようで、全部変わっていた。


……逃げなくていい場所を、見つけました。

遅くなりましたけど。前世も含めると、かなり遅くなりましたけど。

……まあ、いいですね。今からで。

――――◆――――


エピローグへ続く

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