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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
第四章   制度と、選択と、自分の意志で立つ場所

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十七話 全力解放

王都の北門を出たところで、エミリアが待っていた。


「来てくれると思っていました」


「……なんで」


「あなたはああいうの、放っておけない人だから」


……レオンと同じことを言う。

私はそんなに単純でしょうか。……まあ、単純なんでしょうね。否定できません。

三人で、魔瘴の発生源へ向かった。


源は王都から二里ほど離れた古い遺跡だった。魔瘴は大地に溜まった負の魔力が飽和して溢れ出すものだが、その「溢れ出す口」にあたる場所がある。今回はその遺跡がそれだった。石造りの古い建物が崩れかけていて、周囲の草木はすべて枯れていた。空気が重く、近づくほど息がしにくくなった。


遺跡の周囲は無数の魔物で埋め尽くされていた。上位種も混じっている。騎士団が外周を抑えているが、源に届いていない。数が多すぎて、正面からは押し込めないでいた。


エミリアが言った。「源を浄化すれば、魔瘴は止まります。でも近づくためには——」


「道を開ければいいですね」


私は前を向いた。


これまで、力は最小限しか使わなかった。見つかりたくなかったから。隠れて生きたかったから。使うときも、絞って、誤魔化せる範囲で。それが十二年間の私のやり方だった。


でも今は。


……自分の意志で、来ました。

自分の意志で、使います。

誰かに命令されたからでも、制度に縛られたからでもない。

私が、守りたいから。この街の日常を。隣にいるこの人たちを。

印を結んだ。


指輪を外した。


今度は、絞らなかった。


十二年間、ずっと締め上げてきたものを、全部解き放った。


最初は静かだった。指先から光が滲む程度だった。それが、じわじわと広がっていった。肩から。背中から。足元の石畳から。白い光が波紋のように広がっていき、やがてそれは光というより熱のようなものになった。空気が変わった。夜が、白く染まっていった。


白い光が、夜を割った。


魔物の群れが、波のように左右へ退いた。上位種が後ずさった。地面に這いつくばるものもいた。鳴き声が止んだ。


遺跡まで、真っ直ぐな道ができた。


「……行きましょう」


三人で、その道を進んだ。



遺跡の中心に、魔瘴の核があった。


黒く渦巻く魔力の塊だった。直径は三メートルほどで、近づくと肌が痛いくらいの圧力があった。空気が重かった。呼吸するたびに、胸の奥が締め付けられるような感じがした。これが百年分の負の魔力の結晶だ、と思った。


エミリアが「私の力では、ここまで」と言った。顔が青ざめていた。それでも、ここまで来てくれた。


「ありがとう。ここからは私がやります」


「……アリア」


「大丈夫です。これくらいは余裕です」


嘘ではなかった。核の規模はわかった。私の力なら、対処できる。


核に両手を当てた。冷たかった。指先が痺れるような感覚があった。魔力が指先から流れ込んでいく。浄化の光が、黒い渦の中に差し込んでいく。


核が抵抗した。押し返してくる力があった。生き物のように脈打っていた。百年分の負の魔力が、ここに凝縮されていた。


それでも私は押し続けた。


……前世でも今世でも、粘り強さだけは得意です。

諦めるくらいなら、もう少しだけ、もう少しだけと思いながら動き続けることの方が、私には向いています。

それだけは、前世のOL生活が鍛えてくれました。

光が、少しずつ黒を塗り替えていった。端から端へ。上から下へ。黒い渦の中に、白い筋が増えていった。


やがて、核が弾けた。


音もなく、光の粒になって、四方へ散っていった。


外から聞こえていた魔物の鳴き声が、一斉に消えた。


静寂が、遺跡を包んだ。


私はその場に膝をついた。疲れたわけではなかった。ただ、体から何か大きなものが抜けて、少し力が抜けた。十二年間、ずっと抑えてきたものを、今夜はじめて全部出した。その感覚が、不思議と清々しかった。


……終わりました。

自分の意志で、やり遂げました。


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