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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
第四章   制度と、選択と、自分の意志で立つ場所

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十六話 自分の意志で、行く

魔瘴が、本格化した。


エミリアの予言通り、それから十日で状況は急変した。王都の四方で同時に魔物の大規模な出没が報告され、騎士団は全員が出動体制になった。レオンも朝から晩まで動き続け、店に来る時間もなくなった。


城壁の外から聞こえる爆音と、遠くに見える黒煙が、日常の風景になった。市場が閉まった。夜は人が出歩かなくなった。子どもたちの笑い声が、路地から消えた。王都がじわじわと息を詰めていくのが、肌でわかった。


私は薬草屋を続けた。むしろ需要が増えた。負傷した市民が来る。騎士団の使いが来る。ヒール草も魔力草も、在庫が追いつかないほど出ていった。調合しては売り、採取しては調合した。それが今の私にできることだった。でも、それだけでは足りない、という感覚が、日に日に強くなっていった。


夜、一人で作業場にいると、外から遠い爆音が聞こえてくることがあった。その音がするたびに、手が止まった。レオンは今、どこにいるのか。エミリアは。街の人たちは。


……見て見ぬふりは、もう私にはできない。

それはわかっています。わかっていて、でも、どこまでやるかを決めていなかった。

決める時が来た、ということですね。

父と母には、今度こそ安全な場所へ移ってもらった。二人は最初渋ったが、私が「必ず合流します」と言ったら、信じて行ってくれた。


……嘘はついていません。必ず合流します。

ただ、その前にやることがあるだけで。

店に一人残って、私は荷物をまとめた。


必要な薬草と調合道具。魔力抑制の補助になる特製の指輪——ガイウスという老魔術師が昔くれたものだ。「いつかこれが必要になる日が来る」と言って渡してくれた。そのときは意味がわからなかったが、今ならわかる。この指輪があれば、力を絞りながら長時間戦える。消耗を抑えつつ、必要なところで力を出す、そのための道具だ。


荷物を背負いながら、私は静かな店内を見回した。薬草の棚。磨かれた木のカウンター。父の字で書かれた値札。母が飾った小さな花瓶。何年もかけて作り上げた、ここの日常。


……守りたいのは、これです。

この街の朝が、また来るように。子どもたちの声が路地に戻るように。

それが、私の「自分の意志」です。

準備を終えたとき、扉が開いた。


「……やっぱりここにいた」


レオンだった。鎧姿で、少し息が上がっていた。額に汗が光っていた。昨日から出動が続いているはずなのに、こちらに来た。


「なぜここに」


「お前が避難していないと父上から連絡があった」


「情報が早いですね」


「行くつもりか」


問いというより、確認だった。私はレオンを見た。疲れているのに、目が真剣だった。一晩中戦い続けてきた体で、それでもここに来た。


「行きます。自分の意志で」


レオンは少し間を置いた。止めるかと思った。でも彼は、止めなかった。


「……わかった」


「止めないんですか」


「お前が決めたことだ。俺が止める筋合いはない」


「でも——」


「ただ」レオンが言った。「一人で行くな」


私は少し笑った。


「護衛ですか」


「当たり前だ」


……この人は、いつもこうです。

止めない。でも、一人にはしない。

それが、この人の隣にいたいと思った理由かもしれません。

二人で店を出た。石畳の上を、並んで歩いた。空は暗く、遠くで爆音がした。でも足取りは、揺れなかった。


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