第28話 衒学的お茶会
秋学期始まるから京都に帰ったら部屋にGが出たんだぁ。
ククク………マジでやめてくれと思ったね。
しゃあっ、バル・サン!!
あっ、今YouTubeで鉄鍋のジャンのアニメ12話が無料公開してあるので見てほしいと申します。
オタクはあの激烈な漫画からもラブコメ要素を見出す恐ろしい生き物なんだ、絆が深まるんだ。
「………お嬢様、やっぱり暗殺術とか要らなくないですか?」
「楽しいからいる」
「はぁ………」
やっぱアレだね、いいね、棒手裏剣。
不意打ちでぶん投げて致命傷になるってのが最高に素晴らしい。
デカい魔物相手には分が悪いけど、それでも吸血鬼の膂力なら隙を作るぐらいはできる。
正々堂々バトルってのもいいけれど、こういう小細工をするのもまた一興。
なに?銃でいいって?
うるせぇぶっ殺すぞ。
「てい」
「うりゃ」
シオンとアヤメにもいくつか渡してみたけど、まぁ当たらないか。
ちょっとコツいるもんね、棒手裏剣。
ちなみにスレイヤーなニンジャが使うタイプの手裏剣は用意しておりません。
アレ使いにくいもん。
「あっ、こっちは作ったけど使う?」
「………なんです、これ」
「フンガムンガ」
三又の捻じれた刃を持つ、奇妙な形の投げナイフ。
信じられないほど邪悪な形状のアフリカ投げナイフことフンガムンガ君です。
三又リザルブ〇メランって言えば伝わるかな。
「ふん………?」
「フンガムンガ。投げナイフだけど、私のパワーなら大体の物は切断できると思うよ。あと矢玉避けの魔法で防げない………はず」
「そうなんですか?」
「そうだと思う」
某ゴブリン絶対殺す和マンチさんも同じような事やってたし。
私の魔法で出力されるのは、私のイメージに依るものだ。
未だにこの魔法でどこまでの物が作れるのか把握しきれていないが、それくらいのことはやってくれる………と良いな、うん。
「後はこれ………新型のボルト・ガンね」
新規格突撃機関短銃、【火蜂】。
ストック付きのモーゼルを不自然に巨大化させたような見た目のこれは、本来の弾薬である7.63x25mmマウザー弾とは威力も規格も桁外れの逸品、85口径軟鋼キャップ強化ボルタ弾を25発装填できる特製のボックスマガジンを使用し、大口径ボルタ弾を至近距離からブチ込んで殺すバケモノ兵器だ。
燃費は終わってるし隠密性も糞もないし遠距離射撃となると命中精度がお亡くなりになるが、ただでさえ一撃必殺のボルタ弾を近接距離からバカスカ撃ち込まれて無事な奴は存在しないだろう。
威力だけなら格上にも通じるのが私の魔法の良いところだ、利用しない手はない。
「………また変なの作りましたね、お嬢様」
「でも強いよ?突っ込んで至近距離からブチかませばだいたい殺せる。まぁ、切り札ではあるけどね」
こんなもん常日頃からぶっ放してたら破産するし。
それ以前に過剰火力だし。
「そもそもバカみたいに撃ちまくるようなもんじゃないしね」
銃自体を大型化して反動を軽減すればガドリング的に撃ちまくれそうだが、そもそも弾薬が足りないし。
奥の手として取っておくくらいがちょうどいい。
興味を惹かれたのか【火蜂】を触ろうとするシオンとアヤメを制しつつ、【なんでも収納箱】に放り込み。
「んじゃ、そろそろ狩りに………いや、今日はやめておこうか」
「?」
「のーもあまさくぅる」
こらシオン、女の子が虐殺とか言わないの。
というかどこでそんな言葉覚えたの。
「バーナードさんと、ちょっと約束があってね」
「くぁふ………」
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「んに………モーマンタイです、はい」
悪夢最寄りの街サマリヤからゴルゴダ────私の生まれ故郷だ────へ向かう乗り合い馬車の中。
分厚いカーテン越しでもなお忌々しく照らす太陽に、目深に被ったロシア帽の隙間から血のような赤髪が揺れる。
まぁ、マジで血で染めてあるんだけどさ。
吸血鬼になって獲得し、しかし腐らせていた肉体操作の応用編、血液操作による髪染めである。
高温に弱いって弱点はあるけど、それでも火炎放射とか喰らわない限りは問題ないしマイペンライ!!
………正直言って、出来ればもうゴルゴダの街には行きたくなかったんだけど、バーナードさんが用事あるってんで私も移動を余儀なくされたわけだ。
配給の砂糖でも強請ってやろうかな。
………しかしまぁ、
「………荒れたな」
パパとママが生きていたころ何度か通った道は、見違えるほどに荒れ果てていた。
そりゃ、アスファルト舗装された現代日本の道路と比べたら雲泥の差ではあったが、それでも、こんな砲弾でアチコチ耕されてはいなかったはずだ。
土魔術師と思わしきオッサンたちがあちこち修復して回っているのを見るに、これでも結構マシな方なんだろうか。
「ここらを治めてた政府軍の軍人が死んじまってねぇ、それからは酷いよ。山賊は出るわ革命軍は出るわで、政府軍の連中も『守ってやるから通行料を寄こせ』なんて言い出すし、散々さね」
「なるほど」
隣に座ってる婆ちゃんがそんな事を言うのをしり目に、周囲の景色に視線を巡らせる。
………それなりの大所帯だからか襲撃者の気配はないが、警戒しておくに越したことはない。
ただの武装した人間の100人200人なら邪魔ゴミできるが、周りの人間に見られたら面倒な事になるだろうし。
「………いや、それでも別にいいのか」
邪魔なら全部殺せばいいや。
窓の外、徐々に近づいてくる見慣れた景色に思いを馳せながら、目を閉じた。
「お久しぶりです、バーナードさん。これお土産です」
「………これは、なんだ?」
「さぁ?」
本当に久しぶりの実家の執務室。
バーナードさんに手土産の魔物の毛皮を渡して、変な顔された。
六本足のトラっぽいボディーに蛇の顔、猿っぽい手足にタヌキの尻尾というなんか掛け違えたヌエみたいな魔物だったのでハントして持ってきたのだが………あまり好評じゃない様子で。
「まぁいい。………今回の依頼だが、革命軍ゲリラの殲滅を頼みたい」
「ゲリラ………なるほど、私向きの殺しですね」
ああいう連中は、少数で動いて奇襲を専門にし、大部隊が動けばフットワークの軽さを生かして逃げるのが基本だ。
下手に動けば敵の大部隊によって打撃されかねないし、かといって完全に無視も出来ない面倒な奴ら。
私みたいな単独でクソ強いのがぶっ殺しに来ることは考えてない………というか考えても意味ないし、そもそも警戒していないはず。
襲われると思ってない奴のケツを後ろから襲ってやろう。
「敵の数と装備はどの程度ですか?」
「20から30名、装備の詳細は不明だが、政府軍の正式装備に比べれば劣るはずだ」
「なるほど………なら余裕で行けますね」
相手の武器が小火器程度なら何とでもなる、私を殺したきゃロケランでも持って来いってんだ。
朝飯前ならぬ夜飯前………いや、殺るなら深夜になるからやっぱり朝飯前か?
どっちでもいいか。
「それじゃ、日没まであと少し、この屋敷に居させてもらいますね」
「元よりお前の屋敷だ、好きにしろ」
「ありがとうございます、バーナードさん。では」
ペコリと頭を下げて部屋を出る。
………夜まで時間もあるし、久しぶりに図書室にでも寄ってみようか
あそこに置いてあった本は大体読んだけど、アルハザードの小説を読み返したくなった。
螺旋階段を下りて一階へ向かい、ドアを開けて。
「バーナード………では、ないわね?どなたかしら?」
両目を包帯で覆い隠した青い髪の貴婦人が、車椅子に腰かけていた。
………知らない人だが、この人が誰かはおおよそ想像がつく。
なんとなく、居住まいを正して。
「初めまして、ですね。タルコフスキーとリュドネラの娘、ジュジュ・ネモフィラです」
「………なるほど、貴女があの二人の………貴女が生まれて間もない頃に会ったきりですし、自己紹介をしておきましょう。バーナード・フォン・アルベリッヒの妻、エレジア・フォン・アルベリッヒといいます」
バーナードさんから話は聞いていたが、やっぱりそうだったか。
しばらく前、バーナードさんを狙った暗殺に巻き込まれた、バーナードさんの奥さん。
私とバーナードさんが奇妙な協力関係を結ぶことになった原因の1つでもある。
「ここ10年ほど互いに忙しくて会えませんでしたが、それでもリュドネラとは文通する仲でした。………今回のことは、非常に残念に思います」
「………ありがとうございます、エレジアさん。パパとママも、きっと浮かばれます」
しかし、なんというか独特な雰囲気の人だな。
毒気を抜かれるというか、ほんわかした人だ。
政府軍の高級将校の妻なんてやってるぐらいだし、ほんわかしてるだけってことはないと思うけど。
立ったままというのもアレなので椅子に座り。
「ちょっと待ってて頂戴。今、お茶を淹れるから」
そう言ったエレジアさんが手を叩き、フヨフヨと宙を浮いてティーセットが飛んできた。
………なんかアレだな、この世界に来てから人を殺す魔法としか出会ってこなかったせいで、ファンタジーファンタジーしてる魔法を始めてみた気がする。
というかこれアレか、ティーカップとかの下に水を入れて、それを操作して浮かべているのか。
器用な事をする人だ。
「それで、ジュジュちゃんは今、どこに住んでいるのかしら?」
ジュジュちゃんて。
私そんな呼び方………される年だな、11歳児だもんな。
「今は、森の奥に家を建てて住んでいますね」
「あら、素敵じゃない。戦争が終わったら、私もお邪魔していいかしら?」
「その時は是非」
冗談めかして言うエレジアさんに笑って返す。
私が悪夢に住んでいるというのは、まぁ言わなくていいだろう。
知ったところでいい事ないし。
「そういえば、リナリアは元気にしているかしら?あの子ももういい年でしょうし、前線を退いてどこかに嫁いでくれていると嬉しいのだけど………」
「リナは、今は私と一緒に住んでいます。………そうだ、エレジアさん、1つ聞いてもいいですか?」
「なぁに?」
「いつも世話になっているので、リナにお土産を買って帰りたいんですけど、何がいいか聞くのを忘れてしまって。甘いものが好きなのは知っているんですけど………」
「そう、ねぇ。昔からおしゃれには興味がない子だったから、使い勝手のいいナイフとかも喜んでもらえるんじゃないかしら」
「なるほど、ナイフですか」
ナイフは作ってあげたし、クッキーでも買って帰るか。
シオンとアヤメも喜んでくれるだろうし。
「ジュジュちゃん、お茶淹れてあげたけど飲む?」
「あっ、ありがとうございます」
「そうだ、ジュジュちゃん。私からも1つ聞いていいかしら?」
おっ、私このお茶好きかも。
甘いけどほのかに香ばしい、いい匂いがす
「ねぇ、ジュジュちゃん。貴女、ずいぶん殺してきたみたいね?」
「………やっぱり、わかっちゃいます?」
「なんとなく、だけどね。貴女、血の臭いがすごいもの」
「………そんなに臭いますかね」
「比喩表現よ、比喩表現」
つい自分の臭いを嗅いでみて、鼻で笑われてしまった。
「真面目な話、私これでも結構強いのよ?【コーンウォールの魔女】は伊達じゃないわ」
「さよですか」
なるほど、エレジアさん、パパとママと同じタイプの人間か。
………というか、コーンウォールってどこかで聞いたような聞いてないような。
まぁいいか。
「それで、長いこと戦ってると、たくさん殺してきた人が臭いで分かるようになるの。………貴女、数人とか数十人じゃ効かないくらい殺してるでしょ?」
「………そう、ですね。魔物も入れたらかなり殺してるなとは思います」
「まったく………何をやれば、その年でそんなになるんだか………」
悪夢の魔物相手にデス乱取りやってればすぐですよ。
「一応聞いておくけど、我が家に来る気はあるかしら?」
「お気持ちだけ受け取っておきます。………私には、まだやることがあるので」
あぁそうだ、私にはまだやるべき事がある。
少なくとも、私はまだ殺すべき相手を殺し尽くせていない。
「………わかったわ。けど、1つだけ約束して頂戴」
「約束、ですか?」
「えぇ。決して無茶はしないで、自分の命を投げ捨てるような真似も無しよ。………貴女は、少し危うすぎる」
危うすぎる、か。
自覚はあまりないが、この人がそう言うならそうなのかもしれない。
「………わかりました。肝に銘じます」
「是非そうしてくれると助かるわ。………貴女みたいな目をした人は何人か見てきたけど、全員早死にしたもの。親友の娘がそうなるところは見たくないわ。………もっとも、今の私は目が見えないのだけれど」
「………それ、冗談ですか?」
「あら、面白くなかったかしら?」
「反応に困ります」
いや、私もたまに義体ジョークかますけど、流石にねぇ?
「………そろそろ夜ですね。私はここらでお暇させていただきます」
「もう帰っちゃうの?もう少し長居してもいいのに」
「お言葉はうれしいのですが、今日は仕事で来ているので」
「お仕事?」
「えぇ。バーナードさんにはお世話になっているので、少しでも恩返しがしたくて」
「そんな事しなくていいのに。………私もしばらくこの屋敷に居るつもりだから、いつでも来て頂戴。あの人は仕事で忙しくてあまり相手してくれないし、ここ数日暇で仕方なかったの」
「そうですか。では、またそのうちに」
にっこりと笑うエレジアさんに頭を下げて、図書室を後にした。




