第26話 魔法使いになろう!
「………なるほどね」
「なるほど」
「なるなる」
「あの、お嬢様?そのカード何なんです?」
「ステータスカード」
「?」
私の膝のうえで丸くなる双子をあやしつつリナにカードを見せ、不思議そうな顔をされた。
まぁ、ラノベじゃ定番中の定番とはいえ、こんなの見たことないだろうしそりゃそうなるか。
「簡単にいうと、血液と反応して年齢と性別と魔力量、魔法の属性を可視化するアイテムなんだけど………」
悪夢でハントしたクソデカ蛇の舌を検知部分に使う事で何とかでっち上げたまでは良かったが、問題が生えてきたというか。
「まず、こっちが私のカードね」
「ふむ………あれ?これ、魔力のとこ変じゃないですか?」
「そうなのよねぇ」
ちなみに、私本人のステータスは
名前:ジュジュ・ネモフィラ
性別:女
年齢:11
適合属性:創造
魔力容量:954/528
魔力出力:350/528
となっていた。
………うん、魔力容量のところが変になってるのよね。
「リナ、一応聞くけどさ、この世界って魔力を過剰にため込むような技術とかあったりする?」
「私の知る限り存在しないかと」
「うーん………そうなると、やっぱり吸血鬼の性質かな?」
血を媒介に魔力をため込むものとして作った以上、そういう能力が生えてもおかしくない………のか?
「あれこれ私いきなりパーンって爆発しないよな?」
「………可能性がゼロではないのが嫌なところですね」
まぁ、考えても意味なさそうだしアレコレ悩むのは後にしよう。
問題はそっちじゃない。
「それで本題なんだけど、2人のステータスカード見てほしくてさ」
「はぁ………って、なんですこれ?」
シオンとアヤメの分のカードを渡して、リナが変な顔になった。
名前:シオン
性別:女
年齢:9
適合属性:操蟲
魔力容量:521/456
魔力出力:25/456
名前:アヤメ
性別:女
年齢:9
適合属性:植生
魔力容量:521/456
魔力出力:13/456
………まぁ、若干どころじゃなくチート臭い私の魔法製だから、私が知らない情報が載ってるのは問題ない。
二人とも9歳なのかとかなんで魔力容量が同じなのかとかいろいろ気になるけど、それも後でいい。
問題は、
「ねぇリナ。操蟲魔法と植生魔法って聞いたことある?」
「残念ながら。そもそも、劣等髪のお嬢様が魔法を使えることがイレギュラーだと思っていたのですが………」
「たぶん逆、なのかな?劣等髪も魔法は使えるけど、そもそもの数が少なくて知られてないだけなのかも」
「政府軍が機密として情報統制を行っていた可能性もありますね。………まぁ、旦那様が調べて何も出てこなかったという事は、そっちの線は薄そうですが」
「それもそっか」
パパ、政府軍の高官だったもんね。
「しかし、植生と操蟲か………なんかまた、厄介そうなのが生えてきたな」
字面からして、アヤメの植生魔法は植物を操る魔法だろうし、まさか操蟲魔法が虫を操る魔法じゃないなんてトンチキはないだろう。
どっちもなかなか面白そうな魔法ではあるが、それも使えなければ意味がない。
………よし。
「3人とも、ちょっといい?」
「にゃ?」
「ぬ?」
「なんです?」
「魔法、使えるようになろう」
「じゃあまず、私が魔法を使う時のイメージから説明しよっか」
「うぃ」
「らじゃ」
お屋敷の訓練場に急遽設置した授業スペース。
ビシッと元気良く手を上げる双子の頭を撫でて、でっち上げた黒板に向き直り。
「先に言っておくと、今から説明するのはあくまでも私のイメージだから、2人が魔法を使うならもっとうまくできるやり方があると思うの。これはあくまでも取っ掛かり、魔法を使う感覚になれるための練習だと思ってほしい」
「「………?」」
よくわかってなさそうな顔の2人が、同じタイミングで首を傾げた。
「あ~………要するに、この方法で上手くいかなくても大丈夫ってこと。OK?」
「いぇすまむ」
「りょーかい」
「うん、よろしい。じゃあまず質問だけど、そもそも魔法って何だと思う?」
「………うねうね?」
「ぐにゃぐにゃしてる」
「………なるほど?」
おっとぉ?想定してなかった答えが飛んできたぞ?
「………おそらくですが、お嬢様が素材を加工するところを見て印象が引っ張られたのかと」
「………あー、なるほどね?」
《骨肉細工》にしろそれ以外にしろ、私が加工するときって素材に魔力を流して変形させるから、結構面白い感じにグニャグニャするのよね。
それにイメージが引き摺られたら、そういう感想にもなるか。
「そう、だね………これはあくまで私のイメージだけど、魔法ってのは『魔力を支払う事で何でもできる技術』だと思ってるの。お店でお金を払って買い物するみたいに魔力を消費すれば魔法を使える。出来る出来ないじゃなくて出来て当たり前、大事なのは出来て当然と思い込むこと。それが魔法を使うための第一歩なんじゃないかな」
エンヤ婆もそんな感じのこと言ってたし。
「と、いうわけでコレね」
「たね?」
「ばった?」
二人の前に出したのは、森で拾ったドングリっぽい種と、同じく森で捕まえたバッタっぽい昆虫。
「2人の魔法の詳細は分かってないけど、それぞれ植物と虫を操る魔法みたいだから、とりあえずコレを操作してもらおうかなって」
「おけ」
「りょ」
ペタンと床に座り込んで集中し始めた2人を他所に、目を瞑って考える。
………これまでは魔法を使えない前提で教育しようと思っていたが、魔法が使えるなら話が変わってくる。
吸血鬼の身体能力を生かして白兵戦か重火器の習熟を優先し、重装吸血鬼歩兵として訓練しようと思っていたが、魔法の性質次第では訓練を見直す必要があるだろう。
なんにせよ、使える手札が多いのはいいことだ。
2人が今後どのような道を選ぶにしろ、強くて損することはないだろう。
………本当なら、2人が戦わないに越したことはないが、この世界はそれほど優しくも甘くもない。
問題は、2人の魔法をどう生かすかだが
「お兄ちゃん、できた!!」
「どやさっ」
「ん?」
二人の声に前を見て、なかなかのサイズの木がそびえたっていた。
「………コレ、アヤメがやったの?」
「頑張ったらできた!!」
「………そっかぁ、出来ちゃったか」
なんか、うん、思ってたよりすんなりいったな?
まぁ、出来て損はないだろうし、いいことではあるんだけど………なんというか、私が結構四苦八苦して魔法の感覚を掴んだのにアッサリやられると、心に来るものがある。
「シオンの方は………」
「お手、おすわり、3回ってワン………あれ?」
「………まぁ、そりゃ出来るよね」
ちょうどイヌに芸を仕込むみたいにバッタを操作してたシオンが、バッタが鳴かないのを見て不思議そうに首をかしげる。
察するに、物理的・構造的に取りえないような行動はさせられないのか………あるいは、シオンが成長すればいずれは出来るようになるのか、判断に悩むところだ。
2人とも今のところ戦闘に使えるような魔法じゃないが、操作速度や範囲が成長すれば立派な武器になるだろう。
………とはいえ、しばらくの間は魔法の習得を遅らせてでも近接戦闘を教えるべきか。
吸血鬼の身体能力があれば、実戦で生き残れるようになるまでさほどかからないだろう。
「………よし!2人とも、ちょっといい?」
「なに?」
「どしたの」
「今から訓練始めよっか!」
「ふむ………なるほど、こういう感じね?」
「や~ん」
「くすぐったい」
「………お嬢様?なにやってるんですか?」
シオンとアヤメの体をペタペタ触ってたら、リナに変なものを見るような目で見られた。
いや、決していやらしい意図があったわけじゃなくてね?
「筋肉の付き方と骨格を見て、どの武器が使いやすいかアタリをつけてるの」
「そんなことが出来るんですか?」
「まぁね」
純粋な筋力はこれからつければいいが、骨格によって向き不向きは出るものだ。
シオンの場合は………
「………瞬発力に優れたスプリンター型の筋肉、柔軟性も悪くない。使うなら、槍とか薙刀みたいな長物がいいかな?鞭もありっちゃありだけど、致命打にはならないから優先度は低いかもね」
「やり?」
「うん。逆にアヤメは、瞬発力はイマイチだけど持久力は鍛えた分だけ伸びそうだね。弓とか、あとはシンプルな剣術なんかはスタミナを生かせるし合ってると思うよ」
とはいえ、あまりキツいメニューを最初からやらせるのもダメだろう。
子供の頃から筋トレしてると背が伸びないと聞いたことがある………というか、前世の私もまぁまぁなチビだったし。
2人が稽古嫌になっても困るし。
壁にかけておいた素振り用の武器の中から、タンポ槍と六角棒を取って手渡し。
「それじゃ、まずは基本のキの字の素振りから………とりあえず1000回くらいかな?ゆっくりでいいから、始めよっか♪」
二人が、なんだか泣きそうな顔になった。
「………ちかれた」
「ヴぉえっ」
「お疲れ様。輸血パック飲む?」
「ん」
「………のませて」
稽古場の床に転がって死~んとしてる二人の口元に、ストローを刺した輸血パックを運んであげる。
たった千本とはいえ2人ともまだまだ子供だし、誰しも最初はこうなるものだ。
私も道場に通い始めた頃はこんなだったな。
数年もしたら一日一万回感謝の打ち込み稽古するようになってたけど。
あっ、そうだ。
「大した効果はないかもだけど、回復しよっか?」
「ぷり~ず」
「おたのみもうす」
「んじゃ、《癒す小天使》」
ぺかーッと青白い光に照らされた2人が、くすぐったいのか「にゃふ~」だか「わふ~」だかよくわからない悲鳴(?)を上げる。
ゆっくりと傷を回復させる程度の魔術だが、まぁ痛み止めくらいにはなるだろう。
………あれこれ手術の時に使えばあんな痛い思いしないで済んだのでは?
………考えないようにしよう。
「そうだ、今日の晩御飯、なにか食べたいものとかある?」
「ステーキ」
「にくたべたい」
「オッケー、それじゃなにか適当に焼いちゃおうか。リナ、鹿肉まだあったかな?」
「確か4ブロックほど残っていたはずです」
「んじゃソレ焼こうか」
………ついでにアレ開けちゃおっと♡
「………で、なんです、それ」
「赤ワイン!」
夕食後、双子を寝かしつけた私は秘蔵の一品を取り出していた。
バーナードさんの依頼で要塞を襲った時の戦利品、その1つだ。
なんだか丁寧にラベルされてるし、きっと上物に違いない。
欲を言えば甘口の日本酒、もしくは白ワインの方が好みなんだけど………まぁ、この際贅沢は言わない。
久々に、それこそ十年ぶりにお酒を飲める、この事実が重要なのだ。
「………まぁ、法に触れるわけでもありませんし、別に構いませんが」
「あれ?未成年飲酒禁止法とかないの?」
「少なくとも、私は聞いたことないですね。行軍中に飲酒して軍令違反で括られたバカは何度か見ましたが」
「ほへ~………ま、前世入れたら私三十路すぎだし問題ないか」
コルク栓をナイフで引っ掛けて抜き、酒精混じりのぶどうの香り。
濃い赤色の液体を2人分のグラスに注ぎ。
「それじゃ、乾杯」
「乾杯」
グラスをカチリと鳴らし、1口含む。
結構ダイレクトに来る渋みと酸味、ほんの少しカカオ系の香り。
私の好きなタイプじゃないが、コレはコレで美味しいな。
「………お酒はあまり飲まないようにしていましたが、悪くないですね」
「だね。おつまみ用意しとけばよかった」
この感じなら生ハムとか、クリームチーズと干しブドウの和え物とか美味しそうだな。
悪夢の森で用意できるわけないけど。
「そういえば、お嬢様のいたチキュウではどんなお酒があったんですか?」
「あ~………色々あるけど、私が好きだったのは日本酒かな。お米………イネ科の作物から作るお酒でさ。塩辛をつまみに冷やしたのを最高でさ」
「シオカラ、ですか?」
「うん。イカの内臓と身を塩漬けにして発酵させたものでね。癖はあるけどこれがまた美味しくて」
「………なんというか、妙なもの食べてますよね、お嬢様」
「そうでもないよ。日本の食べ物の中じゃ比較的おとなしい方だし」
前に叔父貴にくさや食わされた時はひっくり返りかけたし。
「私の趣味がジジ臭かったのは否定できないけど、美味しいものは美味しいからね」
「ジジ臭………」
「まぁ、こっちじゃ作れないものも結構あるんだけどね」
味噌とか醤油とかはレシピ知ってるけど材料ないから作れないし、ビーフストロガノフとか石川鍋とかそもそもレシピ知らない料理は作りようがないし。
「あ~………でもど~だろ、味噌と醤油は豆あればイケるか?」
「豆ですか?」
「うん。豆を塩蔵して発酵させて作る調味料があってね。時間はかかるけど、豆さえあれば作れる気がする」
「………お嬢様の故郷、塩漬け多くないですか?」
「島国だからね、どうしても塩は多くなるよ。叔父貴………私の親戚とか塩で酒呑んでたし」
日本酒ではなくビールを塩で吞んでいたのはマジで意味わかんなかったけど。
「うちの叔父貴、結構愉快な人でね。バドワ〇ザー以外はビールじゃないとか、ロング缶以外認めなかったりとかさ。書く前にビール一本空けて、グチャグチャになった論文の推敲をさせられたこともあったっけ」
「はぁ………」
「私もあんまり強い方じゃなかったけど、お酒は好きだったな。オツマミ用意してないと悪酔いしちゃうけど」
よく安売りの肉を買って焼いてオツマミにしてたっけ。
「そういや、リナはなんか好きなお酒とかあるの?」
「ん~………前に一度だけ飲んだオレンジとプラムのサングリアは好きでしたね」
「じゃ、また今度つくってみようか」
日本だとナンタラカンタラ法に引っかかった気がするけど、ここ異世界だから問題ないし。
グラスにワインを注いで、つい………
「もういいやめんどくせぇ」
「お嬢様!?」
なんか急に全部どうでもよくなった。
よくなったからにはもうネってんでラッパで流し込む。
酒ッ、吞まずにはいられない!!
ん~、旨し、実に旨し。
五臓六腑に染み渡る。
あっちょっとこぼれちゃった。
もったいねぇんでやんの、もったいないお化けがでるぞ。
「………お嬢様、もしかして結構酔ってます?」
「にゃはっ、ど~だろ、酔ってるんじゃない?」
「………とりあえず、今晩はそのくらいにしておいてください」
「やだね。吾輩は死ぬ、死んでこの泰平を得る。泰平は死なねば得られぬ。ありがたいありがたい」
「なに言ってるんですか」
「知らない?クシャミ先生」
あれ芥川龍之介だったかな?
芥川は鼻だったか?
夢野久作は犬神博士で太宰治はグッド・バイで梶井基次郎が檸檬で宮沢賢治が春と修羅でアレ誰だったっけ?
「………ま、いっか」
思い出せないってことは大事な事じゃないだろうし。
「にゃはははは!!今日はとことん飲むぞ~~!!」
「………お水もって来るので、それも飲んでくださいね?」
「あいっ!!」
「………知ってる天井だ」
自室のベッドで目が覚めた。
あれ、昨日私なにしてたんだっけ。
ご飯食べてお酒飲んでそっから記憶がない。
「ん、むぅ………」
「わぷっ」
にゅっと突き出た腕にベッドの中に引き摺り込まれ、なぜか全裸のリナに抱きしめられる。
というか私もMAPPAじゃん。
さらに言うとリナさんの首元とか胸元とかお腹周りとかに明らかキスマークみたいなのが見えるんですけど。
え、これやっちまったか?
ワンナイトっちまったか?
………ベッドシーツを確認して、血のシミのようなものは見受けられない。
少なくとも、一夜の過ちって線はなさそうだ。
というかリナの体抱き心地良いな。
すべすべもちもちしてていい匂いもするし。
コレ再現した抱き枕売ったら一財産築けるんじゃないかな?
ロクな寝具もないこの世界じゃマジで覇権獲れそう。
………現実逃避終わり、そろそろ動きますか。
「リナ、ほら、起きて」
「んんっ………ふみぃ」
華奢な肩を揺すって、ネコか何かみたいに大きく背伸びしたリナと眼が合う。
目が合った瞬間、リナの顔がユデダコみたいに真っ赤になった。
「えと、おはよ、リナ」
「………おはようございます、お嬢様」
「………」
「………」
「………」
「………とりあえず、お酒はほどほどにしましょうか」
「………うん」
酒は呑んでも吞まれるな、ジュジュちゃん覚えた。
ちなみにジュジュちゃんは頑張ればリスキニハーデン・セイバー・フェノメノンくらいは出来ます。
やらなくても人体切断程度なら普通に出来るのでやる意味はありませんが。




