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第22話 敗戦処理



 バーナード・フォン・アルベリッヒ、【冷血のアルベリッヒ】の名で呼ばれる男は、その多くが家柄やコネで採用される政府軍高級官僚の中では珍しい、実力で階級闘争を勝ち抜いた人間だった。

 彼は自らの敵が革命軍だけではないことを理解していたし、備えを怠ってもいなかった。

 とはいえ、彼はあくまで人殺しと戦争の専門家であり、魔物に関する知識はそこらの人間と大差なく、この世界に存在しなかった魔物である吸血鬼の知識などもってのほか。

 故に、



「………旦那様、今、よろしいでしょうか」

「カーミラか。入れ」

「んじゃ失礼しまっす」


 コンコンとドアをノックする音に返し、顔の皮を剥されて痙攣する男を担いだ幼女が入ってきた時も、反応できなかった。













「………お前、ジュジュか?」

「やだな~バーナードさん、そんなバケモノでも見るような目で見ないでくださいよ。あっ、あとコレ、屋敷に潜んでた暗殺者っぽい奴です。一応ナマモノなので冷暗所で保存してくださいな」


 懐から引き抜いたルガー(っぽいやつ)の銃口を私に突きつけるバーナードさんに笑いかけ、襲い掛かってきたのでカワハギよろしくベリベリしてやったおっさんを放り捨て。


「………まずは、挨拶に来るのが遅れてしまったこと、謝らせてください。言い訳にはなりますが、少々事情がありまして」


 警戒するような目のバーナードさんを前にソファーに腰かけ、私は全てを話した。



 再殺部隊の護衛中に魔物の襲撃を受けて私以外全員死んだ事。

 私が吸血鬼として転化し、部隊の皆を食べた事。

 獅子猿を皆殺しにしたのち、私がリナたちを襲って致命傷を負わせた事。

 そして、


「………吸血鬼、か。転化の術式とやらはどうなっている?」

「確実に作動させるなら、人1人を吸血鬼に変えるのにパパと同じくらいの魔力量の人が分隊(スクアッド)規模で要りますね。それも魔力を絞り尽くして使い捨てる前提で」

「それだけの魔力をどうやって確保した?」

「確保できなかったから暴走しちゃった感じですね。流石にアンナリーゼさんたちの死体だけじゃ足りなかったようで」

「そうか」


 あったかい紅茶で唇を湿らし、真面目な顔して考え込むバーナードさん。

 ………もしかして、


「バーナードさん、吸血鬼の兵器転用とか考えてます?」

「よくわかったな」


 話聞いて最初に考えるのが吸血鬼の戦闘集団(カンプフグルッペ)とかマジかよこの人。

 もうバーナードさんじゃなくて少佐殿って呼ぼうかな。

 金髪でもデブでも親衛隊でもないけど少佐殿でいいや。

 あるいは大隊指揮官殿。

 代行殿でも可。


「一応言っておきますけど、吸血鬼の兵隊とかやめといたほうがいいですよ。たぶん制御できませんし」

「首輪をつけてもか?」

「首輪ごと飼い主の喉笛に噛みつくでしょうし、それ以前に軍隊組むだけの数を用意するのが無理かと」

「その根拠は?」

「捕まえた魔物での実験がだいたい失敗してるんですよね。状況的に考えて、死ぬ寸前まで失血したところに私の血液を輸血すればイケると思ったんですが、どうも他に条件があるようで」


 今までに輸血した魔物18匹のうち17匹が、私の血を輸血した瞬間ドロドロに腐敗して即死した。

 唯一、小型のネズミに試した時はうまくいったが、それも翌日にはミイラになっていた。

 ほぼ間違いなく、私の認識していない何らかの条件があるのだろうが、


「数も揃えられない、制御も利かないとなると、軍隊として運用するのは不可能でしょう?」


 というかそれ以上に、この銃と魔法のファンタジー?世界で一千人の吸血鬼の戦闘集団なんぞやられたくない。

 ましてや割とよくしてもらってる人にそんなことされた日にゃ、どういう顔すればいいのか分からなくなる。


「………流石に、そう旨い話はないか」


 そう苦い顔で呟くバーナードさん。

 ………なんというか。


「バーナードさん、ちょっと焦ってます?」

「………そう、見えるか?」

「あっ、言いにくい事なら結構ですので」

「………いや、お前にも言っておこう。何がきっかけで解決策が見つかるか分からんからな」


 コップになかなかキツそうなお酒を注いだバーナードさんが、グイっとイッキして。



「半年前、妻が俺を狙った襲撃に巻き込まれて重傷を負った。幸い意識はあるが視力回復の見込みもなく、いまだにベッドから起き上がれないでいる」

「………そう、ですか」

「治療用の物資を搔き集めるにも医者を呼ぶにも金が要る。革命軍を根絶し手柄を立てれば、どちらも解決する」

「なるほど」

「………俺は、アイツにもう一度、イリノイの青空を見せてやらねばならん」


 苦虫嚙み潰したような顔で言うバーナードさんの眼は、ギラついた剣呑な輝きを帯びていた。

 ………


「バーナードさん、少し取引しませんか?」

「取り引き?」

「はい。………あの日、決めたんです。私はもっと強くならなくちゃいけない。そうでなければ私は何も守れない。幸い、悪夢の森は強くなるには最適なので、しばらく悪夢籠りしようと思います。思うんですけど、ここでネックなのが人血の入手なんですよね」


 吸血鬼になって、わかったことが1つある。

 おそらく私たちは、人血を啜らねば生き永らえない。

 エネルギー補給そのものは他の生物の血や肉でも足りるだろうが、本質的な部分が不足しているのだ。

 今のところ、リナたちは私の血液でまかなえているが、私自身はそうもいかない。

 可能な限り早急に、大量の人血を安定して確保するルートが必要だ。



「というわけでバーナードさん、取引しましょう。消したい奴がいたら私に言ってくださいな、ぶっ殺しついでに血液を補充しますんで」

「だが、それは………」

「バーナードさんも政敵の1人や2人いらっしゃるんじゃないですか?あとは邪魔な革命軍の部隊とか。言ってくれれば消しますよ?」

「………お前は、それでいいのか?」


 そう、探るような目を向けるバーナードさん。


「良いも何も、手段を選んでお利口に出来るような段階はとっくに過ぎちゃってるんですよ。………守りたいもの全部守れるくらい強くならないと、私はまた失う事になる」

「………わかった。2週間後、この屋敷に来てくれ。リストを作っておく」

「ラジャです。それじゃ、私はそろそろ帰りますね?」

「もう帰るのか?」

「お屋敷にリナたちを待たせているので。今から走れば夜明けには間に合いますから」


 

 背伸び1つソファーから立ちあがり、窓を開けて、


「では、バーナードさん。ごきげんようさようなら」

「おい待てジュジュここ3階」


 呼び止める声をスルーして、夜の暗がりに身を投げた。












「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」


 拳を振るい、押し寄せる魔物どもを片っ端から破裂させていく。

 喉笛を喰い千切ろうとした狼の顔面をあべこべに噛み千切り、地中から突っ込んできたモグラを蹴りの一発で爆散させる。

 背面から飛んできたよくわからん猛禽類をジャンプしてキャッチしてダンクして抹殺。

 着地地点に群がるアホどもを回し蹴りで薙ぎ払って。


「お嬢様!!デカいの来ます、避けてください!!」

「おっけー!」


 脱兎のような勢いで走ってきたリナが私の後ろに回り、直後、木々を薙ぎ倒しながらクソデカいコオロギ?が突っ込んできた。

 突っ込んできたので!



「どすこぉい!!」

「お嬢様!?」


 激突寸前、横っ面に張り手をかまして転がし、殴る殴る殴る。

 分厚い甲殻の隙間から粘ついた紫色の体液を噴出させて絶命したデカコオロギを他所に、側面から飛び掛かってきた六本足の虎を手刀で引き裂き、


「ちょっ、私、避けてってきゃあっ!?」

「ごめんリナ!後で!!」


 何か言いかけたリナをお姫様抱っこして樹上へ跳躍、追撃を跳んで上に躱し、眼下で蠢く魑魅魍魎ども。

 懐から呪符を引き摺り出し、


「【雷符】!!!」



 迸った死血色の稲妻が、一帯を薙ぎ殺した。








「これにてお死枚、ってね♢」

「ってねじゃないです、わたしよけてくださいっていいましたよね?」

「だってやってみたかったんだもん」

「もんじゃないです!!あれ直撃してたらお嬢様でも危なかったですよね!?」

「そんなヘマしないよ」


 まぁ確かに、軽トラくらいのサイズのデカブツではあったが、その程度でどうこうなるほどヤワな私じゃない。


「だからそういう事じゃ………いえ、もういいです、疲れました」

「だいじょ~ぶ?お肉食べる?」

「………それ、なんの肉ですか?」

「さぁ?」

「さぁって」

「でも美味しいよ?」

「………あっ、ほんとにおいしいですね」


 生のお肉をもっきゅもっきゅ咀嚼するリナ。

 ………なんか、アレだな、マーモットみたいだな。

 食べてるのそこらでくたばってる魔物から引き千切った肉だけど。

 がっつきすぎて喉に詰まらせたのか「むーー!?」と悲鳴?を上げるリナを眺め。


「けほっ………そういやお嬢様、武器はどうしたんですか?色々試作品ありましたよね?」

「あー………なんというか、私の握力がシンプル化け物になっちゃったから使えなくなった」

「………まじですか?」

「マジ。今の私のフルパワーに耐えれる武器がないのよね」


 頑張って作ったポン刀が素振りしただけで切っ先はじけ飛んだときは流石にびっくりした。

 まぁ、正確に言えば使えないことはないのだが、武器が壊れず相手に致命打を与えられるギリギリの威力を保ったまま乱戦とか絶対やりたくない。

 あと、今の私の身体能力なら突っ込んで殴る蹴るの暴行に及んだ方が手っ取り早いし。

 銃にしても、【鉄拳】みたいな例外を除いて急所に何十発も撃ちこんでようやく殺せる程度だし、それなら照準して銃把を引く時間で突っ込んで殴り殺した方が速い。

 解体したクマ(腕が8本あった)と、シカとトカゲの中間みたいな魔物の肉を背負子に格納し。


「今の私が使っても壊れない武器があればいいんだけど、無いものねだりしてもしょうがないからね」

「………お嬢様、なんだかどんどん人間離れしてますね」

「人間離れというよりは人外そのものだけどね。………そろそろお家に帰ろっか。あんまり遅いと二人が起きちゃうし」

「はい、お嬢様」


 ずっしりと重い荷物を背負い、月光が涼し気に照らす夜の森を歩き始めた。










「やーーっ!」

「わっしょい」

「………あんまり意味なかったですね」

「………だね」


 お家帰ったら寝かしつけた双子が暴れまわってたでござる。

 おっかしーな、ぐっすり眠ってたはずなんだけどなー2人とも。

 というかキミら、昼間も思いっきり暴れてたよね?

 一体その無尽蔵のスタミナはどこから来ているのやら。


「………ひょっとして、お昼寝させたのがあまりよくなかったのでは?」

「あ~………その可能性はあるかも」


 そういや、お昼食べた後二人そろってオネムだったからベッドに放り込んで30分くらい一緒に寝てあげたっけ。

 ………え?あれだけで再充電されたの?

 マジで?

 すごいな幼女。

 いや、吸血鬼化の影響かもしれないけど。

 にしてもすごいな。


「これあれだね、お昼寝は封印だね。こっちが持たなくなる」

「ですね。お嬢様は手間のかからない大人しい子でしたが、この双子はちょっとパワフルすぎます」

「ほら、とりあえず大人しくして」

「やぁー」

「にゃー」


 ジタバタ暴れる二人をロープ状に変異させた腕で拘束し。


「そうだ、お風呂はいろっか」

「おふろ?」

「ろろろ?」

「え?今からですか?」

「体温めたら眠たくなるでしょ、たぶん」

「………それもそうですね」


 時刻は既に深夜1時前。

 よい子はとっくに眠る時間だ。


「では、お湯を沸かしてきますね」

「お願いね」

「あぶぶ」

「あばば」

「あっこら二人とも顔に引っ付くのやめて危ない危ないから」 


 脱出しようとする二人をグルグル巻きにしたままお風呂場へ向かった。












「あぅ~………」

「………お嬢様、大丈夫ですか?」

「だいじょばにゃい」

「やーーっ」

「うりゃりゃ」

「あぶっ」


 リナに後ろから抱えられながら洗ってもらっていたら、双子にお湯を掛けられた。

 全身びしょ濡れで力が出ない。

 あとシオン、お腹の傷ツンツンしないで。

 くすぐったいから。

 あっコラアヤメ腹肉摘まむな。

 モニモニするのもやめてくすぐったいから。

 あとリナおっぱい揉むな。

 揉まれるほど肉ついてないけど。


「………よく考えりゃ揉まれるほど無いから別に揉まれてもいいのか」

「………揉んでる私が言うのもなんですが、それでいいんですか?」

「い~のい~の」


 心なしかという言葉ではちょっと誤魔化せないくらいリナの手つきがエッチぃ気もするが、まぁ、気にしなくていいだろう。


 ………年齢的には成人済みとはいえ、親代わりの人間を殺されて右腕一本なくして、挙句の果てには人間やめてよくわからんバケモノにされたんだ、精神的にキテない方がおかしいくらいだ。


 リナの手がちょっとマズい位置に移動しかけたのをやんわりと除け、


「しかし………不思議なものですね、吸血鬼。流水の上を渡れないとは。私と双子はなんてことないのですが………」

「はいちゃーじ」

「ふるぱわー!」

「たぶんだけど、リナが水魔術師だからじゃないかな?双子は………なんでだろ、輸血の量が少なかったから、とか?」


 色々と実験してみたが、吸血鬼の弱点としてド定番の十字架とか太陽光とかも、シオンとアヤメに対してはあまり効果がなかった。

 シオンは日に当たるとちょっとピリピリするくらいで、アヤメに至っては日向ぼっこしてもケロッとしてたし。

 最初に吸血鬼になった私が10分程度で肉が溶け始めて、輸血に加えて肉を移植したリナが私より耐えたけど結局20分くらいでギブした事を考えれば、吸血鬼成分とでも言うべきサムシングの濃度と耐性が反比例していると考えるのが自然だろう。

 バンザイポーズで抱えられたまま湯船に入れられ、


「あむっ」

「んうっ!?」


 いったぁい!?

 なに!?

 何急に!?

 というかコレ、血ぃ、吸われて


「リィ~ナぁ~?」

「あら、申し訳ありません、お嬢様。あまりにも美味しそうだったので、つい」


 振り返って睨みつけて、唇の端についた血をペロリと舐めて微笑むリナ。

 あぁなるほど、お腹空いたのね?

 まったく………


「しょうがないなぁ」

「………お嬢様?」


 人差し指の腹を噛み千切って、困惑するリナの口に突っ込んだ。


「んむぅっ!?」

「お腹空いたんでしょ?いいよ、好きなだけ吸いなよ」

「おぉ」

「おお」


 薄く細い体にしだれかかり、至近距離、リナの顔が面白いくらいに真っ赤に紅潮した。

 金木犀の花のような甘ったるい匂いと、トクントクンと早鐘をうつ心臓の鼓動。

 戯れにリナの舌を摘まみ、指先で歯肉をなぞって、「ん、ぅ」と困ったような喘ぎ声がやけに大きく響く。

 ………なんか、これ、すっごくインモラルというか、イケない事してる気がする。

 でもなんだろ、すごく愉しい。


「お、嬢様んむっ、双子が、見て」

「別にいいじゃ~ん、私たち家族でしょ?」

「それはっ、そうですがむ~~っ!?」


 ………おっかしいな、私とくにソッチの気はなかったと思うんだが妙な気分になってきた。

 頭がふわふわして、内臓が疼いて、落ち着かない。

 ………いや、転生前は私、男だったしノーマル、なのか?

 あれでも私今女の子で、リナも女の子で…………あれ?

 そもそもリナ女の子だったか?

 いやそれは違わないか?

 なんか、アタマ、回らな



「きゅう」

「………お嬢様?お嬢様!?」

「ゆでだこ」

「ツンツン」

「やってる場合ですか!?二人は先に上がって着替えてて、とりあえず水浴びせて冷やします!」

「アイアイ」

「いえっさー」

「うぇへへぐるぐるすりゅ~」

「お嬢様もです!いったん離れて、このっ、パワーすごいなこの人!?」







 翌朝になってシオンとアヤメから聞き出したところによると、どうやら私は()()()()なにやらとんでもない事をしでかしてしまったらしく、リナにさんざっぱら叱られた挙句、長風呂禁止を言い渡されてしまった。

 何をやらかしたのか聞こうとしたらもっと怒られた挙句、リナが三日くらい口をきいてくれなくなった。

 解せぬ。





いまさらですが、当初リナは脳嚙ネ〇ロのアイみたいな「悲しい過去持ちの天然混ざったクール系従者キャラ」にしようと思ってました。というかそのつもりで書いていました。

いつの間にか「クール系メイドの皮を被り切れてないネジの外れた悲しきウォーモンガー(クレイジーサイコロリコン)」になっていました。

解せぬ。

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