エイプリルフール回:ちみどろプレリュード
「ふんふふんふ~ん♪ふんふふ~ん♪ふんふふんふ~ん♪ふんふふんふんふ~ん♪」
蒸したサツマイモの皮をむいてミキサーにぶち込み、原型がなくなったあたりで牛乳と生クリーム、砂糖と塩を少々追加してさらにぶん回す。
スムージー状にしたスープを鍋に移し、牛乳で伸ばしていったん放置。
ニンニクとトウガラシのスライスをオリーブオイルで炒め、いい感じになったらベーコンを追加してさらに炒める。
刻んだ菜の花を加えてもっと炒め、パスタのベースは完成。
昨日拵えたローストビーフを薄く切り分けて用意しておいたシーザーサラダに盛り付け、ブロッコリーのドレッシングを一回し。
タルトタタンは………食後でいいか。
あと用意するものは………
「催促。もうご飯できた?」
「………せめてタオルくらい巻いてからリビングに来るようにいつも言ってるよね?」
全裸の同居人が、髪を拭きながらリビングに入ってきた。
………水も滴るいい女とは言うが、素体がこれだけ良いとなんかこう、エッチとか通り越して芸術品とかそういうのに近い肉体美を感じる。
………まぁ、スタイルはまだ私の方が勝ってる、か。
6歳も年下の子供にプロポーションで負けてたら私の残り少ない自尊心が消滅してしまう。
「謝罪。普通に忘れてた」
「………ま、別にいいけどさ。ご飯はもうちょっと待っててね」
「了承。とても楽しみ」
「期待しててよ、今日はことさら腕を掛けたからさ」
なんせ、
「魁月剣大会優勝!だもんね!!」
「自慢。とても頑張った」
私の目の前の少女──リーフ・颯森・リュズギャル──が、得意げににへらと笑った。
私、吉備津小路樹々とリーフちゃんの同棲生活は、およそ半年前に遡る。
簡単に言うと、うちの家がリーフちゃんのホームステイ先として選ばれて、その少し後でうちの両親が二人そろってパラグアイへ仕事でフライアウェイ。
結果として実家でニートゲフンゲフン燻ってた私がリーフちゃんの面倒を見ることになったのだ。
なったのだが、リーフちゃんが超が7,8個つくくらいケンドー強くて、そっから色々狂いだした。
送迎………は私が諸事情で車運転できないから勘弁してもらったけど、栄養バランスとか体づくりとか諸々考えてお弁当作ったり、道着洗ったり、スパーリングの相手したり、めっちゃ仕事増えた。
………まぁ、料理は好きだし体動かすのも面白いけど、それはそれとして疲れるわけで。
「うぇ~いカンパ~イ!!」
「乾杯」
カチンとグラスを鳴らし、シュワシュワを一気に流し込んだ。
くぁ~~っ、たまらん!!
この一杯のために生きてるッ!!!
「………顰蹙。おっさん臭い」
「オッサン臭い!?何を失礼な、こちとら花も恥じらう乙女ぞ!?」
「質疑。ジュジュ、今何歳?」
「………23です、はい」
「乙女?」
「おんのれ言ってはならんことを!!明日のお弁当………そういや、リーフちゃん嫌いなものなかったね」
院長先生直伝「明日のお弁当ピーマン塗れにするよ!!」を発動しようとして、リーフちゃん、割と何でも食べるんだった。
「否定。ウナギのゼリー寄せは好きになれなかった」
「アレは………仕方ないんじゃないかな?」
何か良くない思い出でもあるのか、げんなりした顔のリーフちゃん。
私も前に食べたことあるけど………うん、あれはちょっと、あんまりだった。
煮凝りっぽいしポテンシャルは感じたんだけどな~。
「あとハギス」
「ハギス………モツのソーセージみたいなアレね」
「肯定。出来が悪いのか獣臭かった」
「まぁ、そこらへんは仕方ないんじゃないの?日本人でも納豆苦手な人とかザラにいるし」
「そう?」
「そうそう」
シーザーサラダを取り分けて口に運び、安定のうまさ。
ちょっとドレッシングで和えただけの野菜がここまで美味しいのは世界のバグだと思うんだよね。
さすがは暴君カエサルが愛したいっぴ
「依頼。ジュジュ、明日の反省会手伝ってほしい」
「………ん?」
なんか変なことが聞こえた。
「明日の反省」
「聞こえなかったわけじゃないよ?………え?反省会いる?鎧袖一触だったじゃん」
5対5の勝ち抜き戦だったのが、先鋒にリーフちゃんがいたせいでストレート勝ちだったし。
何ならまともに打ち合えてたの大将と副将だけだったし。
あそこまでボコボコにされると、もういっそ笑えてくるんじゃなかろうか。
「否定、足運びがまだ甘かった。相手がフロム爺様だったらウチは負けてる」
「………マジ?」
思わず聞き返して、コクリとうなずくリーフちゃん。
え~?マジにござるか~?
………あの爺さんこえー。
いかにも好々爺な英国紳士ですって顔しておきながらバケモンじゃん。
とずまりすとこ。
「それに」
「ん?」
「ジュジュと勝負するのは、とても楽しい。エペともケンドーとも動きが違う。ジュ、ジ、ジョージツ?」
「杖術?」
「そうそれ」
「………ま、近い部分はあるか。私がいた道場でやってたのは剣術だったけど、割と何でもありの古剣術だったからね」
あれは、うん、ほんとに何でもありだったな。
殴る蹴る投げるは当たり前、一手読み違えた瞬間にフルボッコが確定する地獄の近接戦。
ぶっちゃけ軌道の読みやすい木剣よりもどう曲がるか分かんない徒手空拳の方がよっぽど怖かったけど木剣喰らったら三途が見えるからあんま変わんねぇや。
………つーか、何がヤバいって、あの道場の門下生、たぶん普通に人殺せるのよね。
なんなら素手の一撃で人体破壊くらいやってのけそうなのがゴロゴロしたし、習う技も初見殺し大正義の殺人剣だったし。
師範に至ってはなんか虎眼流流〇星まで体得してたし。
「うぅ………思い出したらお腹痛くなってきた」
「大丈夫?」
「だいじょばにゃいからハグして」
「ヤダ」
「即答!?」
「ジュジュ、テレビつけていい?」
「………いいの?私泣くよ?恥も外聞もなく泣き喚くよ?二十歳過ぎの女が泣き喚くよ?」
「スイッチョン」
「くぅん」
リーフちゃんが無情にも付けたテレビは、ちょうどコマーシャルに入ったところだった。
「おっ、カッパ社のMATOI新型の出るんだ。モデル2863だってさ」
「憂慮。何万円するのやら」
「年々高くなってるからねぇ。そもそも自動翻訳インプラントなんて、相当なバッタモン掴まされない限り変わんないでしょうに」
「反駁、有機インプラントだと結構な差が出る。人によってはアレルギーもあるし、なによりオーダーメイドは馴染みが違う」
「それは超人とかの強化系インプラントの話じゃないの?私も目と足と背中は奮発してイイの入れたし」
「苦言。生体金属なんて型落ちの骨董品に大金を積むのはよくわからない」
「長年の実働に裏打ちされた信頼性と言ってほしいね。………あとやっぱり、人間、愛着のあるものは捨てられないもんだよ」
「でも重い。ジュジュだって体重100キロ超えて」
「レディの体重にアレコレ言う悪い口はこれかな?」
「むぐっ」
リーフちゃんの口にエビフライを突っ込んで黙らせ。
「だいたい、そう言うリーフちゃんだってまぁまぁゴツいインプラント積んでなかった?」
「ごくっ………否定、そんなことない。骨格のセラミックコーティングと人工筋肉の増設、あとは眼球置換と思考加速装置と」
「結構積んでるじゃん」
「むぅ」
思わずポロリと零して、不満げに頬っぺた膨らませるリーフちゃん。
かわいい。
………しかしそうか、
「リーフちゃん、剣闘者スタイルだったんだ。初めて知ったかも」
「グラディエーター?」
「地下格闘の典型的なビルドってこと。………懐かしいなぁ、アームズファイトクラブ。お金も名声も女の子も、勝てばすべてが手に入る理想郷。………暴れすぎて追い出されちゃったけど」
私の人生の黄金期、熱気と暴力に塗れた三年間の黒い春。
今が楽しくないとは言わないが、それでもやっぱり、あの頃はよかったと思ってしまう。
どうしようもないバカの私にとって、何も考えず目の前の全てを破壊すれば何もかも手に入るというのは、それだけ生きやすい世界だった。
今だって、あの頃の貯金を切り崩して生きてるわけだし。
………あとはまぁ、対戦相手が女の子だった場合はそのままお持ち帰りゲフンゲフン
「質疑。ジュジュは女の子が好きなの?」
「う~ん………どーだろ、かわいくて抱かせてくれるなら誰でもいいのかも。チャンプやってた時は対戦相手のコとしょっちゅうワンナイトしてたし」
「不潔」
「不潔ってひどくない!?」
あからさまなくらい不機嫌そうにむくれるリーフちゃん。
あれ?私なんかマズいこと言ったか?
「侮蔑、シオンとアヤメがいながら他の女に手を出す魂胆が理解できない」
「手を出すって………二人は妹みたいなものだし、そもそもあの子たちと出会ったの、地下格闘やめてからだし」
「関係ない」
「えぇ~………」
というかリーフちゃん、なんだってこんな急に怒って………うん?
これ、ひょっとしてそういう事か?
「あ~………リーフちゃん?」
「………なに?」
「私、女の子と寝た事はあるけどエッチな事はしてないよ?」
「………は?」
「そもそもあの時、私12歳だったし」
「………はぁ!?」
頭の上にハテナマーク浮かべたリーフちゃんが、素っ頓狂な悲鳴を上げた。
この子がこんなに驚いてるの初めて見たな。
なんだか新鮮だ。
「なんというか、私の生みの親は………まぁちょっとアレでアレして私が幼いうちに荼毘に伏されまして」
「困惑、アレで濁さないでほしい」
「とかく色々あって叔母………アレ叔母だったかな?とかく妖怪マッチ棒に育てられてたんだけど、中学に上がるころにスラムに売られたんだよね。んでまぁ、私を買った側も結構なヘンタイ野郎でリングの上であんな事やこんな事する見世物の被害者にされたんだけど」
「嘆願、展開が急すぎて理解が追い付かない」
「親が死んで親戚に売られてエッチな見世物にされた。オーケー?」
「………よくないけど、わかった。それで?」
「その見世物ってのが、リング上で[自主規制]した女の子を百貫デブが[自主規制]したり[自主規制]したり[自主規制]するのを趣味の悪い観客が観戦したり乱入したりする奴だったんだけど、私が対戦相手のデブを普通に再起不能にしたのを地下格闘のオーナーがたまたま見てて、スカウトされたんだよね」
「………それで?」
「なんやかんやで地下闘技無敗のチャンピオンとして三年くらい君臨してたんだけど、なんやかんやでバーナードさん………オーナーに捨てられちゃってさ、今のお父さんとお母さんが養子に貰ってくれて今に至る、ってわけ」
薄汚れた雨の降る路地裏、父さんと母さんが私を拾ってくれたあの日の事は、いまでもよく覚えている。
………オーナーが言ってた、「頼むからお前は娑婆で生きてくれ、というかもうこっちに関わらないでくれ」ってのは、よくわかんなかったけど。
「………問答。いろいろ聞きたいことはあるけど、その………したことがないというのは?」
「そりゃ一緒に寝ただけだもん。地下格闘やってるとどうしても心が荒むからさ、そういうお店の大人のおねーさん呼んだり、あとは対戦相手の女の子にお金を渡して一緒に寝てもらってたの。私、結構評判よかったんだよ?一晩ぐっすり寝るだけで下手な大会のファイトマネー超えるし、ファイターの仲じゃ品行方正だって」
「女をとっかえひっかえしてるようなのが品行方正?」
「それだけ他の連中がヤバかったの。血液マニアとかペドフィリアとかユニコーンとかカニバリストとか貫通フェチとか上半裸とか下半裸とか前半裸とか後半裸とか右半裸とか左半裸とか全裸とかカルティストとか。やりすぎると掃除屋さんが来るけど、逆に言えば、安い売女が何人死のうが、そのくらいじゃお咎めなしだし。その点、私はとっかえひっかえするけど寝るだけだからね」
「下半裸………?」
そういや、いっぺんだけ高級娼館のオーナーと寝てもらったこともあったな。
柔らかくて気持ちよかったけど、なんだかスケベな手つきで全身撫で回されたんで2回目からのお誘いは断ってたっけ。
リナさん、今は何やってるんだろうか。
「なんにせよ、年頃の女の子にする話じゃなかったか。ごめんね?」
「………問答。ジュジュは、その、ウチと寝てみたい?」
「え、いいの?」
「否定、あくまで仮定の話。まだ寝るといったわけじゃない」
「なんだ、残念」
リーフちゃん、抱き心地よさそうなのに。
「んんっ、話は変わるけど、依頼、今週末お弁当を作ってほしい」
「今週末?おっけ」
「6人分」
「………リーフちゃん?さすがに多くない?そんなに食べたらお腹壊すよ?」
「否定、ノアマリーたちの分」
「ノアマリーちゃん?あの隣ブロックの?」
「肯定。この前、オウランに映画を見に行かないか誘われた。『プライベート・ブライアン:タイタンの落日』、ウチの一番好きな映画のリバイバル上映」
「へぇ?」
いい趣味してんじゃんあの包〇短小野郎。
今度会ったらポークビッツ引き千切ってやろうか。
「追記、せっかくだからノアマリーとクロも誘った」
「うん?」
「歓喜。アレは本当にいい映画、好きな映画はいろんな人に見てほしい」
「あ、うん、そだね?」
「高揚。そしたらステアとスイピアもついてくることになった。とても楽しみ」
あのクソガキ、デートのお誘い蹴られてやんの。
ざまぁみくされ。
………というか、プライベート・ブライアンって、スプラッタギャグサイコホラーミステリーアクションのアレ?
リーフちゃんアレ好きなの?
あの北斗の拳とドグラ・マグラ足して西遊記で割らずにひっくり返したような映画が?
なんか、嫌な予感がする。
「………待って、リーフちゃん、他に好きな映画なに?」
「返答。『ショーシャークネードの宙に』と『プレデターVSデスフクロウ~地球最後のストライキ~』。………ジュジュも知ってる映画だった?」
「あ~………うん、知ってる、有名な映画だよね」
クソ映画としてだけどな!!
なんならクソ映画四天王の三角が揃い踏みしてるけどな!!
なに?リーフちゃんクソ映画マニアだったの?
半年同棲してるけどリーフちゃんがクソ映画見てるとこなんて………いや、この子結構な頻度でお出かけしてたな?
ひょっとして映画館通いだったのアレ?
クソ映画なんてどこも配信してないから、わざわざ映画館通って見てたの?あのオーバードーズで死んだジャンキーの夢を?
こわ~………。
「追憶、スットコノーラン監督の『メタルトムソーヤの逆襲』と『ノーモアヒーロー~ハリウッド水滸伝~』もいい映画。オチが強引すぎたけど、楽しめた」
「四天王そろっちゃったよ」
「四天王?」
「なんでもない」
そっか、このコ、クソをクソと思わず食えるタイプのクソ映画マニアなんだ。
私にはない才能だ、欲しいとも思えないけど。
………しっかし、四天王なのに5人って、いつからの伝統なんだろね?
大崩落以前のデータチップなんて残ってないから調べようがないけど。
「閑話。映画を見た後、近くの自然公園でピクニックすることになったから、みんなの分のお弁当を作ってほしい。ノアマリーは、オトハとルシアスもつれてきたがってたけど」
「ネコとゴリラがシネマに入れるわきゃねぇだろドタマ沸いてんのかあのパツキン」
いくらガワが最新式の電気ネコと電気ゴリラとはいえ、アニマトロニクス連れまわるとか正気か?
「ぱ………?」
「ふぅ………ゴメンなんでもない、忘れて」
ちょっと温くなりかけたビールを流し込んでクールダウンし、深呼吸1つ。
「それで、私はお弁当作ればいいんだっけ?」
「首肯」
「………そう、だね。せっかくだし、私もついて行っていい?」
「………ジュジュも?」
「うん。久しぶりに外の空気も吸いたいしさ。毎日家の中じゃ、体に苔が生えちゃう」
「質問、無理してない?」
「してないしてない。ジュジュちゃん元気いっぱい」
嘘だ。
ハッキリ言って、今でも外には出たくない。
出たくないけど、これはいい機会だ。
こういう事情でもなきゃ私は外に出られないし、なによりこのまま腐るなど地下格闘チャンプの矜持が許さない。
そう、思う事にしよう。
「………嘆息。ジュジュ、ちょっといい?」
「なぁに?」
「ウチと一緒にお風呂はいろ」
「………へ?」
「………ん、窮屈、ジュジュ、ちょっとそっち寄って」
「あ、そう、だね。ゴメン」
直に触れあう肌の感触と、お風呂上がりの火照った体の熱。
頭まですっぽり掛布団を被って、少し暑いくらいの空気が心地いい。
むにゅりと押し付けられた柔らかな体に、抵抗できないまま位置をずらし。
待て、待て待て待て待て待て。
なんで私はリーフちゃんと一緒のベッドにいる?
思い出せ、確か私はリーフちゃんと一緒にお風呂入って、それで、
「提案。ハグしよ?」
「………わかった」
あ、だめだ、リーフちゃんがあったかふわふわでアタマ回んねぇや。
というか回す必要ねぇや。
私の頭なぞ碌なもん詰まってないし、もう動かさなくていいよね?
………お互い生まれたままの姿で抱き合っているせいか、サイバネ強化した五感の影響か、リーフちゃんの鼓動が、やけに大きく響いて聞こえる。
心臓の鼓動までかわいいとか、さては無敵
「………質疑。ジュジュの体」
「うん?」
「………傷だらけだった」
「………まぁ、色んなのとやり合ったからね。無敗のチャンピオンだったけど無傷だったわけじゃないからさ。そりゃもう傷だらけよ」
細い指先が、私の脇腹を労わるように撫でた。
この傷は………ガマ法師にドリルブッ刺された時の傷か。
あれは痛かったな。
脳天にブッ刺し返してやったけど。
「疑問。ジュジュは本当に楽しかったの?」
「………そう、だね。私ってほら、面倒くさがりじゃん?」
「うん」
「そこは即答しないでほしかったかな?………実をいうと、私、結構なダメ人間なんだよね」
「知ってる」
「………でもまぁ、不思議と痛いのも戦うのも嫌じゃなかったんだよね。最初は、生きるために、お金のために戦ってると思ってたんだけど、違ったんだ。私は、戦うためだけに戦っていたんだ」
「………」
「性に合ってるっていうのかな、打算も小細工も何もないリングの上で、どっちかが砕けて潰れるまで殴り合うのが好きだった。たぶん、そういう星の下に生まれたんだろうね」
「星?」
「私は暴力星からやってきた暴力星人ってこと」
たぶんだけど、あの日売られていなくても、私はそのうち地下格闘をやっていただろう。
この科学文明最盛の世で、それでもなお私のような暴力に魅入られた人間は一定数いて、あのリングがそういうどうしようもない連中の最後の救いである以上、私はいつかあそこへ漂着して、そして戦って死んでいた。
「師範が言うには、昔のブッディズムじゃ私みたいなのを『修羅』って呼んだんだってさ」
「シュラ?」
「ものっすごく強くてずっと怒ってる人らしいよ?そんでもって、その修羅の住む世界が修羅道って言って、永遠に戦いが終わらない世界なんだって」
「………感嘆、それは、とても素敵」
「でしょ?」
私よりも随分と小柄な体を、ギュっと抱きしめて
「安堵。ジュジュはやっぱりウチと同じだ」
毒花の蕾の咲くような、可憐な笑み。
「………リーフちゃんと?」
「追憶。ウチのママはウチが子供のころに交通事故で死んで、ウチのパパもちょっと前に病気で死んだ。………死ぬのは別にいい。生きてるならいつか死ぬのは当たり前。だけど、病気や事故なんかに殺されたくない。どうせ死ぬなら、戦って死にたい。ジュジュもそうでしょ?」
至近距離から私の顔を覗き込む綺麗な金色の瞳は、どす黒い生命の輝きを帯びていた。
あのリングで何回も相対した、私の同族共とそっくりな目。
退屈な日常に耐えきれず、刺激を求め、死闘を渇望し、自ら望んで道を外れ死に果てる事を選んだ阿修羅共。
………あぁ、そうか、私たちは根っこの部分でそっくりなんだ。
「………リーフちゃん、1つ約束しよっか?」
「約束?」
体の中に炎を抱え、同じ熱を共有できる相手を探し求めて娑婆を彷徨い、こうしてようやく巡り合えた。
だから、
「私はそのうち、あの地下に戻るよ。戻って、もう一回イチから這い上がって、全てを破壊して君臨する。君臨して勝ち続けて支配する。何年でも、何十年でも」
「だから、リーフちゃん」
「リーフちゃんが大人になったら、私を殺しに来て欲しい」
「参ったもレフェリーも無しのリングで、二人っきりで殺し合おう?」
「………ふふっ、愉悦、とても楽しみ」
「じゃあ、指きりしよっか」
「うん」
差し出された小指に、小指を絡め。
「ゆ~びき~りげ~んまん、う~そついたらは~りせんぼんの~ます、ゆ~びきった」
子供の遊びじみた口約束だけど、これで十分。
お互いがお互いを、闘争を望み求め続ける限り、きっといつか、私たちはもう一度巡り合える。
色白の首筋に、顔をうずめ。
「………今日はもう遅いし、そろそろ寝よっか」
「うん。おやすみ、ジュジュ」
「おやすみ、リーフちゃん」
暗闇の中、心臓の鼓動に身を委ねる。
匂いも呼吸も体温も、他社との境界線が溶けて混ざって包まれる感覚。
………そういえば、もうずいぶんと長いこと、誰かと一緒に寝てなかったな。
そんな事を思いながら、私は静かに目を閉じた。
「お嬢様、そろそろ起きてくださいな」
「ん、ぬぅ………?」
身体の重さを感じて目を覚まし、私の上に双子がのっかって眠っていた。
ぐっすり眠る2人を起こさないように、そっと体を動かして脱出し。
「おはよ、リナ」
「もう夕方ですけどね」
言われて時計を見れば、時刻は既に五時半を少し過ぎていた。
そうだ、お昼ご飯を食べてオネムになったシオンとアヤメを寝かしつけて、そのまま私も寝ちゃったんだ。
………やべ、変な姿勢で寝たせいで体があちこちバキバキだ。
「ところでお嬢様、なにか夢でも見ていらっしゃったのですか?ずいぶんとうなされていたようですが………」
「………夢?」
そういえば、何か夢を見ていた気がする。
誰か、大切な人の夢だったような………ダメだ、思い出せないや。
………でも、なんだろ、
「きっと悪い夢じゃないよ、うん」
久々にたっぷり眠ったおかげでアタマがだいぶすっきりしてるし、体の調子もまぁ問題ないだろう。
ググっと背筋を伸ばして、
「うん、問題ない。今夜も大虐殺だ」
「それはそれで問題な気がするのですが」
「だいじょーぶだいじょーぶ、ちょっと暴れるだけだから」
いくつかおニューの武器を作った事だし、試し切り大会としゃれこもう。
あぁでもそうだ、先に今日の晩御飯を作らないと。
えっと………
「リナ、何か食べたいものある?」
「食べたいもの………そうですね、パスタとか?」
「おっけー。ちょうど菜の花っぽいの収穫したし、久々に菜の花パスタでも作ろうかな」
なんか色が毒々しい紫だったけど毒はないし、イケるイケる。
となると、スープは………サツマイモ(食人植物)のポタージュと、シーザーサラダ(人喰いレタス)でも作ろうか。
………あれ?このメニュー、どこかで作ったような………
ま、いっか。
「それじゃリナ、二人の子守、お願いね?」
「かしこまりました、お嬢様」
音を立てないよう、静かに部屋を出た。
ウワァーーーーッ、タスケテクレーーーツ!四月バカだから現パロ書こうとしたら近未来SF舞台の何かになっていたーーーッ!!




