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第21話:爆誕!ヴァンパイアファミリー!!



「うぅんむにゃむにゃ………はっ!?」


 目が覚めると知ってる天井だった。

 というか私の部屋だ、ここ。

 最近ずっとお嬢様と添い寝してるからあんまり使ってないけど。

 とりあえずベッドから起き上が


「うおぁーーーっ!?」


 いったい!?バッキバキ、もー全身バッキバキなんですけど!?

 え?ナニコレ!?なんでこんな痛いの!?全身寝違えたか私!?


「うぅ~~………おてておてて」


 とにもかくにも義手つけなきゃ始まんないのでベッドサイドテーブルに置いてあった義手を取ろうとして、そこで初めて壁際のソファーで三角座りしてるお嬢様と目が合った。

 感情の抜け落ちた血のように赤い目が、真っ直ぐに私を見る。

 ………なんというか、その、すごく気まずい。

 何が気まずいって、お嬢様が何考えてるのかまるで分んない。

 え?

 なに?

 その顔どういう感情の顔なんですか?

 今私、怒られてます?

 というかなんでお嬢様が私の部屋に?

 ………色々わけわかんないが、わけわかんないことはわかった。

 悲鳴を上げる体を気合で動かし、お嬢様に向き直り。


「あの~………お嬢様~?大丈夫ですか~?」

「………」

「も、もしも~し?あの、私、なんかやっちゃいましたか?」

「………」

「………その、せめて怒ってるか怒ってないかくらいは教えていただけま」

「う」

「う?」

「うわあぁ~~~っ!!!!」

「うぼあーーーーっ!?!?」


 砲弾よろしくお嬢様が突っ込んできた!!

 思いっきり抱き着かれて締め上げられて息が出来ない。

 というか、これ、マジで死


「まっ、ちょっ、タンマ、マジで一回離れてくださいお嬢様、私マジで死んじゃいます!!内臓はみ出ちゃいます!!!」

「~~~~~っ!!」

「あだダダダダっ!?」


 あ、ダメだこれ、完全にアウトな奴だ。

 榴弾の至近弾喰らってノックアウトされた時と同じ感覚がする。


「どーーん!とデバガメです!!」

「おはよ、ジュジュねぇ」


 失神寸前の幻視なのか部屋のドアが吹っ飛ぶのを最後に、私は目覚めたばかりの意識をあっさり手放した。









「ひぐっ、えぐっ、ぶふぅ~~………」

「よしよ~し、大丈夫ですからね~?」


 いつもの年不相応に大人びた様子はどこへやら、顔ぐちゃぐちゃにして泣き散らすお嬢様を慰める。

 ………お気にの寝間着が涙と鼻水とでグシャグシャになってしまったが、まぁ、後で洗えばいいか。

 いまさら気にしてもしょうがないと開き直り、服の袖でお顔を拭いて差し上げて。


「あ~………つまりなんです?私、死にかけてたんですか?」

「………ないぞうはみでてしんぞうとまってた」

「………まじですか?」


 思わず聞き返して、コクリとうなずくお嬢様。

 マジか、私心停止してたのか。

 よく持ち直したな。


「しかし………いったい誰がそんなひどいことを」

「………」

「? お嬢様?どうかなさいましたか?」


 思わずそう呟いて、一度は泣き止んだお嬢様が今度は沈黙したままポロポロ泣き出した。

 なんで?

 ナチュラルに怖いんですけど。

 あとシオンとアヤメ、なんで「コイツはダメだな」みたいな顔してるんですか。

 ………ん?

 待てよ?

 えっと、その、つまり、まさか、


「………もしかして、私を殺ったの、お嬢様だったりします?」


 泣き出したお嬢様をもう一回宥めるのに、一時間ほどかかった。















「………もう大丈夫ですか?」

「………うん。迷惑かけてごめんね?」


 双子に抱き着かれたままベッドに腰かけてホットミルクをチビチビ舐めるお嬢様。

 まぁまぁ時間がかかったが、無事に泣き止んでもらえてよかった。

 しかし………


「結局なんなんです?その、きゅ、きゅーけちゅき?」

「けちゅ?」

「けちゃちゃ」

「吸血鬼。詳しく説明しようか?」

「お願いします」


 断片的に聞き出した情報から今の私とお嬢様と双子が『キューケツキ』なるものになっていることはわかったが、そのキューケツキが何かわかんない。

 わかんないので大人しくお嬢様に聞こうとしたのだが、


「マイナーどころの飛頭蛮とか含めて前世じゃ世界中に吸血鬼伝説はあったけどとりあえず本場のルーマニア式なら死者が墓から蘇って生者に害をなすアンデッドの類いかな死者を埋葬した後に死後硬直とか腐敗による膨張とかその他の反応に説明付けるために生み出された怪物ともとれるね典型的な例じゃ鏡に映らなかったり狼やコウモリを眷属にしてたり招かれずには家に入れなかったり流水の上を渡れなかったりニンニクとか聖水とか銀とか聖餅とかが弱点だったりするけど十字架に関してはキリスト教圏の文化と融合した結果の後付けだね後は首から血を吸う設定はブラム・ストーカーの吸血鬼ドラキュラあたりからの創作でそれ以前では特に決まってなかったりするし吸血鬼ドラキュラ含めた最近のスカした吸血鬼のイメージは確か吸血鬼ルスヴァンが先駆けでそれまでの吸血鬼はよくてゾンビの親戚みたいな不細工なバケモノだから19世紀ヨーロッパの耽美主義の恩恵が現代日本のサブカルに多大な影響を及ぼしたと考えると面白いねそうそうよく吸血鬼=ドラキュラと考える人がいるけどドラキュラは実在したワラキア公ヴラド3世の字名であくまでも固有名詞だから厳密にはヴァンパイアと呼ぶべき」

「待ってくださいお嬢様情報の洪水をワッと浴びせかけるのはおやめくださいお嬢様」


 いきなり知らないお庭の情報でぶん殴られた。

 なんだかズキズキするコメカミを抑えつつ、不思議そうに首を傾げるお嬢様に向き直り。


「………あの、ひとまず、私たちの身体がどうなったのかだけ教えていただけますか?」

「あ〜……その、ごめん。ちょっと熱くなった」

「いえ、そこはいいんですけど……」

「………そう、だね。魔力による恒常性維持機能(ホメオスタシス)の過活性化と、死と血液を媒介にした他者の魔力の徴収、といえばわかりやすいかな?」

「褒めて押し倒す?」

「ホメオスタシス。ほら、人間ってちょっとした擦り傷くらいならほっといても治るでしょ?アレをものっすごくするの。指ちょん切ったくらいならニョキニョキ生えてくる」

「はぇ~」


 なんか知らん間にすっごい事になってた。


「ま、私前世じゃ文系畑だったからあんま詳しくないんだけどさ」

「………それ大丈夫なんですか?頭がパンッてなったりしませんよね?」

「たぶんね。ほら、魔法はイメージってよく言うでしょ?大事なのは真実じゃなくて主観、出来ると思い込むことなの」


 そう言ったお嬢様が、マグカップのミルクを飲み干し。


「私の創造魔法の弱点は、魔力消費の多さと即応性の無さ。事前に強力な武器や消耗品を用意できるのはメリットだけど直接戦闘には向かない。………リナはアンデッドと戦ったことはある?」

「えぇ、一応。火炎放射器で遠間から焼いただけですが。確か、生物が死ぬ際に発生させる負の魔力が死体を核として動き出した魔物………でしたっけ?」

「そう。その性質ゆえにアンデッドは負の魔力を溜め込めば溜め込むほど堅く疾く強くなる。………ならさ、人間でも同じ事が出来ると思わない?」


 ………ゑ?

 それは、つまり、その、


「………今の私、アンデッドなんですか!?」

「半分、ね。心配しなくても、人間としての機能の大部分は生きてると思うよ。…………たぶん」

「一気に不安になったんですけど」

「抉れてた脇腹にお肉を移植して輸血しただけだから問題ないと思うよ。………シオンとアヤメも、出血が酷かったから輸血したけど、見ての通り元気いっぱいだし」

「やあーー!」

「ぱわーー!」


 妙な掛け声と共に謎のポージングを取る双子。

 よくわからないが、元気なのは間違いなさそうだ。

 ………あ、そうだ。


「お嬢様、1つよろしいでしょうか?」

「どうしたのリナリナ?おなか痛い?」

「リナリアです、お嬢様………このやりとり久々ですね?」

「そうかな………そうかも」

「その、再殺部隊の皆様は、ご無事でしょうか?」

「食べたよ。骨も残ってない」

「………は?」


 猫のように甘える双子を撫でながら、何でもない事のように言うお嬢様。


「えっと………それは、比喩表現とかそういう」

「違う違う、物理的に食べ尽くしたの。………まぁ、私が見つけた時にはもう結構()()()()()()()けど、それでも残ってた部分は全部食べたよ。流石に、どれがだれかまでは分からなかったけどね」


 困ったように眉をひそめたお嬢様が、唇を舐め。


「………ねぇ、リナ?私はさ、油断してたんだ。私が『これだけやったから大丈夫だろう』なんて舐めた事考えてたせいで、アンナリーゼさんたちは死んだ。たまたま輸血が上手くいっただけで、シオンもアヤメもリナも、みんな死んでてもおかしくなかった。………多少理論が不確実でも、転化の目途が立った段階で私がさっさと吸血鬼になっていれば誰も死なずに済んだのに、私はそうしなかった」

「それは」

「散々泣き喚いたおかげで少しだけ頭が冷めたんだ。………今回のこれは完全に私のせいだ。私にはもう、怠慢も妥協も許されない」


 どす黒い光を帯びた眼が、突き刺すように私を見る。


「私は強くならなくちゃいけない。一切合切を叩き潰して守らなきゃいけないもの全部守れるくらい、強くならなきゃダメなんだ。そうでないと、私はまた失う事になる。………だから、その、」


 そこまで言い切ったお嬢様が、何か言葉に詰まったように口を噤み、



「………私が強くなる、お手伝いをしてほしい」


 ………まったく、この人は。


「言われなくてもそれくらいしますよ、私とお嬢様の仲じゃないですか」

「………ありがと、リナ」


 どこか照れくさそうに笑うお嬢様をギュッと抱きしめて。


「というか私も強くなりたいですし。お嬢様にストレート負けしたのいまだに納得いってませんからね?」

「………そうなの?」

「そりゃそうですよ。単純なスペック差でボコボコにされるとか一番つまんないじゃないですか。私もそのキューケツキになったんでしょう?ならスペックは互角です。そのうち再戦申し込みますからね?」

「………そっか。なら受けて立」


 ぐ~~~っと、腹の虫の大音声がお嬢様のセリフを遮った。

 誰だこんなまじめな場面でお腹鳴らした腹ペコさんは。

 私ですねゴメンなさい。


「………あの、ごめんなさい。どうにもお腹が空いてしまって」

「別にいいよ、私もこの一週間くらい飲まず食わずでお腹減ってたし」

「………お嬢様、一週間断食してたんですか?」

「吸血鬼だからね、それくらいなんてことないよ」

「………さよでございますか」


 しれっととんでもないこと言うお嬢様にハグして、ベッドから立ち上がり。


「それじゃ、なにかご飯作ってきますね」

「大丈夫?」

「ちょっと足はふらつきますがモーマンタイです」


 「にゃふー」だか「わふー」だか言いながら甘えてくる双子をペイっとベッドに放り投げ、部屋のドアを


「あっ、そうだ。リナ、ちょっと注意事項ね」

「? どうかなさいましたか?」


 開く寸前で、お嬢様に呼び止められた。


「リナ、日光浴びないようにしてね。即死はしないけどめっちゃ燃えて死ぬほど痛いし傷も再生しずらいから」

「………はい?」

「あとニンニクも食べないように。薄切り一切れくらいならともかく1粒以上食べるとお腹が死ぬほど痛くなるから」

「………???」

「それから銀にも触れないようにね。銀食器は戸棚の奥にしまってあるから大丈夫だと思うけど、触れたら肉が溶けて死ぬほど痛いから」

「えと、あの、それはどういう」

「どれも吸血鬼の弱点としてはド定番だけどリナは吸血鬼ビギナーだからね。一応屋敷から離れずに試せる奴は全部試したけど他にもあるかもしれないから、しばらくは慎重に動いてほしいかな」

「………キューケツキ、弱点多くないですか?」

「そういうものだからね、仕方ないよ」


 さも当然のように言うお嬢様にどこか釈然としないものを覚えつつ、部屋を出てキッチンへ向かった。



 ………ありあまるパワーを制御しきれずに包丁とまな板を2セットほどダメにしてしまった。

 泣きたい。





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