第19話 SUDDENDEATH
突然ですが僕はウォーハンマーが好きです。
暇と時間と金のあるオジサマが手を出すタイプのゲームです。
良いですよね、戦いだけが残った暗黒の遠未来。
僕はオルクとかいう宇宙オークが一番好きです。
ギンカワサイキョーエンジョイ勢のミドリをすこれ。
極悪宇宙怪獣ティラニッドもいいぞ。
まぁ一緒に遊ぶ友達もフィギュアを買うお金も塗装する腕も時間もフィギュアの置き場もないんですけどねガハハハ
というわけでフリーブレイドをやりましょう
メルタガンを讃えよ
万機神万歳!!
「………なるほど、再殺部隊か。わかった、こちらで対処しよう。管轄は違うが帰還命令くらいは出せる」
「いつもありがとうございます、バーナードさん」
ふっかふかのソファーに腰かけて、出してもらった温かいお茶を啜る。
悪夢の森の南西およそ30キロ、サマリヤの街の提督邸。
久しぶりに人里へ降りた私は、バーナードさんによる定期カウンセリングを受けていた。
「戦友の娘の頼みだ、これくらいの事はしてやる。………それで、物資の方はどうだ?」
「弾薬の消耗が多いくらいで特に問題はありませんね。お肉とかお野菜とかは悪夢の森でいくらでも採れますし」
「ふむ………なら、弾薬類を多めに用意しておこう。今日はもう遅い、どうせ今晩は泊まっていくだろう?」
「ですね。お部屋お借りします」
お茶請けのクッキーを口に放り込み。
「んぐっ………そういえば、再殺部隊の人達って何をやらかしたんですか?私たちみたいな劣等髪相手にもまともに接してくれますし、悪い人たちじゃなさそうですけど………」
「286部隊………隊長はアンナリーゼ・コルトだったか。詳細は把握していないが、軍規違反とだけ聞いている。恐らくは、上か同期に濡れ衣でも着せられたのだろうな」
濡れ衣、ねぇ。
「穏やかじゃないですね」
「………長く続いた組織だからな、どうしてもどこかしら腐る」
「パパとママの時みたいに、ですか?」
「………そうだ」
「やっぱり、黒幕探すのは時間がかかりますか」
あの日、私たちを襲った糞共が使っていた銃には、政府軍の正規部隊の所属を示す刻印があった。
十中八九、パパとママが邪魔だった糞が差し向けたのだろうが、そうなると相手は政府軍の中でもそれなりの高官だろう。
「あまり派手に探ると、最悪こっちがやられかねん。そうなっては元も子もないからな」
「それもそうですね。豚は豚小屋にいるわけですし、じっくり準備してしっかり屠殺しましょう」
「………そういう顔は、結婚する前のリュドネラそっくりだな」
「あら、そうですか?お世辞でも嬉しいです」
「世辞じゃないんだがな………」
なんだか疲れたような顔のバーナードさんを他所に紅茶に角砂糖を2つほど投下して飲み干し。
「………んむぅ」
いかん、そろそろボデーが限界か。
「………すみません、バーナードさん。明日も早いのでそろそろ寝ますね、おやすみなさい」
「待て、ジュジュ。少し聞いておきたいことがある」
急速に重くなる瞼を堪えてソファーから立ち、バーナードさんに呼び止められた。
「なんです?明日の天気なら知りませんよ?」
「茶化すな。………お前、悪夢から出た後はどうするつもりだ?」
「あ~………どうしましょっか」
言われてみれば何も考えてなかったな、私。
………いや、本当にどうしようか?
「バーナードさん、なんかこう、いい感じの人が来なさそうな秘境とか知ってたりします?」
「………俺としては、こちらの目の届く範囲にいてほしいのだがな」
「………まぁ、そりゃそうでしょうけど………」
「場合次第で俺の養子として迎え入れることも出来るし、そうでなくても、4人程度ならしばらく匿うくらいの事はしてやれる。………悩む時間は作ってやるが、それをどう活かすかはお前次第だ。今のうちから考えておいてくれ」
時間、ねぇ。
「重ね重ねありがとうございます、バーナードさん。状況によっては頼らせてもらいますね」
「ぜひそうしてくれ。………おやすみ、ジュジュ。よい夢を」
「………おやすみなさい、バーナードさん。よい夢を」
ペコリと頭を下げて部屋を出る。
その夜はあまり眠れず、早朝、屋敷を後にした。
ギシリと音を鳴らして床板が軋む。
相手はナイフ持ちの大人が3人、こっちは無手義足の餓鬼が1人。
まっとうならただのリンチだろうが、あいにく私はまっとうじゃない。
じりじりと円を描くように間合いを詰めてくる相手のうち、緊張故か、誰かが一歩踏み出した瞬間、全速力で突っ込んだ。
「おっ、うわぁっ!?」
ジャックナイフの刺突を躱し、肩口で突き飛ばすように投げる。
受け身を取り損ねたのか「うぎゃあっ!?」と心配になる悲鳴と風切り音。
こめかみを狙った柄での打突をかがんで避け、軍服の襟首を引っ掴んで背負い投げめいて叩き伏せる。
背後から掴みかかってきたのに一歩踏み込んで鳩尾を肘で撃ち、怯んだところに当身を入れて引き離す。
引け腰で構えられたナイフに裏拳を放ち、
「まじっ、かぁっ!?」
手首をつかんで捩じり上げてナイフを落とさせ、右足を首に絡みつかせて締め上げ、押し倒し、関節を極め、
「あだっだだだだ!?!?ギブっ、ギブギブギブ!!!」
「そこまで!!」
ラスト1人に腕十字固めしてるとアンナリーゼさんからストップ入った。
「うぅ………ひどい目にあった………」
「マジか………アタシらマジで子供に負けたのか………」
「鎧袖一触でしたね」
「というか義足であの動きが出来るのおかしくない?」
「それは本当にそう」
「恐ろしい………でもそれ以上にかなしい子。きっと日常が義足だったはず」
「何を言っとるんだお前は」
「あにゃーーーっ!?」
愚痴と馬鹿言ってたカティアさんが脳天にアンナリーゼさんのゲンコツ喰らって悲鳴を上げるのを横目にニンニクと鷹の爪をスライス。
火にかけたフライパンに油をしいてニンニク4粒と鷹の爪をほんの少し、賽の目に刻んだベーコンを炒め、ある程度火が通ったら、缶詰のホウレン草を水気を絞って刻んで投下。
茹で上がり一歩手前くらいに仕上げたパスタとコップ一杯分のゆで汁をフライパンにいれて。
「ウリャウリャウリャウリャウリャウリャウリャ!!!!」
混ぜる混ぜる混ぜる混ぜる混ぜる!!!
ひたすら混ぜる!
とにかく混ぜる!!
遮二無二混ぜる!!!
汁気がなくなったの確認して一丁上がり!!!
「リナぁ~!アヤメとシオン呼んできて~!!」
「かしこまりました、お嬢」
「お昼だ!!」
「ボロネーゼ」
とてちてたーと走ってきたチビッ子2人が大皿のパスタを搔っ攫ってリビングに持ってった。
あとシオン、それボロネーゼちがう。
名前聞かれても答えられないけど。
「………ジュジュちゃんさ、マジで再殺部隊に来てくんない?今なら席も空いてるよ?ウチの部隊、料理できる奴がいなくt」
「子供を懲罰部隊に巻き込もうとするな、馬鹿者が」
「あっだぁっ!?」
冗談めかしてそう言ったカティアさんの脳天にアンナリーゼさんの鉄拳がもっぺん落ちた。
中身はともかく肉体年齢11歳の幼女を懲罰部隊に勧誘とかシンプル大人のすることじゃないが、それだけ気を許してもらっている………のか?
まぁ、
「………正直、誘ってもらえたのはうれしいんですけど、私にはまだ、やることがありますので」
「んん?ひょっとして結構好感触だったり?」
「はい」
「そっか。んじゃ気が向いたらいつでも来てよ、歓迎するからさ」
「ありがとうございま」
「んぐっ」
「むぐっ」
妙な音がした方を向いて、シオンとアヤメが喉にパスタを詰まらせていた。
あ~、なるほど?お腹空きすぎてがっついたら詰まらせたのね?
まったくも~お茶目なんだから~。
「リナぁ水もってきて!!」
「はい、お嬢様」
「………なにか手伝おうか?」
「いえ特に何もってなんでこの状況で追加で口に詰め込もうとしてんの!?欠食児童か!?元欠食児童だったねゴメンね!?」
イヤイヤして抵抗する二人を取りおさ………とりおさ………とり………
「力強いなキミら!?ごめんアンナリーゼさん、やっぱ手伝って!!」
「………その、大丈夫か?」
「だいじょばないです」
結局、リナと再殺部隊の皆様に手伝ってもらってなんとかしました。
キミらホントに力強いな?
「死に晒せッ、ダボがッッ!!!」
ダッガンッ!!と大砲じみた激発音が真昼の森に響き、単眼のイノシシが上半身を粉微塵に吹き飛ばされて即死した。
飛びかかってきた蛇の頭を義足の一撃で蹴り潰して殺し、遠心力をのせて叩き込んだ鉄鉈が馬車馬ほどもあるカマキリを胴中から割断する。
いまだ蠢く上半分を返す一刀で吹っ飛ばし、地面から這い出てきたモグラだかトカゲだかよくわからん魔物の脳天を叩き割って抹殺。
振り返りざま、左手の得物を照準し、
「バレてねぇとでも思ったか、このスカタンが!!」
肚に響く激烈な反動と共に、樹上からダイブしてきた獅子猿が右半身を抉り飛ばされて地べたに落ちる。
相手が再起動するより速く刃をうなじに叩き込み、力尽くで首をブチブチ引き千切った。
薄汚い生首を踏み潰し。
「まったく………四足歩行の下等生物風情が、人間様に敵うわきゃねぇだろ」
「………隊長、前々から思ってましたけど、ジュジュちゃんアタシらより強くないですか?」
「言うな、悲しくなる」
「ねぇジュジュちゃん、その銃ってどこの工房のやつ?見たことないデザインだけど………」
「オリジナルです」
「………ほんと?」
「ほんとです」
十一式試作ボルタ・ガン、【鉄拳】。
悪夢に来てからの戦闘経験を反映させた試作品のうち、実戦に持ち出せると判断したものの1つがこれだ。
《堅牢》の魔術刻印を刻んだ鋼鉄で銃全体を形成し強度を高め、《爆裂》の魔術をエンチャントした専用の軟鋼キャップボルタ弾を使用することで爆発的な破壊力を持たせた渾身の一作。
目標の体表を貫通して構造内部で炸裂し、貫通せずとも至近距離で爆裂するため、喰らった奴は大体爆発四散して死ぬ事になる。
………まぁ、反動がヤバすぎて《怪力の巨神》なしじゃ撃てないし、装弾数もたったの5発。
おまけに弾倉1つ造るのに呪々胎符を一枚使うせいで大量生産も出来ないが、それでもこの一撃は格別だ。
反動に痺れる左腕を庇いつつ、魔力を節約すべく《怪力の巨神》を解除して。
「しかし………本当に良かったのか?」
「問題ありませんよ、これくらい。シオンとアヤメを庇いながら森を脱出するよりはマシですし」
そう、私は今、部隊の皆様を案内しつつ悪夢の森の外を目指しているのです。
いや、だってねぇ………シオンとアヤメとリナと再殺部隊のメンバーを護衛しながら悪夢脱出とか無理ゲーオブ無理ゲーだし。
リナと私だけならガンダで森の外まで逃げれたかもだけど、子供2人守るならしっかり敵を排除しつつ進まないとヤベーことになるし、再殺部隊4名まで一緒となるともう無理だ。
3分くらい悩みに悩み抜いてIQ53億の私の脳味噌が閃いた天才的解決策が、いったん再殺部隊を送り届けてから引き返し帰宅、準備を整えてシオンとアヤメとリナを連れて脱出するパーフェクトプランだ。
これ以外に方法がなかったともいう。
「………ねーねージュジュちゃん、ちょっち聞いていい?」
「なんです?」
「ジュジュちゃんさ、マジでどういうアレなの?魔法も使えないし両足無いのにやたら強いし、ふらっとどっか行ったと思ったら『冷血のアルベリッヒ』直筆の指令書持って帰ってくるし、歳の割にはやたらしっかりしてるし。ひょっとしていいとこのお嬢様だったり?」
悪戯っぽい表情で話しかけてくるカティアさん。
というか、バーナードさん、そんな物騒な二つ名貰ってたんだ。
………まぁ、パパとママの同期みたいだし、そりゃ二つ名くらいつくか。
「とりあえず、世の中には知らない方がいいこともある、とだけ」
「………え゛?マジでお嬢様な感じ?うっそアタシやらかしちゃっ」
「いい加減にしろカティア」
「あいっだぁあいっ!?」
カティアさんの脳天にガヂンとヤバげな音を立てて鉄拳が落ちた。
「ぬおおおお」と、うら若き乙女には到底似つかわしくない汚い呻き声を上げて身悶えするカティアさん。
ひょっとしなくても、日頃からこんだけバカバカ叩かれてるから馬鹿になるんじゃなかろうか。
………薄々思っちゃいたけど、この人なんというか、こう、
「残念だな」
「は~あ!?残念!?このアタシが!?残念!?これでも元28狙撃連隊のエリートなんだけど!?」
「今はどうだ?」
「………使い捨ての懲罰部隊員ですチョーシのってすんませんでした」
私がうっかり口滑らせたせいで突沸しかけたカティアさんが水差されて一気に静かになった。
ふむ………。
「そういえば、カティアさんはどうして再殺部隊に?やっぱり軍規違反で?」
「あ~………や、なんといいますか………」
やべ、聞いちゃマズいこと聞いちゃったか。
「その、軍隊の生活ってやっぱキツイじゃん?」
「まぁ、そうでしょうね」
「色々疲れるとお酒飲みたくなるじゃん?」
「………?まぁ、飲みたくなりますよね」
流れ変わったな?
「お酒が回って売り言葉に買い言葉で上官のカツラを撃ち飛ばしてしまいまして」
「残念だなこの人」
「隊長!ジュジュちゃんがイジワルします!!」
「正論だろ」
「くぅん………」
アンナリーゼさんにばっさり切り捨てられたカティアさんが(´・ω・`)って感じの顔になった。
………というか、なんかこう、アレだな、この人に敬語使うの馬鹿らしくなってきたな。
もうテキトーでいいや。
「………ジュジュちゃん?その目は何かな?」
「いえ、ただ少しバカバカしくなっただけで」
「ばかばかしく!?!?」
よほどショックだったのか素っ頓狂な声を上げるカティアさんを無視して背嚢から水筒を取り出し。
「ジュジュちゃん待って、何かおかしい」
「ん?」
あんまりしゃべらずにいた斥候のエリザさんが、少し焦った表情でそんなことを言った。
………特に変な感じはしないが、
「おかしいって何がです?野生のファミレスでもいましたか?」
「茶化さないで。………森が静かすぎる、警戒したほうがいい」
「………なるほど」
耳を澄ましてみて、虫のさざめきの1つもない。
いつもなら魔物の絶叫やら断末魔やらで動物園状態の悪夢の森が、だ。
あ~………マズったか?
「隊長」
「各員防御陣形にて周囲を警戒しろ。エリザは《風精霊の手》で周囲を調査、カティアは《火炎滅却弾》を装填しておけ。アリアは詠唱が終わり次第《水精霊の加護》を発動しろ。ジュジュは」
「私が一番前に出ます。相手が何にしろ、《怪力の巨神》の装甲を抜かれるならどうせ全員死ぬでしょうし」
「………そうか、任せた」
腹を括って《怪力の巨神》を展開し、左手にボルタ・ガンを、右手に鉄鉈を構える。
耳が痛くなるほどの静寂の中、鋭敏化した聴覚が異音を捉え。
「─────そこかッ!!」
轟音と共に撃ち放ったボルタ弾が、木陰から飛び出してきた獅子猿の上半身を吹き飛ばした。
反動に痺れる左腕を庇いつつ、おかわりでやってきたもう一匹の腹をすれ違いざまに掻っ捌
「ジュジュちゃん!!」
どん、と、お腹に響く重い衝撃と、総身に奔る一拍遅れの激痛。
どこか懐かしい甘い匂いに、嗅ぎ慣れた鉄錆の赤が混じる。
横っ倒しの視界の中、砕けて割れた頭蓋からグシャグシャに潰れた真白い塊が零れ落ちた。
引き摺り出された臓物と血と肉とよくわからない何かが新雪を赤黒く染め、誰かの絶叫が脳内で木霊する。
画質の悪いスプラッタ映画のような光景に手を伸ばそうとして、パキャリと軽い音を立てて左腕を圧し砕かれた。
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて私を見下ろす、純白の大猿。
穴が開いたのかヒューヒューと風鳴る肺腑から、呼気を搾り出し、
「ころしてやる」
ゴッ、と鈍い音がして、何もかもが真っ黒になった。




