理想と現実
教会が焼け落ちた翌日。
町の人攫いの元凶であった地下農園が潰され、連れ去られていた若い男たちが無事に生還したことで、町には本来の活気が戻っていた。
「本当にありがとうございました!」
「あんたがたは、この町の救世主だ!」
カイトたちの行く先々で、昨日まであれほど怯えて口を閉ざしていた町人たちが、次々と涙を流して感謝の言葉を述べていく。
山盛りの果物や焼きたてのパンを差し出され、ニコラは「あはは、どうも」と照れくさそうに受け取っていた。
だが、そんな賑やかなお礼の嵐の中にあって、エリーだけは、終始うつむき、暗く曇った表情を浮かべていた。
町外れの静かな川べり。
人目を避けるように足を止めたエリーは、並んで歩いていたカイトの袖をきゅっと掴み、絞り出すような声で疑問を投げかけた。
「……旦那様。私、どうしても分からないのですわ」
「ん? 何がだ、エリー」
カイトが足を止めると、エリーは大きな瞳に複雑な葛藤をにじませて見上げた。
「バルバラのことです。あの方だって……始まりは私と同じだったはずなのです。デュミナス教が掲げる『弱者救済』の美しい教義に賛同し、人々を救いたいと願って、神に仕えるシスターになったはず。なのに、どうしてあんな悍ましい悪事に手を染め、人々を苦しめる化け物になってしまったのでしょう……? 私がもっと早く、教皇として地方の実態に目を光らせていれば、事前に止められる方法があったのでしょうか……っ」
聖職者としての理想と、目の当たりにした醜悪な現実。
そのギャップに、純粋なエリーの心は深く傷つき、自分を責めていた。
カイトは川面を見つめ、少しの間を置いてから、エリーの目線に合わせて静かに語りかけた。
「エリー。これは教皇としての怠慢なんかじゃない。……人間の、どうしようもない本質の話だ」
「人間の……本質?」
「ああ。どんなに綺麗な理想を掲げた組織でもな、目の前に大金が転がり込んでくると、どうしても頭がおかしくなっちまう奴が出てくるんだよ」
カイトは元の世界の歴史や社会の仕組みを思い浮かべながら、淡々と解説を続ける。
「グレゴリーの時もそうだったが、デュミナス教っていう国家規模の組織は、動いている金の総額が凄まじすぎるんだ。ただ、教会の運営自体には莫大な維持費や補助金が必要だから、組織の帳簿上はお金が足りないように見える。財政状態がブラックボックス化しているのはそのせいだ」
エリーはハッとして息を呑む。カイトは言葉を重ねた。
「だけどな、その膨大な物流や寄付の通り道にいる個人レベルで見れば、そこには個人の生涯年収を遥かに超える莫大な額の現金が、日常的に行き交っている。そうなるとね、最初は純粋だった人間でも、歪んじまうんだよ。その中から、落ちている金をちょいと盗む奴が出てくる。さらにバルバラみたいに、その金を元手にして、違法植物の栽培なんかでさらに何倍にも増やそうと考える奴がどうしても現れるのさ」
カイトはエリーの頭にそっと手を置き、その曇った表情を和らげるように小さく微笑んだ。
「エリーがどんなに完璧な教皇様だったとしても、人間の欲そのものを事前に消し去る魔法なんて存在しない。だから、自分を責めるな。悪いのは理想を裏切って私腹を肥やしたあいつであって、エリーの理想が間違っているわけじゃないんだからさ」
カイトの、現実的かつ客観的な、けれどどこまでも優しい慰めの言葉。
エリーはその温かい手のひらの感触に救われるように、じわりと瞳を潤ませながら、小さく、深く頷くのだった。
「人間の欲そのものを消し去るのは難しい。……だけどさ、多少の対策ならあるぞ」
カイトは川面に小石をぽんと放り投げ、言葉を続けた。
「利害関係のない第三者が、教会の財布や行動を外から監視する仕組みを作ればいいんだ。組織の内側だけで隠蔽できないようにね。……あるいは、今みたいに教皇本人が直々に、お忍びで地方を見て回るっていうのも、かなり効果的な牽制になると思うな」
「なるほど……。お飾りのトップではなく、トップ自らが現場に足を運ぶのですね」
エリーが真剣な表情で頷く。
しかし、カイトは少し困ったように頭を掻いた。
「ただ、どちらにしても、圧倒的に信頼できる人の数が足りない。……なぁエリー、実際のところ、教会内にシズク以外で本気で信頼できる人ってどれだけいるんだ?」
「……。思い浮かびませんわ……」
エリーは悲しげに視線を落とした。
総本山にいた頃の彼女の周りは、権力に擦り寄る者か、教皇を神輿として利用しようとする者ばかりだったのだ。
「だろ? だから、まずはその味方を増やしていかないといけない。せっかくこうして各地を旅してるんだからさ、総本山の中だけじゃなく、地方の教会にも信頼できる骨のある奴を作っていけたら、なお良いよな」
「旅をしながら、未来の味方を、地方に……」
カイトの具体的で前向きな提案は、曇っていたエリーの心に新たな光を灯していく。
自分のすべきことが、点と点でおぼろげに繋がり始めていた。
「おーい、二人とも! こっちで果物のお裾分けもらったよ!」
「カイトさん、エリー、こちらにいらしたのですね」
そこへ、町の人々からのお礼の品を抱えたニコラと、騎士団との引き継ぎを終えたセイラが合図を送りながら合流してきた。
仲間たちの顔を見回したエリーは、胸の奥から湧き上がってきた、素直な、けれど少しだけ甘えるような問いを口にする。
「……皆様。もしも、これから先……私が教皇としての理想と現実の間で、本当に困って、動けなくなってしまったら……その時は、私のことを助けてくださいますか?」
「もちろん! 技術的なサポートなら任せてよ。あ、でも危険な戦闘は勘弁ね?」
ニコラが真っ先に、快活な笑みを浮かべて親指を立てた。
「そりゃまあ、な。ここまで一緒に旅してきたんだ。見捨てたりはしねえよ」
カイトは少し気恥ずかしそうに視線をそらしながらも、しっかりと頷いてみせる。
二人の温かい返事にエリーが胸を熱くさせていると、最後に残ったセイラが、カイトの隣でふっと悪戯っぽく微笑んだ。
「そうですね……。カイトさんが同時に困っていないという条件付きなら、喜んで助けに飛びますよ?」
「ちょっとセイラさん!? 旦那様と私、どっちが大事なんですの!?」
「ふふ、そんなの決まっているじゃないですか」
セイラの冗談めかした、それでいてどこまでも彼女らしい答えに、ニコラが「ブレないねぇ」と呆れたように笑い出す。
つられてカイトも苦笑し、エリーの顔にもいつもの天真爛漫な笑顔が完全に戻っていた。
理想と現実の厳しさを知っても、この仲間がいればきっと歩いていける。
爽やかな川風が、笑顔に包まれた4人の間を優しく吹き抜けていった。
「ちょっと、三人ともここで待っててくれ」
カイトはそう言い残すと、近くにあった町の露店へと足を向けた。
少しして戻ってきた彼の手には、シンプルな銀細工で作られた、四つの小ぶりなお揃いのペンダントがあった。
「ニコラ、ちょっとこれ」 カイトはセイラとエリーに聞こえないよう、近くにいたニコラにだけペンダントを一旦預け、声を潜めた。
「お前の技術で、これに位置のわかる『魔力の発信機能』を仕込めるか?」
「え、発信機? 旅の安全対策としては大賛成だけど……いいの? セイラとエリーには内緒で仕込んじゃってさ」
ニコラが不思議そうに首を傾げると、カイトは少し気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いや、だってさ。せっかく男から贈るアクセサリーなのに、最初から『これ発信機付きの実用品だから』なんて説明するの、あまりにも色気がないだろ? あいつらには内緒で、お守りってことにして渡したいんだよ。あ、もちろんニコラ、お前の分もあるからな」
「あはは、カイトにしてはロマンチックなこと考えるじゃん。了解、僕の技術にかかれば、こんなの三分で外見からは絶対バレないように埋め込んであげるよ」
ニコラは手際よく工具を取り出し、四つのペンダントの裏側に微細な魔導回路を刻んでいった。
カイトはその間に、露店で分けてもらった綺麗なリボンと紙で、出来上がったペンダントを一つずつ丁寧にラッピングした。
「はい、これ。今回の町での一件のお疲れ様を兼ねて、俺からのプレゼントだ」
カイトが少し照れながら、セイラとエリー、そしてニコラに、綺麗にラッピングされた小さな小箱を差し出した。
「えっ、旦那様からのプレゼント……!?」
「カイトさんから、私に……?」
箱を開け、中から現れたお揃いの美しい銀のペンダントを目にした瞬間、二人はこれ以上ないほどに瞳を輝かせた。
「素敵ですわ、旦那様! お揃いのペンダントだなんて、私、一生外しませんわ!」 エリーは感激のあまり胸の前で手を組み、ペンダントを愛おしそうに抱きしめる。
「ありがとうございます、カイトさん。……ふふ、お揃い、ですね」
セイラもまた、頬をほんのりと桜色に染め、愛おしそうにペンダントの鎖を指でなぞっていた。
二人の喜びようは、まさに最高潮だった。
「あはは……。うん、カイト、ありがとう。すっごく、嬉しい、なぁ……」
そんな二人を余所に、プレゼントを受け取ったニコラの喜び方は、見事なまでに完全な棒読みだった。
だって、知っているのだ。
この美しいペンダントの裏側には、たった三分前に自分の手でガッツリ発信機を仕込んだという、ロマンチックのロの字もない現実を。
(これ、僕がさっき加工したやつだからなぁ…)
仕方ないとは言え、自分だけは実用品だと知っているニコラはスンとした目でペンダントを見つめる。
そんなニコラの心中など露知らず、「喜んでもらえてよかったぜ」とホッとしたように笑うカイトと、幸せそうに微笑むセイラ、そしてエリー。
悲喜こもごもの想いを胸に、お揃いのペンダントを身につけたカイト達一行の馬車は、再び賑やかに、次の目的地へと向けて走り出すのだった。
ガタゴトと揺れる馬車が、長閑な田園風景の広がる新たな村へと到着した。
馬車が広場に止まると、セイラはいつものようにシスター服の襟を正し、
「それでは、仕事がないか教会へ行ってまいりますね」と腰を浮かせる。
いつもならここでエリーは見送るところだが、今回は違った。
エリーは自らの意思で、すっと立ち上がったのだ。
「セイラさん、私も付いていってよろしいかしら?」
「え、エリーが、ですか?」
驚いて目を丸くするセイラに、エリーはカイトからもらった銀のペンダントにそっと手を置き、真剣な眼差しで頷いた。
「ええ。前の町で、私は自分の世間知らずさと、地方教会の現実を痛感いたしました。旦那様の言う通り、これからの教会を良くしていくためには、私が『人を見る目』を養い、信頼できる味方を地方にも作っていかなければなりません。ですから……」
エリーは少し緊張した面持ちで、御者台に座るカイトを振り返る。
「まずはこの村の教会へ行き、責任者の方に私の身分を明かしてみようと思いますの。もちろん『教皇のお忍びの旅』ですから他言無用であることを約束してもらった上で、その方がどんな対応をする人物なのか……私のこの目で、確かめてみたいのです」
教皇という絶対的な権力を突きつけられた時、地方の聖職者は怯えるのか、媚びを売るのか、あるいは誠実に対応するのか。
それはエリーにとって、未来のための第一歩となる小さな「試験」だった。
カイトはエリーの真っ直ぐな瞳を見て、ふっと口元を緩めた。
「いいんじゃないか? 自分の目で見て、自分で感じる。未来の教皇様としては満点の行動力だろ」
「旦那様……!」
「それに、隣にはウチの最強の護衛が付いてるんだ。どんな悪い奴がいたとしても、セイラがいれば俺は100%安心だしな。……な、セイラ?」
カイトが信頼を込めて視線を送ると、セイラは一瞬だけ嬉しそうに頬を染め、すぐにビシッと胸を張って頼もしい笑みを浮かべた。
「はい! カイトさんからお預かりした大切な役目です。何があっても、私の命に代えてお守りします。それに……もしその責任者が『嘘』を吐いたら、私の耳がすぐに暴いてみせますから」
「ふふ、心強いですわ。それでは旦那様、ニコラさん、行ってまいります!」
エリーは街娘の服の裾を軽やかに揺らしながら、セイラと共に馬車を降りた。
二人の少女が並んで教会の門を潜っていく後ろ姿を、カイトは見守る。
「……あいつ、本当に強くなったなぁ」
「そうだね。最初の頃の暴走っぷりが嘘みたい。ちょっと寂しい気もするけどさ」
隣でニコラがやれやれと肩をすくめる中、カイトは胸のポケットにあるお揃いのペンダントの感触を確かめながら、エリーの『未来のための挑戦』がどうか実を結ぶようにと、静かに願うのだった。
「――素晴らしいお人柄でしたわ!」
教会から戻ってきたエリーは、馬車の扉を開けるなり、その美しい瞳を輝かせて報告した。
「他言無用を貫くという神への誓いも、私への礼儀も、すべてが誠実そのものでした。村の困りごとも自分のことのように悩んでおられて……あの方のような神父様こそ、私が求めていた、本物の信頼できる方ですわ!」
「ええ。カイトさん、私の『ノイズ』も一度も鳴りませんでした。あの神父様の言葉には、一片の嘘もありません。本当に真面目で、村人から深く慕われている方です」
隣に立つセイラも太鼓判を押す。エリーの初めての「人目利き」は大成功に終わったようだ。
カイトが「そいつはよかったな」と安堵の笑みを浮かべた、まさにその時だった。
「あ……っ、う、頭が……!」
突如としてエリーがこめかみを押さえ、その場にふらりとよろめいた。
「エリー!?」とセイラが慌ててその身体を支える。
エリーの瞳の奥から、意思とは無関係に黄金の魔力が溢れ出していた。
エリーの固有魔法――『オラクル』の強制発動だった。
数秒の後、荒い呼吸を繰り返しながら、エリーは真っ青な顔でカイトを見上げた。
その手は恐怖で小刻みに震えている。
「だ、旦那様……予言が、降りましたわ……。――近いうちに、この村を凶悪な『野盗の集団』が襲います。そして……村には火が放たれ、多くの死者が出ると……!」
不穏すぎる未来の確定。
ニコラが「死者が出るって、そんな……!」と息を呑む。
カイトは一瞬、いつもの調子で言葉を返そうとした。
「野盗、ね。まぁ、俺たちには最強のセイラがいるし、ニコラの魔導具もある。野盗の集団くらい、返り討ちにして――……いや、待てよ」
言いかけて、カイトはハッと口を閉じ、顎に手を当てて深く考え込み始めた。
異世界転移者としての知識、そして現代の合理的な思考回路が、脳内で急速に警鐘を鳴らす。
「エリー、一つ確認だ。その野盗が『いつ』この村にやってくるのか、具体的な日時はわかるか?」
「いえ……。オラクルは断片的な未来の光景しか見せてくれませんわ。明日なのか、それとも一ヶ月後なのか……いつ来るかまでは、分からないのです」
「……やっぱりか」 カイトの表情が一気に険しくなる。
その様子に、ニコラが不思議そうに尋ねた。
「どうしたの、カイト? いつ来るか分からないなら、野盗が来るまでこの村に滞在して、迎え撃てばいいじゃない」
「いや、ニコラ。それでは根本的な解決にならないんだ」
カイトは腕を組み、冷徹な現実を予測として口にした。
「仮に俺たちが数週間この村に滞在して、運よく襲ってきた野盗をここで撃退できたとしよう。……でも、そのあと俺たちがこの村を出発した後はどうなる? 逃げ延びた野盗の残党や、別の野盗のグループが『あの村にはもう強い旅人はいない』と知ったら、間違いなくまたこの村を襲うはずだ。俺たちが永久にこの村の用心棒を続けるわけにはいかない以上、力任せにその場を凌ぐだけじゃ、俺たちが去った後に予言通りの惨劇が起きるだけだ」
「あ……」
セイラがハッとして息を呑む。
エリーも自分の浅はかさに気づいたように目を見開いた。
「ただ敵を倒すだけじゃダメだ。この村が、俺たちが消えた後もずっと自立して平和を保てるような『やり方』を考えないといけない」
カイトの視線は、すでに目の前の危機ではなく、この村の『未来』へと向いていた。
嘘つき魔道士の天才的な頭脳が、生存率100%を維持しつつ、村そのものを強固にするための次なる奇策を練り始めるのだった。
カイトが数日かけて練り上げたその策は、もはや奇策と呼ぶべきなのか、あるいはただの正攻法の斜め上を行くものなのか、誰も判断がつかないシロモノだった。
カイトは万が一に備え、セイラ、エリー、ニコラの三人に村の守りを頼んだ。
野盗がいつ村に現れてもいいように防衛線を張らせたのだ。
そして自身はといえば、「ちょっと近所を散歩してくる」とでも言うような軽いノリで、単身、山奥にある野盗のアジトへと乗り込んでいってしまった。
村の広場で武器を構え、いつ来るとも知れぬ敵の襲撃に備えて一日中張り詰めていたセイラたちは、最悪の荒事、血みどろの防衛戦をも覚悟していた。
だが、翌日の夕暮れ時。
村の入り口から現れたのは、予想だにしない光景だった。
「よお、みんな。ただいま」
呑気に手を振って歩いてくるカイト。そしてその背後には――ギラギラとした刃物を携え、見るからに凶悪な面構えをした、数十人もの「本物の野盗の集団」がゾロゾロと付き従っていた。
「なっ……!? カイトさん、下がってください!」
セイラが瞬時に抜剣し、エリーを庇うように前に躍り出る。
ニコラも慌てて魔導具を構えた。
「おいおい、待ちねぇお嬢ちゃん方! 武器を収めてくれ、俺たちはもう戦う気はねえんだ!」
野盗の頭目らしき大男が、慌てて両手を上げて、あろうことかカイトの顔色を伺うようにペコペコと頭を下げた。カイトはニヤリと不敵に笑い、唖然とするセイラたちの前に進み出る。
「おい、紹介するよ。こいつらが例のオラクルで予言されてた野盗の皆さんだ。――で、色々話し合った結果、こいつら全員、今日からこの村の『専属の私設護衛団』として、ここで真面目に働くことになったから」
「「「はあぁぁぁ……!?」」」
三人の声がきれいにハモった。
カイトがやったことは至極単純だった。
単身アジトに乗り込んだカイトは、詐欺師まがいの心理交渉術と、現代の経済知識をフル稼働。
「今の時代、ただの野盗なんてコスパが悪すぎる。いつ強い旅人に返り討ちにされるか分からないし、取り分も不安定だ。それより、この村から毎月安定した『護衛報酬』を受け取り、さらに村の特産品を周辺の町へ安全に運ぶ『輸送ギルド』を兼業した方が、生涯年収が3倍になって、しかも合法的に美味い酒が飲めるぞ」と、大真面目なプレゼンテーションを行い、野盗たちを完全に丸め込んでしまったのである。
「これから先、俺たちがこの村を去っても、こいつらが村の防衛戦力になる。村は安全を買えて、元野盗は定職に就ける。これならオラクルの『死者が出る予言』も、根本から叩き潰せるだろ?」
「カイトさん……あなたという人は……」
セイラは構えていた剣の行き場をなくし、ただただ呆然とカイトのあり得ない成果を見つめる。
「旦那様、すごいですわ……! 血を流さずに未来を変えてしまうなんて、これぞ本物の『奇跡』ですわ!」
エリーは両手を叩いて大喜びし、その瞳にはもはや盲目的なほどの崇拝の念が宿っていた。
「……いや、奇跡っていうか、ただの極悪な詐欺師の手口だよ、これ」
ニコラだけが額を押さえ、カイトに完全に騙されてニコニコしている元野盗の頭目を見ながら、深いため息を吐いた。
何はともあれ、エリーのオラクルが示した最悪の未来は、嘘つき魔道士の規格外のハッタリによって完璧に回避された。
村には未来永劫続く「自立した平和」がもたらされ、教皇であるエリーにとって、これ以上ない「理想の守り方」の教科書となったのだった。




