突然の告白
「――以上が、グレゴリー神父による『教皇暗殺計画』の全貌、および大聖堂での捕縛劇の顛末にございます」
総本山の教皇執務室。
シズクは一礼し、教皇へ一連の事件の報告を終えた。
神父が地下最深の牢獄へ連行され、完全に破滅したこと。そして、それを成し遂げたのが、異世界からの転移者であるカイトという青年と、その仲間たちであったこと。
デスクに山積みにされた書類の後ろから、デュミナス教の最高権威――教皇エレオノーラは、目をきらきらと輝かせて身を乗り出した。
「まあ……! 話は聞いていたけど、本当に面白い人たちね!」
エレオノーラは、白い上品なドレスの袖を揺らしながら、深くため息をついた。
「いいなぁ、シズクは。私なんて、毎日毎日この部屋に閉じこもって、終わりの見えない補助金や寄付金の書類仕事ばかり押し付けられているのに……。シズクだけそんなに楽しそうな冒険をしていただなんて、ずるいわ! 私もそのカイトという人に会ってみたかったわ!」
「エリー、私は遊びに行っていたわけではありません」
羨ましそうに頬を膨らませる主の姿に、シズクは眉をひそめて、いつもの真面目な調子で窘めた。
「今回はカイトという男の、文字通り命懸けのハッタリと、異世界の『科学』とやらを応用した魔導具がなければ、今頃どうなっていたか分かりません。敵に回せばこれほど厄介な男はいませんが、今回はその知略に救われました。……それに、私にとっては、気の休まらない、悪夢のような日々でもあったのですから」
「ふふ、シズクったら、そうは言ってもその方達の話をする時は楽しそうよ?」
エリーがくすくすと楽しそうに笑った、その時だった。
「――っ!?」
不意に、エリーの身体がびくりと硬直した。
その美しい青い瞳から光が消え、まるで魂がどこか遠い世界へと引きずり込まれていくかのように、虚空を一点に見つめ始める。
「エリー……!?」
シズクの表情が一瞬で引き締まる。この独特の空気感を、シズクが忘れるはずもない。
エリーの意思とは関係なく、神の気まぐれによってもたらされる未来の予言――固有魔法『オラクル』の発動だった。
前回の予言、すなわち『教会内部の人間による教皇暗殺』が告げられた時、エリーは恐怖のあまり顔を真っ青に染め、ガタガタと震えていた。
最悪の未来に、ただ怯えるしかなかったのだ。
しかし、今回のエリーの反応は、前回とは明らかに異なっていた。
「あ、う……嘘、でしょ……?」
エリーの頬が、みるみるうちに林檎のように真っ赤に染まっていく。
パチパチと瞬きを繰り返しながら、自分の両頬を両手で包み込み、まるで熱病にでも浮かされたかのように身もだえを始めた。
「エリー!? お気を確かに! 一体、今度はどのような未来が見えたのですか……っ!?」
悲壮な決意を胸に、エリーの肩を掴んで揺さぶるシズク。
しかしエリーは、真っ赤になった顔をさらに手で覆い隠しながら、蚊の鳴くような震える声で、とんでもない「神託」を口にするのだった。
街の喧騒から少し外れた、うららかな陽気の下。
セイラは、カイトと並んで歩くこの瞬間に、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
神父の計画を暴くためとはいえ、一度はカイトが崖から転落し、この世から消え去ってしまったのだと絶望したあの暗い夜。
あの時に味わった引き裂かれるような喪失感が嘘のように、目の前には、いつも通り飄々とした青年が歩いている。
一度は完全に失われたと思っていた、あまりにも幸福な時間。
(……もう、自分の気持ちに嘘はつけません)
他人の嘘を拒絶し、孤独に生きてきた自分に、優しく居場所をくれた人。
暗殺者としての自分の過去も、戦闘力の高さもすべて知った上で「全力で守りたい」と言ってくれた人。カイトを見るだけで、心臓がうるさいほどに鼓動を打つ理由を、今のセイラははっきりと自覚していた。
彼女の隣で、カイトは「この間の埋め合わせだからな」と笑いながら、並ぶ露店を眺めている。
今なら、言える。この溢れる想いを、今すぐこの人に伝えたい。
セイラは足を止め、衣服の裾をぎゅっと握りしめた。
「あの、カイトさん……私、あなたに、どうしても伝えたいことがあるんです」
「ん? どうした、セイラ」
不思議そうに振り返るカイトの瞳を、セイラは真っ直ぐに見つめ返した。
緊張で喉が震える。
それでも、想いを言葉にしようと唇を開いた――その、瞬間だった。
「――見つけました〜〜〜〜っ!!」
場違いなほどに華やかで、どこか気の抜けた大声が、静かな通りに響き渡った。
「え?」
カイトが声をあげるよりも早く、風のように突進してきた影が、カイトの胸元へと勢いよく飛び込んでいく。
「わ、わわっ!? なんだ、突然――」
呆然とするカイトに全力で抱きついたのは、ブロンドの髪を揺らし、上品な白いドレスを身にまとった美しい少女――教皇エレオノーラその人であった。
彼女はカイトの胸に顔を埋めたまま、至福の表情で、しかし周囲に丸聞こえの音量で高らかに言い放った。
「やっとお会いできました! 私の、未来の旦那様……!」
「……は?」
カイトの思考が完全にフリーズする。
その瞬間。
春の柔らかな空気は一瞬にして消失し、街の一角は、まるで極寒の吹雪に晒されたかのように、文字通り『凍りついた』。
カイトの背後から、一切の感情が消え失せた、底冷えのするような視線が突き刺さる。
そこには、これまでに見たこともないほど暗い瞳をしたセイラが、般若のような笑顔を浮かべて佇んでいた。
(……ノイズは、聞こえない。つまりあの女は、本気でカイトを『旦那様』だと思っている……?)
絶対に怒らせてはならない最強のシスターから放たれる、凄まじいまでの殺気と嫉妬の波動。
カイトは抱きついてくる美少女の感触を味わう余裕など一瞬で吹き飛び、己の首筋に冷たい刃を突きつけられたかのような戦慄に、ただただ冷や汗を流すことしかできなかった。
「――エリーーーーっ!! 待ってくださいエリーっ!!」
凍りついた修羅場の中心へ、息を切らせたシズクが血相を変えて飛び込んできた。
カイトの胸に嬉々としてしがみつくエリーの姿を見た瞬間、シズクの顔からサーッと血の気が引いていく。
「な、何をしているのですか教皇ともあろうお方が……っ!?」
「あ、シズク! 遅いですよ、私もう『旦那様』を見つけましたの!」
悪びれもせず満面の笑みを浮かべるエリーに対し、カイトは引きつった顔でシズクに視線を送った。
「えーと、シズクさん……。頼むから、俺のライフがセイラの殺気でゼロになる前に、この子が誰で、この状況が何なのか説明してくれないか……?」
「……カイト、大変申し訳ありません」
シズクは額を押さえ、消え入りそうな声で、しかし残酷な真実を告げた。
「そちらで貴方に抱きついている不届き者は……我がデュミナス教の最高権威、教皇エレオノーラ様です」
「は、はあ!? 教皇様ぁ!?」
カイトの目が点になる。まさか、かつて神父が暗殺しようとし、自分たちが裏から救った国家規模の超重要人物が、自ら突撃してきて胸に収まっているなど誰が想像できただろうか。
カイトは冷や汗を流しながら、胸元の美少女――エリーに恐る恐る語りかけた。
「えーと、教皇様……? 事情はさっぱり分かりませんが、ひとまず、その、少し離れていただけると助かるのですが……」
するとエリーは、不満げに頬を膨らませてカイトを下から見上げた。
「まあ、そんな他人行儀な! 未来の旦那様なのですから、私のことはエリーとお呼びくださいな」
「エリー、様……。とにかく、ここでは目立ちすぎます。一回離れてもらって、落ち着ける場所に移動しませんか?」
カイトの必死の提案に、エリーは「仕方がありませんわね」と名残惜しそうに腕を緩めた。
その間も、背後に佇むセイラからの無言の圧力がカイトの背中を焼き続けていた。
近くの喫茶店の個室へと場所を移した一同。
しかし、カイトの望んだ「落ち着ける状況」とは程遠い空間がそこにはあった。
「ふふ、旦那様の腕、とっても安心しますわ……」
「……」
移動した意味がない。
エリーは席に座るなり、当然のようにカイトの隣を陣取り、その右腕を両手でぎゅっと抱きしめて離さないのだ。
そしてテーブルの向かい側からは、笑顔のまま一言も喋らないセイラから、物理的な暴風一歩手前の凄まじい殺気がメキメキと漂ってきている。
生きた心地がしないカイトは、限界を迎えた目で正面のシズクを睨みつけた。
「シズクさん、早く……早く説明を……!」
「……分かりました。事の始まりは、本日発動したエリーの『オラクル』にあります」
シズクは深くため息をつき、真剣な面持ちで語り始めた。
「前回の暗殺予言の際、エリー様は恐怖で顔を青くされていましたが、今回の予言が下りた瞬間、顔を真っ赤にして身もだえを始められたのです。一体何が見えたのかと私が問い詰めたところ……」
シズクは一度言葉を区切り、信じられないものを見る目でカイトを見つめた。
「神託は、こう告げたそうです。『お前を陰謀から救い出した、異世界の青年――カイトこそが、お前の将来の伴侶となる男だ』、と」
「……はあ!?」
カイトの素っ頓狂な声が個室に響く。
異世界の話や、神父をハメた顛末を聞いて興味を抱いていたところへ、決定打となる「結婚予言」が直撃したのだ。
エリーが暴走して総本山を飛び出してきた理由が、ようやく繋がった。
しかし、カイトが驚愕に目を見開いたその瞬間、対面から「ギチィ……」と、木製の椅子がきしむ不穏な音が鳴り響いた。
「……なるほど、神託、ですか」
セイラが、凍りつくような、それでいてどこか艶然とした笑みを浮かべて静かに呟く。
その耳に『ノイズ』は一切走っていない。つまり、エリーの言葉もシズクの言葉も、すべて正真正銘の真実であると、セイラの固有魔法が証明してしまっていた。
「カイトさんを守る『護衛』として……これは見過ごせない『外敵』が現れてしまいましたね?」
「セイラさん!? 目が、目が据わってるから! 落ち着いて、これ俺の意志じゃないから!!」
カイトの必死の弁明も虚しく、最高権威の美少女教皇による突然の求婚は、嘘つき魔道士の日常を容赦なく激動の修羅場へと叩き落とすのだった。
喫茶店の個室。
そこはもはや、人知を超えた極限の精神戦の戦場と化していた。
「旦那様、このクッキー、とっても美味しいですよ! はい、あーん、してくださいな」
「あ、いや、えーと……」
無邪気な笑顔で、クッキーを指先でつまんでカイトの口元に差し出すエリー。
相変わらず、彼女はカイトの右腕をがっちりとホールドしたままである。
当の本人は、自分の行動がどれほどの嵐を巻き起こしているか、全くお構いなしの様子だった。
なぜなら、テーブルの向かい側に座るセイラから、物理的に空気が歪むほどの黒い殺気がダダ漏れになっていたからだ。
「ギチ……ギチギチ……」
セイラの手元で、おしぼりが雑巾のように絞り上げられ、繊維が悲鳴を上げている。その瞳からは完全にハイライトが消え去っていた。
この凄まじい威圧感の前に、カイトの胃はギリギリと悲鳴を上げ、隣に座るシズクも、この場に呼び出されたニコラも、完全に小さくなって萎縮している。
耐えかねたカイトは、向かいのシズクへ、すがるような視線を送った。
(おいシズクさん! お前の大事な主だろ、この暴走教皇様をどうにか引き剥がしてくれ……っ!)
対するシズクは、青ざめた顔で力なく首を振り、目元を引きつらせて視線を返してくる。
(無理です!暴走したエリー様は誰の言葉も聞きません! それよりカイトさん、あなたこそセイラさんの殺気をどうにか止められないのですか……っ!?)
(俺にどうしろって言うんだよ! 下手に動いたら俺の首と胴体が泣き別れになるわ!!)
カイトが絶望的な視線をシズクに突き返した、その時。
カイトとシズクの視線の往復を、死んだ魚のような目で見つめていたニコラが、そっと挙手をしながら二人へ視線を向けた。
(……ねえ。僕、今回の修羅場にミリも関係ないジャンク屋なんだけど、今すぐこの空気から逃げてお店に帰っても良いかな?)
その瞬間、カイトとシズクの二人の目がカッと見開かれ、ニコラへ同時に狂おしいほどの視線が突き刺さる。
((置いていかないで!!!))
極限状態に置かれた人間は、言葉を介さずとも、視線だけで完璧に意思疎通ができるようになるらしい。
3人の間には、一言も発していないとは思えないほどの熱いドラマが爆速で繰り広げられていた。
「どうしました? 旦那様、クッキー、お口に合いませんか?」
そんな3人の視線劇など露知らず、エリーは不思議そうに小首を傾げる。
「い、いや! 喜んでいただきます!!」
セイラの殺気から逃れるように、カイトは半ばヤケクソでエリーの差し出したクッキーに食らいつく。
その瞬間、正面のセイラから「ゴキッ」と、おしぼりではない『何か』が力強くへし折れる不穏な音が店内に響き渡るのだった。
「……ヒビ、入ってないか?」
「入ってるね……」
カイトとニコラは、目の前の光景に我が目を疑った。
セイラが両手を置いている、喫茶店のあの頑丈で分厚い木製のテーブル。
その中心に、まるで落雷でも受けたかのような、禍々しい亀裂がみしみしと走り始めていたのだ。
これ以上この店に迷惑をかけるわけにはいかない。
いや、それ以上に、この針のむしろのような空間に自分自身の精神がこれ以上耐えられない。
(考えろカイト、脳細胞をフル回転させろ……! この暴走箱入り教皇を、セイラを刺激せずに、かつ合法的に遠ざける言い訳を……っ!)
冷や汗が引きつった頬を伝う中、カイトの脳裏に電撃のような閃きが走った。
「あ、そうだ! エレオノーラ様、大変残念なのですが……実は俺たち、もうすぐこの街を出発しなければならないんです。そう、『旅』ですよ。俺たちは旅の途中ですからね!」
よし、これだ。
旅に出るという大義名分があれば、教会の最高権威である教皇がそう簡単に付いてこられるはずがない。
その瞬間、正面に座るセイラの耳に、お馴染みの『ジジッ』という不快なノイズが走った。
それもそのはずである。
カイトたちの当面の目的は神父の陰謀を暴くことであり、それが片付いた今、次の旅に出る目的も理由も、今の彼らには特に存在しなかった。
カイトの言葉は、完全なるその場しのぎの嘘だった。
しかし、この危機的状況において、セイラの凄まじい勘がカイトの意図を瞬時に察知する。
彼女はカイトの嘘に、あえて全力で乗っかることにした。
「――っ、そうです! そうなんです、エレオノーラ様! 私たちはどうしても、今すぐ旅に出なければならない事情があるのです!」
セイラは立ち上がり、エリーへ向けてこれ以上ないほど輝かしい(しかし目が全く笑っていない)笑顔を向けた。
「エレオノーラ様には、デュミナス教のトップとして、国を支える大切なお仕事がたくさんありますよね? 流言飛語を避けるためにも、まさか私たちの旅に付いてきたりなんて、絶対にできませんよね?」
完璧な正論。
教皇としての義務を盾にした、セイラ渾身の防衛線だった。
カイトとセイラは、エリーの反応をじっと待った。
エリーは差し出していたクッキーを引っ込め、うーんと小さく唸りながら、しばらく真剣に考え込んでいたが……やがて、ぽんと手を叩いて顔を輝かせた。
「わかりました!」
(よし、諦めてくれたか……!)
カイトとセイラの胸に、一瞬だけ確かな安堵が広がった。
しかし、二人の希望は、続くエリーの斜め上の爆弾発言によって無惨にも粉砕されることになる。
エリーは隣に控えるシズクの方を振り返ると、極めてカジュアルに、とんでもないお願いを口にしたのだ。
「シズク、私が旦那様に付いて旅をしている間、教皇のお仕事を代わりにやっておいてもらえない?」
「なっ……!? エ、エリー、何を言って――」
「シズクなら、私の筆跡を完璧に真似てサインできるものね! 書類仕事はすべて任せました!」
「お待ちください! それは公文書偽造、いえ、教会の全権委任をあまりにも軽率に――っ!!」
頭を抱えて絶叫するシズクを余所に、エリーは「これで問題解決ですね!」と、再びカイトの腕へと幸せそうに抱きついた。
(だめだ、この教皇、権力を私物化することに一切の躊躇がない……!)
カイトは遠い目をして、さらに深くなっていくテーブルの亀裂を見つめた。
嘘つき魔道士のついた嘘の代償、そして最高権威の恋する暴風雨は、まだまだ収まりそうになかった。
「エ、エリー……それは流石に、職務放棄にもほどが……っ!」
シズクはあまりの無茶振りに頭を抱え、文字通り天を仰いだ。
だが、生真面目で頼りになる彼女は、幼馴染でもあるエリーの我儘にとことん弱いという致命的な弱点があった。
これまでもエリーの突拍子もない行動の後始末をすべて押し付けられ、なんだかんだと応えてきてしまった実績がある。
「……はぁ。分かりました、分かりましたよ。ですが、せめて公式な委任状にサインだけはしてください。それがないと、私が他部署の神官たちに突き上げられて不審死を遂げます」
「まぁ! ありがとうシズク、大好きよ!」
あっさりと折れて代理の仕事を了承してしまった側近の姿に、カイトの口からは「あはは……」と渇いた笑いしか出てこなかった。
(おいシズクさん、そこで折れちゃダメだろ……! 教会のトップの仕事ってそんなバイトのシフト交代みたいなノリで代われるもんなのかよ……!?)
これで、エリーが自分たちの旅に付いてくるルートが完全に確定してしまった。
このままでは、ただでさえ殺気立っているセイラと、暴走するエリー、そして自分がひとつの馬車に押し込められるという地獄のロードムービーが始まってしまう。
その時、カイトはハッと何かに気づいたように、対面に座るオレンジ髪の少女へガタッと身を乗り出した。
「ニコラ!! 頼む、頼むからお前も俺たちの旅に付いてきてくれ!!」
「えっ、僕!?」
椅子から転げ落ちんばかりの勢いで、テーブル越しに土下座せんばかりに頭を下げるカイト。
ニコラは元々、カイトの持つ前世の科学知識に脳を焼かれており、彼らが旅に出るなら同行して新たな魔導具を開発する気満々であった。
カイトたちと別れる気など毛頭なかったのだが、ここは少し優位に立っておくチャンスだと、フンと鼻を鳴らして胸を張った。
「まぁ、仕方ないなぁ。カイトがそこまで言うなら、付いていってあげてもいいよ? ほら、このままだとカイトの命が物理的に危なそうだし、僕が『緩衝材』になってあげよう」
恩着せがましく、しかしこれ以上ないほど頼もしい言葉をくれた相棒に対し、カイトの救われたような喜びは最高潮に達した。
「ニコラ、お前って奴は本当に最高の相棒だ――っ!!」
「わっ、ちょっと、カイト!? なに、いきなり――っ!?」
感極まったカイトは、勢いそのままにニコラをがっしりと抱きしめてしまった。
突然男の子に抱きつかれ、それも大リスペクトしているカイトの腕の中に収まったニコラは、顔を真っ赤にして完全に狼狽える。
――だが、カイトは忘れていた。この部屋にはもう一人、今まさに火山のごとく噴火寸前の少女がいるということを。
「……カイトさん?」
背筋が凍りつくような、極度に温度の低い冷たい声が個室に響いた。
ハッと我に返ったカイトがギギギと首を巡らせると、そこには、エリーへの嫉妬からニコラへの嫉妬へとターゲットを切り替えた、完全なる「夜叉」の笑顔を浮かべたセイラが立っていた。
ニコラの手前、怒りを無理やり笑顔でコーティングしている分、恐ろしさは大聖堂の時を超えている。
「あ、いや、これは不可抗力というか、ただの親愛のハグで――っ!」
カイトは慌ててニコラを突き放すように離し、両手を上げて弁明する。
そんな命懸けのコントが繰り広げられる中、一人だけ完全に別世界にいる美少女教皇――エリーは、満足そうにふふんと鼻を鳴らした。
「これでメンバーは決定ですね! 皆様、これからよろしくお願いいたします〜!」
エリーはそう言いながら、ニコラ、シズク、そして未だに殺気を放ち続けているセイラの手を、満面の笑みで順番にギュッと握りしめていく。
(この子……この修羅場の中で、なんでそんなに平然としてられるんだ……? メンタル強すぎだろ……っ!)
カイトは自分の胃壁が完全に崩壊していくのを感じながら、あまりにも強靭な精神を持つ教皇に、ただただ戦慄するしかなかった。




