8 デート
待望の夏休みに入り、馨はバイト漬けな日々を過ごしていた。仕事終わり、新規のシフト表を確認する。
「店長、私、もっとシフト入れるっすよ」
電ドラちゃんを出来るだけ早く買うために、とにかく稼ぎたい馨である。
「他のコとの兼ね合いもあるからね、これ以上は無理よー。
それに、馨ちゃん、貴重な高校生の夏休みをバイトだけで終わらせる気なのかしら?
青春なさい、青春!」
「せいしゅん」
中学時代、夕日をバッグに、敵校のボスを名乗る男子とタイマン勝負して、なんやかんや、最後に熱き友情を誓い合った謎の儀式。アレも、青春っちゃあ青春かもしれないけど、店長の言う”青春”とは絶対違う。馨は遠い目をする。
「好きな子とデートとか。プールとか。水着とかビキニとか」
と、共に仕事終わりの佐田が話に入ってくる。店長が心底ドン引きした様子で、
「佐田くんのその発想、陽キャ過ぎるわ〜」
「え、逆に他に何があるっていうんです」
「佐田くん、相容れないわ〜」
2人、相変わらず仲いいなぁと思いながら、馨はタブレットで退勤ボタンをぽちっと押した。
夕方前には叔父の家に帰り、洗濯物を片付けて、電子パッドをドラムスティックで叩いていると、スマホにピロンと、LINEが入った。
『こんにちは』と喋るお花の可愛らしいスタンプの後に、『夏休み、デートしない?』の文字。
デートというパワーワードに、馨はカッと目を見開いた。せいしゅんが今そこに!
***
デート当日。待ち合わせ時間の10分前に待ち合わせの駅前に行けば、綺麗な女の子がチャラそうな男2人組に絡まれていた。
「ね、俺達と遊ぼうよ〜」
「だから、友達と待ち合わせてまして!」
「それなら、そのお友達も一緒に〜」
ナンパだ。女の子は見るからに嫌がってるのに、しつけぇやつらである。
「彼女、嫌がってんのわかんない?
しつこいのだせぇよ」
「「・・・!、ヒィッ」」
ナンパ男二人は、馨の顔を見上げて、真っ青な顔になると揃って奇妙な声を上げ、逃げるように去っていった。失礼なやつらである。
「・・・馨ちゃん?」
「へあ?愛理ちゃん!」
綺麗な女の子は、本日のデート相手、田中愛理だった。馨は愛理を凝視する。高校では彼女はツインテールの可愛らしい髪型が多いが、今日は編み込んで後ろに一つにまとめているのが大人っぽい。口元が淡く色づいているのは色付きリップだろうか。白のTシャツの上に、オフショルダーの濃紺のワンピースは、彼女によく似合っている。素足に白のサンダルが涼し気だ。
「うぁ、スゴい綺麗可愛い・・・いつも可愛いけど」
「馨ちゃんてば!」
愛理は両手で顔を覆った。照れているようだ。
「馨ちゃんこそ、そのサングラス・・・っ」
今日の馨は長い前髪を後ろに撫でつけて、黒のキャップを被り、サングラスで目を覆っている。カーキ色のサマーニットに、黒のカーゴパンツ、黒のサンダル(全てメンズ)。
「ん、紫外線対策につけてけって、叔父が。ごめん、なんか怖いよな」
サングラスで眼光を隠せたのはよいが、より強面になったと自覚しているし、さっき逃げたやつらの反応から見ても確かだ。
「なんで謝るのっ!正直こわいけど、そこがカッコいいってゆうかカッコいいよぅ!」
きゃっと黄色い声を上げる。愛理ちゃん・・・店長とすげー話が合いそう。
「馨ちゃん、夏休み何してた?」
「バイトばっかだよ」
「カラオケ屋さんだよね。
馨ちゃんの店員さん姿見たい!今度、お客さんで行っていい?」
「勿論、大歓迎です。お客様」
「わぁい、絶対行くね!」
愛理と連れだって、取りあえず、ショッピングセンターへ。今日も陽射しがきっついなぁと思っていると、愛理が折り畳みの傘を拡げて、馨にもかざそうと懸命に腕を伸ばしたが、馨の身長では難しい。
「はは、ありがと。私が持ってい?」
「んー」
馨を見上げて、ちょっと悔しそうに頬を赤らめている愛理ちゃん可愛い・・・
相合傘をしているので、殊更、愛理の歩く速度に合わせるように歩く。公園を突っ切って向かうところ、音が響いた。ちょっとした人だかりができている。馨は足を止めた。
「ここ、路上ライブたまにやってるみたいだよ」と愛理。
「へ、え・・・」
路上ライブ・・・ライブかぁ!!そういや、いまだに行ったことないな!
惹かれながらも、愛理ちゃんとデート中だしな、と自制を試みる。
「ちょっと見ていかない?」
と、愛理が言う。
「え、でも」
「私も見たいからさ」
と言ってくれたので、二人で、人だかりの前面に出た。
路上ライブを繰り広げているのは、アマチュアの男三人組だ。ボーカルとギター、あと、何故か箱みたいなのに座っている男。いや、座っているだけじゃない、箱を掌でリズムよく叩いている。
三人組は、それから10数分ほど人気アニメソングをメドレーで披露し、見物人に拍手をもらっていた。馨と愛理も手を叩いた。
これが路上ライブ!
やっぱり画面越しより生で聞いた方が、よっぽど臨場感があって楽しい!!!
演奏が終わり、人だかりが解散する。三人組が片づけを始めたので、馨は日傘を愛理に預けると、箱を叩いていた男に慌てて駆け寄った。
「あの、ライブ凄く良かったです・・・
それで、コレ。この箱なんすか?なんか、ドラムと似ているような音が出てたので、気になって」
男はぽかんとした顔で馨を見上げ、へへ、と笑った。
「サングラスのおにーさん。これはね、カホンといって、箱型の打楽器だよ。
路上ライブでドラムをセットするの大変だから、ドラム代わりに使ってるんだ」
ということは、彼は本来ドラマーらしい。
「そうなんすね。すげぇ」
「・・・ちょっとだけ、音鳴らしてみる?」
「いーの?!」
はっとして愛理を見れば、日傘の下で、ニコニコして頷いてくれている。じゃ、じゃあ、ほんのちょっとだけー
結果として、ちょっとだけに終わらなかったのだが・・・。路上ライブの三人組が無茶苦茶気のいい人で、小一時間くらい、馨につきあってくれたのである。
それにしても、カホンは奥が深い。座り方から叩き方までコツがあって、ドラムとは違う難しさがある。おにーさん筋がいいと褒めてられたが。
「愛理ちゃん、この暑い中、待たせてホントごめんな!」
ここは土下座して謝った方がいいかとよっぽど思ったが、愛理はにこにこ微笑んで、ハンカチで馨の首筋を流れる汗を拭ってくれる。
「いーよー。楽しそうな馨ちゃん見てるだけで、楽しかったし!」
愛理ちゃん・・・君は天使か?いや女神だな?
「馨ちゃん、あんなに楽器に興味あるの知らなかったなー。知れて良かった!」
「え・・・へへっ」
この後、2人で、ショッピングセンターを回ってウィンドーショッピングや、ゲーセンで太鼓の達人とプリクラなどで楽しんだ。夕方から、近くの神社周りで屋台が出ているということで、向かう。
「お祭りがあるなら、浴衣着てくれば良かったー」とこぼす愛理。
「確かに、愛理ちゃんすげー似合うだろうな。見たかったな」
「うぁ」
屋台と人込みで賑わう中を歩いていく。
「人多いな。はぐれないように」
と言って、馨は愛理ときゅっと手を繋いだ。馨は完全に意識していなかったのだが、何故だか恋人繋ぎみたいになっている。愛理の心臓がきゅぅんと跳ね上がり、身体がふらついた。
「もー。私、今死んでもいい・・・」
「愛理ちゃん大丈夫?!熱中症?!」
***
後日。
「馨ちゃん、来たよ~」
「愛理ちゃん!山本さん、福山さんも!いらっしゃい!」
バイト先のカラオケ店に、愛理とクラスメートの女子がやってきた。事前に、愛理にシフト日を確認されたので、馨がばっちり応対できた。
「馨ちゃん、カラオケ店員さんの恰好凄く似合う~!写真とっていい?」
「へ?どーぞ?」
瞳を輝かせた愛理に、スマホでパシャパシャと写真を撮られる。それにつられて、山本、福山もパシャパシャし出した。高校の制服ーーセーラー服にスカート姿よりは圧倒的に似合っている自覚はあるが、そんなに?と不思議に思う。
彼女たちを部屋に案内し終え廊下を歩いていると、佐田がドリンクを運んでいるのに出くわした。
「ね、馨くん。さっきのかわいこちゃんと付き合ってるの?ツインテールの」
「かわいこちゃんは大事な友達っすよ、先輩」
「あのコ、絶対、馨くんのこと好きだよねー」
佐田が爽やかに微笑む。
「・・・先輩。私が女なの、ご存じです?」
「はは。ごめんね、最近、存じました」
悪びれずに言い切る佐田は、見た目の爽やかさからは計り知れない強メンタルである。
そして、最近なんすね・・・、とちょっと遠い目になった。




