6 タンデム
「有哉、有哉ー」
おじいちゃんが天井に向かって声をはりあげると、すぐに、淡いピンク髪の男がだるそうに階段から降りてきた。
彼は、おじいちゃんの浅葱色と色違いの濃灰色の作務衣を着ている。作務衣、この楽器店の制服なのかもしれない、と馨は思った。おじいちゃんは足に草履っぽいのを履いているのに対して、彼は黒のスリッポン。馨よりか、いくらか年上のように見える。
「なに、じいちゃん・・・お客さん」
おじいちゃんの孫らしい彼は私の姿を認めると、慌てて、ぺこりと頭を深く下げたので、馨も頭を下げた。おじいちゃんの孫とあって、礼儀正しいようだ。
「こちら、私の大事なお客さまだよ。
お前のバイクでひとっとびして、お嬢さんのバイト先に連れてってあげておくれ」
男は、は?と声を上げる。
「じいちゃん、いきなり何言ってんの?
そちらの・・・お嬢さんも、初対面の男とタンデム・・・バイクに二人乗りとか、普通に嫌だよね」
・・・バイク・・・タンデムだと???
そんなんーーー乗りた過ぎた。
馨は中学時代、バイクを無免許運転する輩も身近にいたものでバイクに憧れはあったが、警察沙汰になるのだけは御免なので、理性を総動員して誘いを断わったものだ。合法なら、ためらわない。
「乗りたいっす!よろしくお願いしますっ!!!」
「そ、そお」
男は馨の威勢のよさに若干ひきながらも、まあそういうことなら、と頷いてくれた。
この楽器店に入る時は、馨は前髪を耳にかけて瞳をさらしているわけだが、彼も馨の眼光は平気のようである。馨を真っ直ぐ見ながら、男が言う。
「一応、自己紹介しておくと。
芒有哉。じいちゃんの孫で、時々、仕事を手伝ってます」
「私は小林馨、ドラム叩きたくて、電子ドラム購入予定です」
と言うと、芒は目を丸くした。
「・・・ドラマーやりたいんだ?女のコで凄いな、カッコいい」
「そう!ドラマー凄いカッコいいっすよね!!
YouTubeでしか見たことないけど」
「・・・は?
ライブ、一回も見に行ったことないってこと?」
「ないっすね!」
「・・・で、もう電子ドラム買うつもりなの?アレ結構値段高いよな。決断早過ぎない?」
「そういやそうかも?
でも、ど〜しても叩きたくって!!
バイト代貯まるのかかりそうなんで、買うのはまだ先になりますが」
「ふーん・・・YouTubeねー。今時の若いコの動機って、そういうもんなんか」
今時の若いコって・・・言い回しがおじさんくさい。このおにいさん、私が思ってるよりも年上なんか?
それから、楽器店の裏にある駐車場に連れてきてもらい、彼のバイクをお披露目された。ばばーん!と馨の頭の中で効果音が響いた。
「有哉さん!むっっちゃかっこいいんすけど!なんすか、このバイクは!」
黒で統一されたクラシカルデザインの、二人乗り用大型バイク。バイクに詳しくない馨でも、無茶苦茶かっこいいと感じる。
「恋人とタンデムデートするのが夢だったという若気の至り・・・黒歴史の産物・・・実際には男しか乗せたことなかったなー。
あー。馨ちゃん。ほら、ヘルメット被って、グローブも」
馨がフルフェイスヘルメットを被り、グローブを手に嵌めるのにもたついている間に、すでに準備万端の芒がバイクに跨っていた。
おぅ、停車中のバイクに跨ってるだけで、有哉さんが無茶苦茶かっこよく見えるんだが。
「左側から、ステップに足を乗せて乗ってな」
「了解っす」
芒が足でしっかり踏ん張ってくれているので、安定して跨ることができた。意外と座り心地いい。
タンデムバイク、後方乗車。こんなん、テンション上がるしかない!贅沢をいえばドライバー役をしたいが、まずは免許をとらないことには・・・
「有哉さん、どこに捕まればいいっすか?」
「あー・・・ドライバーの腰が一番安定するかな。それから、膝でオレの腰挟む感じで」
と言うので、芒の腰に手を回して、遠慮なくくっつく。
おぅおぅ。おにいさん、見てくれより体がっしりしてんな〜鍛えてんの〜?と馨はおやじくさいことを思った。
「馨ちゃん、大丈夫そうだな。じゃ、出発しまーす」
「がんがんとばしてこっ!」
「・・・安全運転で頑張るねー」
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有哉さんが、マジで安全運転だった。彼の派手な髪色からして、乗り物に乗ったらど派手にかっ飛ばしてくれるタイプかと・・・(偏見)。
いや、乗り心地はほんとに良かった。ヘルメットが強くぶつかり合うこともなかったし、お手本のような滑らかスムーズな走行で、程よく風も感じられた。しかも、ちゃんと余裕でバイト先に間に合わせてくれたのに、これで文句を言うなんて、まさかそんな。
「タンデム初体験の、じいちゃんが贔屓にしてるっぽいお嬢さんを後ろに乗せて、かっ飛ばせるわけないよな???」
有哉さんが静かにお怒りです。私ってば、言葉にせずとも顔に全部出ていたらしい。
「じゃあ、また乗せてくれます?
次なら、タンデム初体験じゃないっすもんね!」
「はぁー考えとく」
芒は息を吐きながら、ヘルメットを脱いだ馨の頭をぐっしゃぐしゃになるまで撫でくりまわしていた。有哉さんの私の扱い、雑。




