3 バイト始めました
馨は1日考えてみた。
選択の一つとして、ドラム教室に通うことも考えてみた。早く上達したいから、しょっちゅう通いたいしな。スマホで検索して、相場のドラムレッスン料を調べてみたり、電子ドラムも色々調べてみた。
結論。やっぱり毎日家で練習したいし、電子ドラムを諦めきれない。
「電子ドラム?面白そうだね。
全然いいよ〜、ウチに置いてくれて。
部屋余ってるし、音も気にしないから」
翌日、仕事にひと区切りがついたという昭さんに相談してみれば、電子ドラムを家に入れて、練習すること自体はあっさり許可してもらえた。ありがてぇ。
「でも、電子ドラムってなんだか値段高そうだよねえ。他の楽器に比べても・・・」
問題は、電子ドラムを買うための資金の方だ。
「その・・・、私がほしいの、¥180,000、以上かかるんだ」
「わぁ~」
昭さんが目を丸くして驚いている。やっぱり、この金額だとそういう反応にもなるよなあ。高校生の趣味としては、お金がかかり過ぎる。そして、私は、こういったことで親に頼りたくはない。
「それで、自分でお金を調達したいから、学校にバイト許可証の申請しようと思ってるんだけど・・・
いい、かなあ?」
バイト許可の申請には、保護者の同意とかサインが必要で、昭さんは現状、馨の保護者代わりなのだ。昭さんは、しばらく口を閉じて、考え込んでいる。
「・・・そうだね。
馨ちゃんにやりたいことが見つかったのは良かったし、ほしいものの為に自分でお金を稼ぎたいっていうのは、とても立派なことだよ〜。
けど、学業との兼ね合いもあるし・・・僕は、馨ちゃんを預かってる仮の保護者に過ぎない。兄さん・・・馨ちゃんのお父さんお母さんに相談してからかな」
昭さんに言われたことは、もっともなことだ。親にドラムのことを言うのは昭さんに対してより気恥ずかしいが、遅かれ早かれ伝わることだし。
「わかった。父さん母さんに、ちゃんと相談する」
それで早速、スマホで父に連絡をとったら、
『喧嘩以外の趣味が見つかって良かったなあ!
バイトはしていいが、勉強も・・・赤点はとらないように、って母さんが言ってるぞ。
父さんも母さんもお前を応援してるからな!』
と、勉強の制約は最低限あるものの、賛成してくれた。
・・・喧嘩は断じて私の趣味じゃねーし、高校生になってからは一度も致してないんだけどなーと、馨はちょっぴり遠い目になった。
***
そういうわけで、小林馨、バイト始めました。
高校とは反対路線で一駅目の、駅近のカラオケ屋である。カラオケ屋を選んだのは、最近の流行りの曲を知りたいからだ。ドラムの練習動画などを見ていると、練習曲に使うのにちょうど良さそうなのである。
バイト先の店長との面接は、何を着ていけばいいのかわからず、高校の制服で挑んだ。
カラオケで働くとなると、客に絡まれることもあるが、大丈夫かと聞かれた。やんちゃ盛りな中学生限定で、喧嘩の仲裁も何度かこなしていて、修羅場には慣れている方です、とは流石に言ってはいけない気がする。物怖じしない性格ですとだけ馨は答えた。難しいなー、バイト面接。
その後、稼ぎたい理由を聞かれたので、電子ドラム約¥180,000を私だけのものにするためです!とドラム愛を叫んだら、その場で合格を言い渡されたのでびっくりした。どうやら、店長は音楽に海より深い理解があるらしい。
「店長。お客さん相手には、流石に顔出ししないとまずいっすか」
「・・・そういや、馨ちゃんの人柄とハスキーボイスが気に入っちゃって、顔もまともに見ずに採用しちゃってたわー。
こちとら接客業だしねぇ。ちょっと、顔見せてくれる?」
と言われたので、前髪をかき上げて店長に眼光を晒した。ちなみに店長は小柄な女性で、シュッとした美人さんだ。彼女は眩しそうに目を細め、至極残念そうに呟いた。
「私的には癖なのだけど、一般向けではないかもしれない。世界が間違ってるんだわ、嘆かわしい」
「店長・・・?」
どうしよう、店長の言っていることが全く理解できません。
「馨ちゃん!あなたはメカクレキャラよ!令和の昨今、メカクレキャラ流行ってるから!イケる!」
めかく・・・なんだって?とにかく、このまま、目元は隠し通せということらしい。
笑顔と勢いで強引に押しきられてしまった。芒のおじいちゃんといい、大人っていいひとに見えても、ちょっと油断ならないところあるよな、と馨は思った。
ここの制服は、シンプルに、白のワイシャツ、濃紺の腰エプロン、黒のスカート or スラックス。どちらを選んでもいいということで、スラックスにさせてもらう。
「じゃあ、早速、仕事内容の説明に入るわね。
最初はホールを担当してもらいます。まず、先輩の佐田くんを手伝って、部屋の案内、配膳、清掃を覚えてください。体力仕事だけど、頑張ってね」
「はい!佐田先輩、よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね、気負わずにいこう。
小林馨・・・馨くん、て呼んでいー?」
明るい茶髪の佐田は大学生だという。なんというか、爽やかで、フレンドリーな人だ。
「バイト、初めてなんだって?
少しずつ慣れてくれたらいいからね。わからないことがあったら、何でも聞いて!」
おう、いい先輩だ。
バイトは人間関係が大変とか聞いたことがあるが、馨にとって初めてのバイトで、とても恵まれた職場のようだ。
「わっ、馨くん、もうトイレの清掃終わったの?・・・ぴかぴか過ぎて眩しいっ!!」
「そんないっぱい食器詰んで、危なげなく運べるなんて・・・
馨くん、体幹どうなってるのー??」
愛しのドラムを想えば、体力が無尽蔵に湧いてくる。
頑張って稼ぐぞ!待ってな、私の電子ドラム・・・電ドラちゃああん!!!
〜♪〜
「先輩。今、店内流れてる曲、何ですか?なんかいい感じの曲っすね」
「あ、知らない?
毎週火曜ドラマ主題歌だよ!曲名はーーー」
馨は鼻歌を歌いながら、使い終わりのカラオケルームの片付けを続ける。
はぁー、早くドラム叩きてぇ!




