11 黒髪
さて。
今更な話だが、ドラムを演奏するにあたって、ドラム専用の楽譜が存在する。五線譜になっていて、音符の位置で叩くところが表されている。叩く部位の名称自体は、覚えやすかった。ただこれが、音符となるとなぁ・・・。
馨の現状。基本の三点(ハイハット、スネア、バスドラム)の音符は覚えたのだが、後はまだ覚えられず、今のところ、全く、覚えきれる気がしない。そもそも、馨は音楽の授業で、音符やら音階やら覚えるの、凄くすごーく苦手だった。
スマホで調べてみたら、まず頻度の高い三点を覚えて、続いてクラッシュシンバル、その他は練習してって必要な時に覚える、でいいらしい。じゃあーぼちぼちということで・・・、と放棄する。
それで、ここ最近は、ひたすら基本三点を使ったビート練習を繰り返している。
8ビートはだいたい正確に打てるので、4ビート。4ビートができたら頭打ち、裏打ち、16ビートと着実にバリエーションを増やしていく。
基本をひたすら繰り返しているだけだが、もう滅茶苦茶に楽しい。残りの夏休み、バイトで外に出る以外は、簡単な家事とドラム練習しかしていない。最高過ぎる。ここはドラム天国だな。電ドラちゃんさまさまである。
『夏休みの宿題終わらせた?』
「ヒィッ!!!!」
夏休み終了三日前、伊藤から上記のLINEが入り、馨はドラムスローンから崩れ落ちることになる。すっかりその存在を忘れていた馨は、徹夜で宿題にとりかかり、わからないところは伊藤にヒントをもらったりして、形だけはなんとか終わらせたのだった。
***
夏休みが明けて、下校時。駅を出て、さて家に帰って電ドラちゃん三昧するかと歩きかけていたところである。
「馨ちゃん、久しぶり。セーラー服、初めて見たけど可愛いね」
黒髪にスーツ姿の男に声をかけられた。
「どなたですか」
「楽器屋のおにいさんだよ」
「ピンク髪じゃない有哉さんは有哉さんじゃないっす」
「オレの本体、ピンク髪だった・・・?」
馨から仕掛けておいてなんだが、コレ、なんの茶番だ。楽しいからいいか。
芒はピンクの髪がやけに似合っていたから、黒くなって普通の好青年風なのが少し残念に思ったのは確かである。
ーーーそろそろ、本題といこう。
「有哉さん。私、ドラムそこそこ上達したっすよ!」
きっと芒を睨む。前髪をかきあげて、馨の眼光半端ないのではと思いながらも、ここはひけない。
「眼光眩しっ・・・
あー、もしかしてだけど、この前言ってたアンサンブル?したいの?」
「したいっす!!!」
ふんすふんすと鼻息を荒くして詰め寄ると、芒がははっと笑う。
「わかった、わかった。
店の防音スペース借りるのも肩身狭いってゆうか無粋だし、ドラムレンタルできるスタジオ予約しとく。いつにしよっか」
ドドドラムレンタルだと???
「電子ドラムじゃないやつ?!」
「・・・ああ、そっか、馨ちゃん、それも初めてか」
馨は勢いよく首を縦にふる。うちの電ドラちゃんには愛着はあるが、やはり本物のドラムとはモノが違うであろう。
初アンサンブルに、初スタジオに、初ドラム!!!
今からすでに鼻血出そう!
「スタジオ代出しますね!」
こういう時のためにバイト続けてるんで!
「・・・オレ、高校生に金出させるほど落ちぶれてないよ。
それに今回は、就活がうまくいかない憂さ晴らしも兼ねて遠慮なくはっちゃける予定だから・・・そんな生温かい目で見ないでくれるかなあ。
それで選曲なんだけど、なんかやりたい曲とかある?」
と聞いてくれたので、電ドラちゃんで今練習中の曲をいくつか挙げる。カラオケランキングにのるような流行曲が多い。完全にバイトの影響である。
「ふーむ。
それ用のバンドスコア(譜面)予め用意しとくから、楽器店に取りに来てくれる?
また連絡する」
就活疲れだろうか、芒が少しくたびれている様子だったので、馨は手を伸ばして、芒の頭をくしゃっと撫でた。いつかの仕返しともいう。
「うわぁ、有哉さんの髪パッサパサで、触り心地わるっ」
「染めたばっかで傷んでんだよ」
始めたのは馨だが、やけになったように馨の手に頭をぐいぐい押しつけてくるのはいかがかと思う。




