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10 カラオケ

 バイト勤務時、早速店長に報告したら、自分のことのように喜んでくれた。


「ドラム買えたの?

 まあ、良かったじゃない!! おめでとう!!

 お祝いしなきゃね!!!  


 ・・・ということは、 あら?馨ちゃん、うちのバイトやめちゃうの?」


 途端にしょぼんっとする店長、普段はびしっとした美人さんなのにギャップが可愛い。


「いえ! 今後もなにかとお金がいるかもしれないので。

  ドラム練習したいからシフトは少し減らしてもらいたいですけど、バイトは続けたいっす!」


「そう、良かったわ。馨ちゃんいないと寂しいし、ほんと頼りにしてるのよー。

 ところで、この前、馨ちゃんをバイクで颯爽と送っていったイケメン、彼氏?」


「・・・へ?いやいや、違いますよ」


というわけで、バイトは継続予定。


 今度、店の休業日に私のドラム購入祝いを兼ねて従業員カラオケパーティを開催すると、店長が張りきってくれていた。

 ドラム買ったとか完全に私事だから断ろうとしたところ、佐田に、店長はなにかにかこつけて、カラオケパーティを開きたがる人だからと言われた。そういうことなら、私はなにげに初カラオケだし、まだ人前で歌えるような歌のレパートリーも少ないので、聞き役に徹しようと思う。


***


 楽器店におじいちゃんの顔を見に行きました。


「おじいちゃん、腰の調子どうっすか?」


「お嬢さん。

 心配かけたね、すっかりよくなったよ」


 おじいちゃんが笑顔で出迎えてくれる。


「それで、ドラちゃんの調子はどうだい?」


「絶好調!もう毎日叩けて、ドラム漬け最高だよ!!」


「それは良かった」


 おじいちゃんは椅子に座るようすすめてくれたので、2人とも座って、話を続ける。


「お嬢さんは今のところは一人でドラムの練習をしているだけで、満足なのかな」


「とにかくドラムをカッコよく叩きたいってだけで始めたから、そうっすね、楽しいっすね!」


  馨には、今のところ、電子ドラムというお高い買い物をした割には無計画というか、なんら先の目的がない。そりゃあ、電子ドラムではない本場のドラムを叩いてみたいし、愛理ちゃんにもちゃんとお披露目したいという目先の欲望はあるのだけど、その先が見えていない。


  例えば、もしも音楽活動っぽいことをするとして、ドラマー一人では成り立ちにくいのだろうか。そこで音楽仲間を集めて、バンド結成とか・・・?馨にはよくわからない世界過ぎて、踏み出せる気がしない。そもそも、目立つこと自体あまり好きではないのもある。

 それはそれとして、アンサンブルとかセッション(即興演奏)はやってみたいと思っている。カッコいいし、楽しそうだから!!!


 ・・・そういえば、有哉さんとバイクのタンデムだとかドラムとギターでアンサンブルするって話はどうなったのかなー?

 本日は彼は店にいないのかと、天井を見上げた。


「・・・孫なら、最近は就職活動に目覚めて、忙しそうにしているよ」


「えっ。有哉さん、おじいちゃんの店継ぐわけじゃないんだ?」


 電子ドラムの組み立てとか、そりゃあもう逞しかったっすよ?


 「私としてはやぶさかではないんだが、有哉がなぁ。もう、じいちゃんにべったりしたくない年頃なんだろう。自立するのは、良いことだよ」


  そう茶化して言うおじいちゃんは、どことなく寂しそうに見えた。


***


 バイト先の休業日。カラオケパーティに集まったのは、店長、佐田、たけちゃん、馨、とシフトが被ってよく一緒に働くメンバーなので、気楽ではある。

 勿論、他にも従業員はいるのだが、せっかくの休業日、予定が他にあるらしい。また、わざわざ休業日に職場で過ごしたくないと言いきる猛者もいて、店長はひそかに泣いたらしい。


 参加人数は4名だが、20名くらいが使えるだだっ広いカラオケルームを贅沢に使うようだ。こういう時こそ職権乱用!と店長が嘯いていた。

 仕事ではないので、皆、私服のままだ。とはいえ、本日も店長はスーツにパンツ姿でびしっと決まっている。「カジュアルな爽子さん(店長)も見たかった」と呟く佐田も、白のブラウスに黒のスラックス、黒のスリッポンとびしっと決まっているような。たけちゃんは、ゆるゲームキャラのデザインが入ったTシャツにデニム、深緑色のスニーカー。馨は黒のパーカーにベージュのカーゴパンツ、サンダル、全てメンズ。


「えー・・・この度は、馨ちゃん念願のドラム購入を祝してー乾杯!」


 店長が祝杯をあげる。佐田とたけちゃんがぱちぱちと拍手をしてくれた。へへ、ありがとうございます。


 ちなみに成人済な店長と佐田はノンアルカクテル、馨とたけちゃんはコーラとアップルジュースで乾杯した。テーブルには、店長が近隣のスーパーで買ってきた、菓子やスナック、アイス、おつまみ系の総菜が並ぶ。キッチン担当&料理男子たけちゃんに調理させない配慮である。


「じゃあ、トップバッターは主賓の馨ちゃんで」


「私はタンバリン、タンバリンを叩きます、打楽器大好きなんで!」


 私とてさすがに一曲ぐらいは歌おうと思っていたが、初カラオケメンバーで最初に歌うのは厳しい。

 カラオケルームに常備されている、唯一の楽器であるタンバリンを手にとる。タンバリンは皮なしタイプで、振ったり、フレーム部分を叩いたりして音を鳴らすものだ。

 余談だが、カラオケ屋によっては、ギター、ベース、ドラム、キーボードなどが常備されてレンタルできるところもあるらしい。馨の行ける範囲のカラオケ屋にないだけで。


「なら、僕と店長でなんかデュエットしちゃいます?

 採点もつけて、高得点を狙っていきましょう!」


 佐田の機転により、店長と佐田のデュエットが始まる。二人とも席から立ちあがると、テレビ画面の前に立ち、マイクを構える。ぱちぱちぱち。

 人気アニメのオープニング曲である。男性ボーカル二人のデュエット曲で、テンポが急に変わったり、早口になったりと難しそうな曲だ。採点機能をonにしたので、画面の上部に音程バーが映し出されている。

 店長は上のパートを担当、大きく音を外しがちだが、声量が凄まじくとても気持ちよさそうに歌っている。佐田は、音程からそれないように慎重に歌っている。

 採点結果は、86点。わーぱちぱちぱち。高得点だと思ったが、店長は少し悔しそうだ。佐田は苦笑していた。


 普通に聞き入っていたので、タンバリンを鳴らすの忘れてたなあと思いながら、店長チョイスの焼き鳥三本目をほおばる。程よい焦げ具合が香ばしく、美味い。なんか、カラオケよりメシ食いにきたみたいだなあ、私。馨の隣のたけちゃんはというと、そこにあるアイスやらチョコやらポッキーやらで手早くパフェを完成させて黙々と食している。流石、たけちゃん、美味そう。私にも後で作ってもらえないだろうか。


「たけちゃんはなに歌うの?」


「えっと・・・」


 たけちゃんの選んだのは、女性歌手が歌うCMソングである。曲が始まり、たけちゃんは慌ててマイクを持ち、座ったまま歌い出す。話し方がのんびりの彼だが、歌においては滑舌が無茶苦茶いい。高音も伸びやかで、歌い慣れているのか余裕がありそうだ。

 ・・・この曲、4つ打ちビートだなと気づいたので、タンバリンに手を伸ばす。曲のリズムに合わせて、タンバリンを鳴らす。手首じゃなくて、肘で振るといい感じ。ヤバい。タンバリン鳴らしてたけちゃん応援してるだけで、凄い楽しい。全身全霊でタンバリンを振ってしまった。

 たけちゃんが歌い終わった採点結果、96点だった。凄いなたけちゃん?!


 いやしかし、タンバリンうるさかったかもしれないと、ここに来て思い至った。普段ドラム練習してると大きい音量になれてるから、そこらへんの感覚が麻痺っているのだ。


「たけちゃん、ごめん!タンバリンうるさかったよね、やめるよ」


「ううん!・・・馨ちゃんのタンバリン・・・すごくのりやすくて・・・僕、96点とれたのも初めてなの・・・また、おねがいしたいな・・・」


「本当ね。たけちゃんの歌が上手かったのは勿論なんだけど、タンバリン凄かったわ!」


「ドラマーがタンバリン振るとヤバいんだね。なんか、別の楽器みたいに聞こえたよ」


 佐田先輩、私をドラマーと呼ぶには気が早すぎっす・・・嬉しいけども!


 皆からタンバリンを大絶賛されて、調子に乗った馨は、ひたすらタンバリンを夢中で振り続け、場を盛り上げたのだった。

 タンバリンを握っていたところが内出血し、翌朝、青く変色してびびるほどだったが、タンバリン役が死守できて本望である。


***


 次のシフトで、店長にちょっと絡まれた。


「馨ちゃん、この間、結局、一回も歌ってなかったわねー。タンバリンは流石だったけど」


「あは。みんな歌うまかったから、なんか歌い出しづらくて・・・店長になら、いつでも聞かせますよ?」


「それどーゆう意味・・・、

 っ?!」


 店長の耳元で、最近覚えたばかりの歌のサビ部分を口ずさむ。カラオケランキング上位にあたる、男性ダンス&ボーカルグループの珠玉のラブソングである。

 音程はそう気にせず、想いを乗せるようにして歌う。馨は人に恋する気持ちがわからないから、ドラム愛を乗せてみた。

 短くサビ部分だけだったが、歌い終わってみるとなんか非常に恥ずかしいといいうか、気まずいというか。こんなアカペラより、カラオケでタンバリンで紛れさせた方が誤魔化しがきいたのでは・・・私、何やってんだと今更ながら思う。

 店長はといえば、掌で耳を抑えて身悶えている。


「みみっ、耳が妊むぅっ・・・」


「み・・・?はら・・・?店長?」


 店長は、時折、馨が知らない言葉を使う。

 その日、店長はろくに使い物にならなくて、佐田がフォローに走っていた。



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