7等星
そんなセミの声がうるさいほど響く夏のある日。俺はイノリと図書室の貸し出し受付にいた。木ノ下高校は夏休みも図書室を開放している。ユイはというと、
「ごめーん。図書当番のこと忘れてて友愛と真裕と遊ぶ約束いれちゃった。」
とのことだ。幸い夏休みにわざわざ学校にきて本を借りようといった生徒もいないので、二人でも全然苦はなかった。
「そろそろ、片づけてかえるか。」
まだ閉めるには少し早かったが生徒は俺とイノリしかいなかったので、イノリにそう提案する。
「そうですね。」
二人で適当に片づけを済ませて帰ろうとする。
「またな。イノリ。」
そう言って図書室をあとにしようとしたが、
「あの、ナツさん。」
イノリに呼び止められた。俺は振り向く。
「あの、帰りに本屋さんに行こうと思っているのですが。ご一緒にどうですか。」
まさかイノリから誘われるなんて初めてで思いもしなかったので驚いた。
「あー、いいよ。」
俺はうなずく。。
本屋に着いて、一時間程本を見て回り、イノリは文庫本を二冊購入した。家までの帰り道。イノリが口を開く。
「ナツさん、実はお話があります。ここではなんですのでうちに来て頂けませんか。」
俺はうなずく。
イノリの家は豪邸とも言えるような大きさだった。前に一度だけユウキの家を見たことがあるがそれに負けず劣らずの家だ。
俺はリビングに通され、冷たい烏龍茶を差し出される。
「ありがとう。」
俺は一気に飲み干す。すぐにイノリが新しく注いでくれた。
「誰もいないのか。」
「父は普段、イギリスで働いていて母はアメリカで働いています。ほとんど日本には帰ってきません。」
「そうか。」
俺は相槌をうつ。
「私、もうあと二年の命なんです。」
ふいにイノリが言う。
「心臓が欠陥品でして。もともと二十歳までは大丈夫だろうとのことだったんですが。ここにきて進行が早まりあと二年ほどと言われてしまいました。手術すれば伸びるかもとのことなのですが、そうすると一生入院生活を余儀なくされるとのことでした。両親は金ならあるとのことですぐに手術することを決めました。私の意見なんてどうでもいいのです。ここで手術させなかったらイメージが悪くなり世間体がと考えているのです。私は、手術は受けるからこの一年だけ自由にさせて欲しいと頼みました。最初は反対していましたが私が折れないと分かったのでしょう。しぶしぶ了承してくれました。私はいわゆるお嬢様学校に通っていたのですが、普通の生活がしたかったので県立の木ノ下高校に転入しました。待っていたって私はあと二年で死んでしまうのです。たとえ生き残ったとしても一生入院生活を送るくらいなら死んだ方がましです。なので、ナツさん、私を殺してください。今すぐとは言いません今年中に決心がついたら、お願いします。」
なぜ、俺なんだ。俺は何も答えない。答えられない。ユイの時もそうだが、返事の正解がわからない。死ぬなんて言ったらだめだよ。生きてればいいことあるよ。そんな無責任なこと俺には言えない。
「返事はいまでなくていいです。」
イノリはいつもの調子でそう言った。
俺はイノリの家をあとにした。
フィクションだから。




