97
「なんてこったい!」
スフィリアはテーブルのカードを見つめて3回目の悲鳴を上げた。
目の前ではエルディアが、にんまりと目を細めている。薄く引き上がった唇は完璧にその状態で固定されており、感情を読み取ることは難しい。
「連続で3回! ありえない、なにをしたんだい!?」
――数十分前。
スフィリアが選んだのは「ドラコゲーム」という、カードゲームだった。
その提案をされたとき、エルディアは聞きなれないゲームの名前に首を傾げた。
「ドラコゲーム?」
「ああ、『ラトロゲーム』って言った方が分かるかい?」
「あ、そっちなら分かるわ」
スフィリアがゲームの名前を言い換えると、エルディアはポンと手を打った。
ラトロゲームならよく知られたカードゲームだ。
スフィリアの手の中のカードをエルディアは受け取った。
「花、クルミ、葉、ハートのカードに、王様と女王様と騎士、それと1から7までの数字がふってある、このカードでやるゲームだよね?」
「よく知ってるじゃないか。そうだよ、順番に相手より強いカードを出し合って、出せなくなった方が負けっていうゲームさ」
「これくらいなら、酒場のおやじどもがよくやったのを見てたもん」
その答えにスフィリアはにやりと口角を上げた。
口ぶりからしても、エルディアはカードゲームのルールを知っている程度で大して強くもなさそうだ。
対するスフィリアはこの村でも指折りのプレイヤーだ。
「そうそう。切札のルールは分かるかい?」
「ディーラーがプレイヤーに5枚ずつ手札を配るときに、それぞれの1枚目だけ表にするんだよね?」
「そうだよ。公開されたカードの弱い方が、その回の『切札カード』になるんだ」
好きなゲームができるとあって、スフィリアはどんどん饒舌になっていく。
相手が初心者でも勝負は勝負だ。
今日1日、ただ働きが確保できそうだ。
「『騎士』は悪党、『5』は悪魔、『3』は精霊、『1』は大司祭に代わる。この4つは王より強くなって、切り札カード自身もこの順番で序列が決まっている」
「王より強い切札が1回戦ごとに追加されるけど、切札そのものにも序列があるってことね。そうか、この村じゃ最強の切札『悪党』が『竜』ってことか!」
「いいよ、飲み込みが早いじゃないか!」
嬉しそうにスフィリアが手を叩いた。
早速ゲームに入ろうかというときに、ラスティがエルディアからカードを取り上げた。
物珍しそうにカードを眺めて、自分でも切ってみる。
「ねえ、カードを配るのはこっちでやってもいい?」
「おやおや、お嬢ちゃんが配るのかい?」
「うん! やらせて!」
2人が協力してイカサマを企んだとしても、スフィリアには見抜ける自信があった。
なんなら、そのくらいは目を瞑って遊んでやるくらいの気持ちだったのだ。
その結果がこの3連敗だ。
5回戦のうち3勝したほうが勝者になるというルールなので、スフィリアの完敗だ。
一方のエルディアだって、意味ありげに笑っているだけで全く状況は理解できていない。
ラスティが配ったカードが不自然にエルディアに有利だっただけだ。
要するにエルディアもスフィリアもおかしいとは思っているのに、どうしてそうなったのかが分からない状態だ。
(この小娘が妹に指示を出しているのは間違いないんだ。一体どうやって?)
1回戦目は偶然だと思った。
ビギナーズラックはよくあることだ。
だが3回連続は、スフィリアの言った通り「ありえない」。
エルディアはエルディアで、無邪気な顔でカードを切っているラスティを見て息を吐いた。
(……こいつが何かしてるんだろうけど、全然トリックが分からないわ)
情報を得るときに相手のプライドをぺちゃんこにしてしまって、良いことなんて1つもない。気持ちよく話してもらってこそだ。
「あんた、薄々知ってたけど、本当に負けず嫌いね」
「なんか文句あるのか?」
「ないけど、やりすぎ」
その会話にスフィリアは唖然とした。
イカサマの主導はエルディアではなくラスティの方だと気が付いたからだ。
「なんて見事なカード捌きだい!! 全然分からなかったよ、どうやったんだい!!」
生粋のギャンブラー・スフィリアは、イカサマされたことよりもその手管に魅了されたようで、ラスティにぐいぐいと詰め寄った。
「おばあちゃん、情報交換だよ?」
「ああ、いいとも! 何が知りたいんだい、何でも聞いておくれ!!」
2人のやり取りにエルディアは、ゲーム開始時と同じように肩をすくめた。
どうやらスフィリアは「気持ちよく」話してくれる気になったらしい。
「王家の運び屋」メモ:
ラトロゲーム(この国で流行っているカードゲーム)
・サンダクラプ村ではドラコゲームと呼ばれている。
・ルールの参考にしたゲームは「カルノッフェル」というトランプゲームです。




