95
「……なんだ、結局何もわからなかったのか。残念だったのぅ」
「まあ、それは気にしないで。他の情報を探してみることにしたから」
翌朝、子どもたちに物語を聞かせる準備をしていたキールに、エルディアとラスティが声をかけた。
キールは手がかりが得られなかったことを聞くと、エルディアたち以上にがっかりして眉を下げた。その顔にエルディアは思わず笑ってしまう。本当に竜騎士が好きらしい。
手を止めて息を吐いたキールに、エルディアは近くで買ったテイクアウトのコーヒーを差し出した。
「これ、お礼」
「おや、悪いね?」
「ううん。もう1つ教えてほしいことがあるから、気にしないで」
情報のお礼にコーヒー1杯は少なすぎるのではないか。そんなラスティの懸念などつゆ知らず、キールは美味しそうにカップに口をつけた。
「はぁー、うまいのぅ。で、何が聞きたいんじゃ?」
温かいコーヒーにほっと一息ついてエルディアに向き直った。
エルディアがふと周りに目をやると、キールの話を聞きに来る子どもたちが集まり始めている。
手短にすませよう。
「この辺で薬屋とか薬師をやってる、とにかく薬草に詳しい商売の人はいない?」
「薬草に?」
「うん。できればこの村で昔からやってる人」
キールは少し瞬きしたが、すぐにポンと手を打った。
どうやら心当たりがあるようだ。
「それなら、スフィリアが良いじゃろ。あれは代々この村で薬屋をやっておるしな」
「いいわね! どこにお店があるの? 急に行っても平気?」
まさにうってつけの人物に、エルディアはパチンと指を鳴らした。
食い気味にキールに詰め寄ると、後ろからラスティに服を引っ張られた。
「落ち着け!」
「わっ!」
さすがに老人のキール相手に、これまでのように妬いてるわけではない。
あまりにエルディアが前のめりなのでつい手が出ただけだ。
(そう、それだけだ)
誰に言うでもなく、ラスティは心の中で言い訳をする。
急に後ろに引かれたエルディアはラスティを振り返ると、その頬を左右にみょーっと引っ張る。
「なにすんのよ!?」
「落ち着けって言っただけだろ! じいさんがびっくりしてるじゃねぇか」
「まあまあ、ケンカはやめなさい」
キールは口の悪い姉妹の口喧嘩を笑いながら宥める。
そしてラスティの頭をなでながら、空いている方の手で道の向こうを指さした。
「スフィリアの店はあの道を右に曲がったところじゃよ。赤い屋根の店だから、すぐにわかるじゃろ」
キールの示した方向をエルディアが確認して頷いた。
ラスティはキールを見上げると小さく礼を言う。
「ありがとう」
「いいんじゃよ。ところでラスちゃんは飴を食べるかね?」
「……う、うん。ありがとう」
ラスティはキールから飴を受け取ると複雑そうな顔でそれを口に入れた。
安定のおやつハンターだ。
「スフィリアさんのお店ね? おじちゃんの名前を出してもいい?」
「ああ、いいとも。なんならブルーベルのことも出していい。すぐにお嬢さんに協力してくれるだろうよ」
キールの話ではブルーベルも小さいころからスフィリアに世話になっていて、ブルーベルがジャンポネイルの地形学者のもとに行ったことも知っているらしい。
「地元の研究をしているといえば、協力してくれるはずじゃよ」
「助かるわ、ありがとう!」
重ね重ね、ブルーベル様々だ。
薬師から修道女、修道女から神殿にうまくつながることを期待しながら、エルディアはラスティの手を引いて、スフィリアの赤い屋根の店を目指して歩き出した。
「今度は当たりだといいんだけど」
「焦るなよ。次がだめでもまだ時間はある……」
「……分かってるよ」
見上げたラスティの目の色に、心配そうな気配を読み取ってエルディアは苦笑した。
思った以上にラスティがエルディアのメンタルを気にかけている。
「昨日ゆっくり休んだし、もう大丈夫だよ」
「そんな話、してないだろう」
「こき使うんでしょ? 遠慮してどうすんの」
エルディアの夕焼け色の目と、エルディアの後ろに広がる青空が妙にきれいだった。
ラスティはエルディアの笑顔からふいっと目をそらした。
耳が熱い。
エルディアに気が付かれてないことだけが救いだった。




