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ノスタルジックな鍋料理を堪能して、2人は宿に戻った。
ジャンポネイルのような部屋付きの露天風呂は当然なかったが、大浴場というものがあるらしい。
それと、貸切風呂。
「ねぇ、ここのお風呂も入っておく?」
竜気を溜めるにはジーンの家の温泉しか意味がないのかもしれない。
それでも、アランが言うにはここのお湯も『特別な電流』とやらが流れているらしいので、温泉ならなにか効果はあるかもしれない。
そんなことを計算してラスティに声をかけると、ラスティは少し考えるようにして首をかしげた。
「おまえはどうするんだ? 一緒に入るのか?」
「入んないわよ!!」
つい数日前までなら、むしろエルディアが提案していただろうに。
――良い傾向だ。
「ふーん?」
「あんた、本当にかわいくないわね!」
「かわいいって思われてる方が、おかしかったんだからな?」
ぎりぎりと拳を握りしめるエルディアを、ラスティが鼻で笑った。
それはそうとして、温泉だ。
「大浴場ってなんだ?」
「みんなで入れるお風呂ってことみたいよ?」
部屋に置かれた案内のパンフレットを見てエルディアが応える。男女は分かれるものの、複数人が入れる大きな風呂らしい。
ラスティは小さく頷いてタオルを手にして扉に手を掛けた。
「待てーい!!」
「うわぁっ!」
思わずエルディアが襟首を掴む。
急に後ろに引かれてラスティがバランスを崩した。
「なんだよ?」
「なんだよ、じゃないわよ! どこに行く気なの!?」
「大浴場だろ?」
エルディアに詰め寄られて、ラスティがきょとんとする。
エルディアは盛大に息を吐いた。
「バカなの? ダメに決まってるでしょ!!」
「なんでだよ」
「危ないでしょうが!!」
エルディアがラスティの鼻先に指を突き付けた。これは絶対に譲れないと、強く言い聞かせる。
「あんたが本来はちびっ子のかわい子ちゃんじゃないことは分かったよ。だけど、現状はちびっ子なの!!」
「大袈裟だな。田舎の風呂場だろ?」
「あんたんちは油断できないのよ!」
エルディアだってなんでもかんでもダメと言うつもりはない。
ただ、自分が付いていけないところに、丸腰の子どもを放り出すなんて怖すぎる。
「入るなら貸切の方にして!」
「おまえ、ギュバンスより過保護だな」
「あんたは、なんでそんな呑気な子になっちゃったのよ! 前はもう少し警戒心があったでしょ!」
エルディアが大袈裟に嘆くとラスティは心外そうな顔をした。
なんでかと聞かれたら答えなんて決まっている。
「おまえの影響だろうよ」
「やめてよ、人のせいにしないで!」
エルディアは自分の耳を手で塞ぎながら首を振った。
かわいい顔をして、だんだんと雑な感性になっていくのが自分のせいだなんて認めたくなかった。
「まぁ、いいだろう。分かったよ、貸切な?」
「本当に、勘弁してよ」
「で、そっちだったら一緒に入るのか?」
ラスティが面白そうに首をかしげる。
その小さな悪意にエルディアのこめかみがぴくりと動いた。
(こ、この男、わざとやってる!!)
それでも怒鳴り返すくらいしかできないのが口惜しい。
エルディアはラスティの頬をみょーっと伸ばして、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「は い ら な い !」
「そんな顔するなよ、冗談に決まってるだろ?」
けらけらと笑うラスティは、憎たらしいことこの上ない。
「ほんっとに、かわいくない!!」
エルディアの負け惜しみを軽く流して、ラスティはパンフレットの貸切風呂の案内を見た。受付をして空いていれば入れるようだ。
「昨日のアレが1日だけのことかも確認したいし、外が見える風呂の方がいいな」
2つある貸切風呂から、露天風呂を選ぶとエルディアにパンフレットを渡した。
エルディアはラスティの選んだ風呂を確認すると、複雑な顔で頷いた。
「また、戻ったらどうするの?」
「どうもしねぇよ。仮に戻ったとしても、朝にはどうせチビになるんだろ」
ラスティは大して期待はしていない。
ジーンはやたらと「満月」にこだわっていたから、大事なのはそっちの方だろう。
「念のための確認だよ」
「そうだろうけど……」
「……安心しろ」
エルディアの動きがいまいち鈍いので、ラスティは下から見上げてニヤリと笑った。
「なにもしねぇから」
「そんなことは心配してないよ!!」
――
案の定というべきか、貸切の露天風呂に入り、月を見上げてみたがラスティの体に変化は現れなかった。
「やっぱり、昨日の晩だけなのか……」
風呂上がりにラスティは自分の小さな手を見つめて呟いた。
そこから少しはなれた場所で、エルディアは長い息を吐いた。
「いやぁ、残念だったわね? まぁ、しょうがないよね? うん、しょうがないよ!」
心配だと付いてきて、脱衣所でずっと背を向けて待っていたエルディアのわざとらしい声に、思わずラスティは半目になった。
「いつ、どんな条件が揃ったら戻るのかは、まだ分からねぇんだからな?」
脅すようなラスティの言葉にエルディアの目が泳いだ。




