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昼食を食べながらやいのやいのと言い合っていた2人だが、ついにエルディアは堂々と宣言した。
「昨日のことは忘れる!!」
「ああ、もう、そうしておけ。なんで戻れたのかも分からないし……おまえが、いつまでも挙動不審なのも困るしな」
「挙動不審じゃないわよ!」
エルディアの提案にラスティが意地悪く目を細めた。
痛いところを突かれたエルディアが噛みついてきたが、決まりが悪いのを誤魔化しているだけなのでラスティには全く効果はない。
「怒鳴るなよ。分かったよ、一旦なかったことにしておこう」
「そう! なかった! なーんにもなかったの!!」
エルディアはさっさと昼食の後片付けをすると、ドラコニスにまたがりグリップを握り締めた。
ラスティはやれやれと息を吐く。
(そういうことにしてやってもいいけど……)
それでエルディアが納得するなら付き合ってやるが、そう簡単になかったことになんてできるわけがない。
その証拠に、ラスティが発進に備えてエルディアの腰に手を回しただけで、エルディアの体は、また僅かに硬直した。
(まあ、これはこれで面白いから、いいか)
その強がりも見ものだと、ラスティはエルディアに見られていないのをいいことに唇を引き上げた。
まだ緊張の残るエルディアの腰に、力を入れてもう一度抱きつき、そのまま声をかける。
「ほら、行くんだろう」
「そ、そうだね。行くよ!」
ドラコニスでスピードに乗っている間は、なにもかもを忘れられるのだろう。
エルディアはステップをぐっと踏み、車体を安定させると、ペダルを爪先で弾きギアを入れて速度を上げた。
頬にあたる少し冷たい風が心地よい。
エルディアがジャンポネイルからほぼ1日くらいの距離だと計算した通り、明け方にジャンポネイルを出発した2人が、サンダクラプ村に到着したころには、空はすっかり夕暮れに赤く染まっていた。
田舎の小さな村に検問所などあるわけもない。
木柵に囲まれた村には入口らしき場所に簡易的な門があるだけだった。
エルディアとラスティはドラコニスから降りると、車体を押してその門をくぐり抜ける。
ジャンポネイルと同じようにこの村にも温泉が湧いており、くるりと見渡しただけでもあちこちから湯気が立っていた。
「だいぶ日が落ちたし、さっさと宿を見つけよう」
「ああ、そうだな」
小さな村なので、宿はすぐに見つかった。
幸い訪れる人が多い時期でもなかったようで空き部屋もある。
エルディアはいつものように部屋を指定して、カウンターから鍵を受け取り、ラスティを連れて部屋の扉を開けた。
部屋はシンプルな造りで、窓際に小さなテーブルと椅子が1セット置かれている。
そして部屋の大部分を占めているベッドは2つだった。
ラスティが思わずエルディアを見上げると、エルディアは言い訳をするように早口でまくし立てた。
「だって、この宿、ツインしかないっていうから! 本当にそれだけだし、意味なんかないわよ。いや、ジャンポネイルの貴族用の宿みたいにでっかいベッドがないから2人で寝るのとか絶対無理だし、しょうがないじゃない?」
「何も言ってないだろう。どんだけ焦ってんだよ」
エルディアがあまりにも切羽詰まった顔で正当性を主張してくるので、思わずラスティは噴き出した。
エルディアは、ぐっと言葉に詰まってラスティから視線をそらして、部屋にずかずかと入って荷物を椅子の上に乱暴に置いた。
「とにかく、早く入んなさいよ!」
「八つ当たりすんなよ」
「してないわよ!」
全然なかったことにもできていないし、忘れられてもいない。
それがおかしくてラスティは口元が緩むのを抑えられなかった。
エルディアから見えないように目をそらしたが、きっとエルディアには気付かれているだろう。
エルディアの舌打ちが聞こえた。
「ほら、荷物置いたんだから、さっさと夕飯食べるところを探しに行こう」
「分かったよ。急かすなよ」
これ以上、突っついても面倒くさそうだったので、今日のところはこの辺で勘弁してやることにして、ラスティはエルディアに頷いて見せた。
ラスティがこれ以上は触れてこないと分かったのか、エルディアは体の力を抜いて息を吐いた。
「昔から湯治に使われていた場所みたいだから、宿はここだけだけど、料理屋は結構あるみたいよ。行ってみよう?」
「ん。1日移動だったからな。今晩はゆっくりして、神殿やらなにやらは明日聞きこめばいいだろう」
「そうだね。明日、ブルーベルのお祖父さんのところにも行ってみよう」
いつもの調子を取り戻したエルディアが、明日からの予定を組み立てながら宿屋で教えてもらったという料理屋の場所を確認して、ラスティを連れて外に出る。
2人が到着した時は、夕暮れに真っ赤に染まっていた村も、今は薄闇に包まれていた。
宿とは目と鼻の先にあるその料理屋の入口に置かれたランタンは、仄かな光を放っており、営業中であることを伝えている。
2人はサンダクラプ村のどこか懐かしいような郷土料理を、ほっと息をつきながら楽しんだ。




